Scene5:『美しき鱗粉を纏う娘が、門前払いするんだが』
「私のことを苗字で呼ぶな。私のことはパパと呼べ」
…ポツリ…。
私は、門の前に、ひとりで立っていた。
丘の上にある、ちいさな家。
まるで妖精が暮らしていそうな、
優雅な雰囲気を湛えていた。
ここには、娘の一人が住んでいる。
彼女は、[霊改型]LC-04。
名を、カナクプリア。
その意味は、"黄金のように愛される娘"。
………いや、今は金色姫と
名のっているんだったか。
かつて私は、ランプに封印された、
ジン(ランプの精)であった彼女を
発見・回収した。
そしてジンの研究は終わったので、放逐した。
……つまり、わたしは彼女を
"ランプの魔神"という鎖から、
解き放ち自由にしたのだ。
——なんという美談……。
《研究が終わって用済みになっただけである。
彼は自分に都合のいいように、
記憶改変していた》
彼女は喜び、私に感謝しながら暮らしている。
なぜなら、
その後、彼女は一度も私を訪ねてこなかった。
本当に嫌なら、文句を言いに来るものである。
《謎の三段論法。
まともに考えれば、"顔も見たくなかった"である》
感動的な再会を確信しながら、
私は、門をたたく。
コンッ コンッ。
しばらくの間。
「……はぁい、いま開けますね〜」
美しい声が帰ってきた。
これは、歓迎の声である。
キィ……。
扉がゆっくりと開く。
現れたのは、長い金髪を優美に束ねた女性。
黄金の髪がキラキラと輝く。
ふわり……
彼女からハーブのような香りが漂う。
「まあぁ……どなたかと思いましたら…。
ニープナ(ご主人様)じゃありませんか?」
金色姫は静かに微笑み、
ゆっくりと胸元に手を添えた。
指先が触れるのは、
あまりにも優雅で豊かな曲線。
「お話は聞いておりますのよ〜?
……皆さんに、ご挨拶して回ってらっしゃるとかぁ。
ふふっ、ずいぶんとご熱心で」
「まあ、うむ……ああ。そうだな」
私はすこし考えてから、言った。
「少し、話がしたくてな。君とは……特に、だ」
金色姫は、くびをかしげた。
その動きにあわせて、
長く繊細な触覚が
ユラユラと揺れている。
彼女の目の上には
まるで眉の代わりのように、
ふわっ とした蛾の触角がのびていた。
でもそれすら、不思議と……
異形というより、
ただの飾りのように見えた。
「わたくし……覚えておりますわ。
あなたと旅した、あの砂漠のことも、
オアシスの夜のことも……
そして、"最愛の人を取り戻したい"……。
その、貴方の願いも」
私はハッ とした。
彼女は、忘れてなどいなかった。
ぜんぶ覚えていて、
私をこうして……
「……それでも、貴方は、
わたくしを自由にしてくれた。
……そのこと、心から感謝しておりますのよ?」
「……それだけで、救われた気がする。
ありがとう……」
私はそっと、あたまを下げる。
ゆるしてほしい、と言うよりも、
これは二人のための儀式だった。
金色姫は、静かに佇んでいた。
腰から生えた大きな蛾の翅。
オーバースカートのように、腰をつつむ、
それが、わずかに風をはらんで揺れる。
金色の髪が、陽の光に透けていた。
ふわり……。
風が吹く。
彼女の瞳が、
まっすぐに私を見つめている。
いま、私たち二人は、たしかに、
ひとつの物語を共にしていた。
次に来るのは、
きっと微笑みと、静かな抱擁。
そう、まるで昔の旅の続きを始めるように……
「……ですが、ニープナぁ?」
声色が、少しだけ甘かった。
私はゴクリと息を呑む。いよいよ来るか……
彼女が私を抱きしめ、"お父様"と呼ぶ瞬間!
「なんだ?」
私は、少し気取って答えた。
「わたくし、空気が読める女ですので……。
本日はこのまま、“玄関先"
でお引き取り願えますか?」
スゥ……。
扉がわずかに閉まりかけた。
…………え?
「……え?」
私の頭を満たした困惑が、
そのまま口を突いて出た。
「またのお越しを、心よりお待ちしております♡」
扉が、パタンと音を立て、
無慈悲に閉じた。
《ここで彼女が、この男を"お父様"とか呼んだら物語的に面白くない。
さすが…空気が読める女である》
私はその場に立ちつくした。
「……これが……これこそが……!
地獄より深い、“やんわりお断り”という名の
拷問なのだ……!」
——第五陣は、門前払い。
——to be the next scene.
——お父さん的プロモーション -門前払編-——
はい。門の前で、すべてが終わりました。
お声をかけていただきました。思い出も語っていただきました。……あたたかい言葉も、確かにいただきました。
そして、玄関先でお引き取り願われました。
あまりにも優しく、あまりにも美しい断り方でしたので、逆に、どういうことか理解できず深く沈んでおります。
しかし、それでも私は信じております。
あの扉の奥に、ほんの少しでも“迷い”があったのだと……。
——次回予告。
Scene6:ネコって機嫌悪いとき、飼い主すらガン無視するよね。
——
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