Scene6:『“ありがとう”のない場所で咲く花』
『誰かのためってのはな……いつのまにか誰かのせいにしちまってることが多いんだよ……』-「セブンスター」より引用
——男は最初から“娘のために”と暴走し続けている。しかし、もし彼が、その大義名分すらかなぐり捨てたらどうなるだろうか……
"誰かの為に"は人が狂気に落ちきらないための、ストッパーなのかもしれない。
私は、まだ“お父さんモード”だった。
娘を正しい道へ導くために。
自分より他人を思いやることができる。
そんな娘になってほしくて……。
だけど彼女は、少しだけ、首をかしげて言った。
「誰かのために、がんばるのも……
もちろん、すてきなことですぅ〜」
「でも……わたしは、やっぱり、
自分のために咲いてたいなぁって、思いますぅ」
私は、まばたきをした。
「自分が気持ちいいな〜って思うから、
おひさまに向かって咲いて」
「風が気持ちいいから、ふわ〜って揺れて。
好きなときに、好きなように、咲いていたいんです」
言葉のひとつひとつが、
まるで陽の光のようにやわらかく、あたたかかった。
「もし誰かのために咲いたら……きっと、
"ありがとう"って言ってほしくなっちゃいます。
だけど、それって、ちょっとこわいんですぅ〜」
「もし、ぜんぜん気づいてもらえなかったら……?
受け入れてもらえなかったら……?」
私は、思わず言った。
「ふ……ふむ、それは……幼いな。
きみはまだ、道徳というものの本質を……」
だけど、彼女は止まらなかった。
「それに……もし、その人のために何かしたせいで、
別の人を傷つけたり、悲しませたりしちゃったら……
それって、誰の責任なんでしょうねぇ〜?」
「“わたしがやった”って言えるならいいけど……
“あの人のためにやった”って思っちゃったら……
その人のせいに、なっちゃうかもしれません」
……ああ、なるほど。
彼女は、"誰かの為に"を否定しているんじゃない。
その責任の重さを、心で理解しているからこそ、
自分のために咲くことを選んでいるのだ。
「……ふ、ふむ。なるほど。なるほどな……
きみは、そうやって……」
私は、なんとか“説教モード”を維持しようとした。
「だがしかし、きみは……いや、その……
わかっていない……いやでも……うーん」
えーっと……あー……。
言葉が出てこない。
言おうとしていた“正しいこと”が、
なんだか急に遠くなってしまった。
「…………」
私は、そっとヒザを抱えてうずくまった。
いや、違うんだ。
娘にわかってもらえなかったとか、
論破されたとか、そういうんじゃない。
ただ……ちょっとだけ。
“お父さんみたいに説教してみたかった”だけなんだ。
でも、なんかそれ
ぜんぜん上手くいかなかったなって思ったら。
…なんだか、しゅん……ってなってしまったのだ…。
そんな私のそばで、
フィロレーナはにこにこ笑っていた。
「お茶、もういっかい淹れますねぇ〜」
「……うん…」
私は、静かにうなずいた。
たぶんそれが、今の私にできる、
いちばん“父っぽい”返事だったのかもしれない。
——to be the next act.
お客さまが、すごく大切なことを伝えたかったのは、
ぽかぽか伝わってきましたぁ〜。
でも、だれかのために動けるやさしさも、自分の気持ちをだいじにできる強さも、きっと、どっちも素敵だと思います〜。
だって、咲きかたは、お花の数だけありますからぁ。
——次回予告。
Scene7:お茶会は、みんなのもの。
——
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