Scene8:『パパ、《ジェネシス・リサイクル・ゼロ》を撃つ』
『問題。信じるとは、どういうことか? 解答。裏切られてもいいと思うこと。裏切られても後悔しないと思うこと』
-「クビキリサイクル」より引用
どちらも間違いだ。それらはただの覚悟であり"信じる"ではない。
その答えは、何をされても、どれだけ拒絶されても、なおパパであること。
つまり、信じる=パパである。
「なあ、フィロ……」
私は、おずおずと声をかけた。
「その……君が、やさしく私を迎えてくれたのは……
私が特別だから、だよね?」
自信なさげな笑み。
いや、ちがうな。自信がほしいだけの笑みだ。
だけど、フィロレーナは。
「? どうしてですかぁ〜?」
とびきり、無垢な顔で小首をかしげた。
その瞬間、私の中の“何か”が
パリンと音を立ててヒビ割れた。
——あれ……?
え……ちょっと待って……?
これ、もしかして……私だけじゃ、ない……?
いや、違う違う!違うかもしれないだけだ!
フィロはあれだ、だれにでもやさしくはあるが、
家族には何か、もっと……違いがあるはず…。
そう!あれだ!“やさしさのフォント”が違う!
私にだけ、傍点でパパってなってる。
これは、そういうチューニング。
ワンチャン!いや、ツーチャンはある!
私は、心の中で謎の裁判を始めていた。
——だが……。
その瞬間、扉がバンッ!と開いた。
「ゼェッ……ゼェッ……! はぁっ……ッ!」
血まみれの男が飛び込んできた。
肩に斧を担ぎ、目は血走り、
口元からは鮮血が滴っている。
あきらかに、カタギではない。
おそらく、山賊か何かが逃げ込んで来たのだろう。
「テメーら全員ッ!人質だァッ!!」
子どもたちが悲鳴を上げる。
お爺さんたちが、わりと元気に杖を構えた。
なんだこの老人軍団。
山賊の視線が、温室を見渡し、
フィロレーナを見て、ビクリ!と止まる。
「ヒッ……なんだその化け物ッ!
女の顔して、花なんか咲かせやがって……
ぶった斬ってやる!」
……来た。
来たぞ。
これは、“父”の出番だ!
「……やれやれ」
私は、静かに立ち上がる。
白衣の裾が、ふわりと揺れた。
「娘とお茶を楽しむ、この美しき午後に……」
私は一歩、前へと進み出る。
「羽虫が一匹、舞い込んできたか。
よかろう。我が術式、“創造還元式・第零項”により
お前を、原子まで分解してやろう」
ドーンッ!!
……決まった。
いや、これは完璧だ。
音響照明エフェクト全部のってる。
これでフィロも「おとうさまぁ〜……」ってなる。
なるに決まってる。なるはず。
が……そのとき。
「お客さまわぁ……すっごく疲れてる、
かんじがしますぅ……」
ふわり。
彼女の胸部が波打ち、葉脈がその肌に浮かび上がる。
肩からのぞく蔦が、やわらかく揺れる。
「はいっ、これ。げんきがでる、お花……!」
ぽすん。
花冠を、山賊の頭にのせた。
……完全に、私のときと同じパターンである。
「な、なに……?」
山賊は硬直した。
花冠にふれる手が、震えている。
——そして。
「……オレ、ガキのころ、村が干ばつで潰れて…。
親も、兄貴も、みんな死んじまって……」
「誰かにすがろうにも、追い出されて……。
どこ行っても、“疫病神”扱いだった……」
ぽつ、ぽつ、と。
噛みしめるように言葉をこぼしながら、
彼はヒザをついた。
「だから……だからオレは、
誰かから奪うしかなかったんだ……!」
「でも……でも……」
ぐしゃ、と両手で顔を覆い。
「……や、やさしい……こんな……
やさしくされたの、はじめてだ……」
ぽろぽろと、涙が落ちる。
「オ、オレ……」
「間違ってた……生きるって、
こういうことじゃなかったハズだ……」
震える声で、ぽつり。
「オレは人のぬくもりを、こころを、忘れてた…」
フィロは、にっこり笑った。
「だいじょうぶですよぉ〜……やりなおせますぅ」
山賊は、すすり泣きながら立ち上がる。
「オレ、やりなおすッス!
だから……俺を連れてってくださいィ!」
そこへ現れた冒険者たちが、
さっそうと山賊を拘束した。
「助かったよ、フィロ。
アイツ、またこっちの村、襲ってたんだよな〜」
「ありがとな。今度またハーブティー飲ませてよ」
……なんだこの茶飲みコミュニティは。
どこまで顔が広いんだ、君は。
私は、静かに白衣の裾を整えた。
——ええ、ええ、わかっておりますとも。
私が出るまでも、ございませんでしたとも……。
誰にでもやさしくて、誰とでも繋がって、
誰のことも否定しない……。
そんな彼女のそばに、
私は、何を持って立てばよかったのだろう。
でも、今だけは……。
せめて“はり切ったお父さん”のこの立ち姿だけは、
誰にも見られていないことを、願いたい。
——to be last scene.
― 創造還元式・第零項-
とにかくスゴい技である。
名前からしてヤバいし、なんか「ゼロ」とかついてる時点で最強っぽい。
発動すると世界の理がバグる。
敵は原子レベルでバラバラになってリサイクルされる。エコ。
そもそも「創造」してないのに「還元」するという、
因果が逆走してる時点でIQが高すぎて意味がわからない。
——次回予告。
Last scene:おとうさん、ではなかった。
——
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