Epilogue:『おとうさん、立ち上がる』
体が重い。
何もしていないのに、だるい。
何もされていないのに、つらい。
——いや、厳密には、「されていない」
というのは嘘になるか。
癒された。
全力で、癒された。
全身、ありとあらゆる細胞が、甘やかされた。
にもかかわらず、この敗北感はなんだろう。
「……うぅ……
わ、私の……おとうさんポイントが……ゼロ……?」
私は地べたに倒れ、草のにおいを嗅いでいた。
ちょっと湿った土の感触。
かすかに香る、フィロレーナの甘い香り。
遠くで、虫が鳴いている。
私は小さく呻きながら、空を見上げた。
「……勘違いだったんだな……」
日記には、名前も書かれていなかった。
“わたしと話して、げんきがでたおきゃくさま”。
それだけ。
あれほど感動していた“再会の儀式"も、
この私だけに向けたものではなかったのだ。
私は、特別ではなかった。
父でもなかった。
たまたま、癒された通行人にすぎなかった。
「…………ははっ、まいったな……」
私の白衣は、花粉と土でぼろぼろだった。
髪も枝に引っかかってるし、
なんか鼻の穴に花びらが入ってる。
私はそれを取る気力もなく、ぐったり息を吐いた。
——それでも……。
「……ふっ」
私は、ふらりと体を起こす。
ヒザが笑っている。腰が砕けそうだ。
だが、その目にはわずかな光が宿っていた。
「そもそも“父である”とは……。
たとえ娘に父として認識されていなくとも……」
「たとえ名前を忘れられていようとも……」
「勝手に名乗るものであるッ!!」
私は、ぐっと拳を握った。
が、同時にヒザがガクンと折れた。
「……っつう……でも!」
ふらふらと立ち上がる。
白衣の裾が、夕日に染まっている。
「……でも、さすがに……一回ラボに戻ろう……」
私は、力強く温室を後にする。
でも、フラフラした歩き方は、
……完全におじいちゃんだった。
《それでも彼は、こうして歩き出した。
次なる“娘”のもとへ。
次なる“しばき”の試練へ》
——the episode’s end.
私は、帰路についた。
癒されたはずなのに、心にはぽっかり風が吹いていた。
けれど、私はあきらめない。
“父性”とは、敗北してもなお立ち上がる狂気である。
向かうは、再びラボ。そして、その先には……
白装束の巫女。
知恵と皮肉に満ちた、ツッコミ系式神。
癒しからの復帰戦。
次なる試練は、働く系キツネのお仕置きフルコースである。
——ご期待ください。
——次回予告。
次回、第6話 第1幕 キツネ面の巫女と、はたらくお父さま!
——エピローグあとがき——
この物語に登場する、魅力的な“娘たち”──
実は、作者がひとりひとり、立体作品として造形しています。
(※画像は、ポヤポヤ花咲娘「フィロレーナ」)
もしお時間がありましたら、彼女たちが登場する
〜もうひとつの物語〜
『君は、風に還る。』もぜひご覧ください。
https://ncode.syosetu.com/n3644kl/
異形の少女たちが、自分の翼で“生きる意味”を探し旅をする。
そんな、少しだけ優しくて痛みをはらんだ物語です。




