Scene3:『クモ娘に殺されかけ逃亡しましたが、パパって呼ばれたので実質勝利』
『「ごめん」って何度も言われるより、「ありがとう」って1回言われたほうが相手は満足するの』
-「リゼロ」より引用
なるほど、良いことを聞いた。
今度から、娘に「テメーうざいんだよっ!!」ってケリ入れられたときは、
「ごめん」でなく「ありがとう」と伝えよう。
ペキッ……。
古い枝をふんで、私は森をあるく。
ひんやりした空気が、ざわ……と肌をなでる。
バサッと草をかき分けた先。
暗い森の中。ポツンとした洋館。
かつては、どこぞの貴族の別荘だったらしい。
でも今は……、
ギシギシと軋む扉。ひび割れた石壁。
見る影もない。
今は、廃棄した[器造型]LC-08、
ヴェルミアの巣のあるところだ。
彼女は、肉体強度は申し分なかったが、
魂の融合適性に欠け、
精神汚染の兆候が見られたため、廃棄した。
今はこうして、ここで静かに暮らしているらしい。
ぎぃ……。
私は、扉をあけ、
ためらうことなく洋館の中にはいった。
中は薄暗くて、空気がねっとりしている。
見上げた天井には、
びっしりと糸がはり巡らされていた。
その下に、ふわ、ふわ、と。
繭みたいな何かが
いくつも、ぶら下がっていた。
…ぼこっ……しゅう……
まるで息をするみたいに、
ふくらんで、しぼんでいる。
ぴくっ、と揺れるたびに、
脈を打つような気配が伝わってくる。
……まあ、あれらが何かは気にするまい。
——いや、気にした方が良い。
私は、その中心に歩いていった。
そこにいた。
ロリータドレスを身にまとい、
赤い瞳を漂わせながら、
小さな少女がじっと座っている。
そのひざの上には、青い髪の少女を模した、
古びたぬいぐるみがちょこんと抱かれていた。
ふぅ……。
私は、息を吐く。
フィロレーナの祝福を得て、
最難関へ……
……よし、いける。
今なら、心を開いてもらえる気がする……!
ここを越えれば、
父としての信頼も盤石……!
——いつものように、楽観的すぎる。
相手はあのヴェルちゃんだ。
嫌な予感しかしない。
とんっ と膝をついて、
私は少女と同じ目の高さになった。
じぃ……っと、八つの瞳がこっちを見てくる。
その奥で、なにかがぴく……と動いた気がした。
まるで、じろじろ……と、
こちらを観察されているようだ。
ドクン……。
胸が鳴る。
私は思わず、息をのんだ。
「こんにちは……ヴェルミア。
今日は、少しお話ができたらと思ってね」
糸が、微かに軋む音を立てた。
こてん、と彼女は首をかしげた。
ふわっ……と揺れる、オレンジ色のツインテール。
その目が、じぃ こっちを射抜いてくる。
「……? あれ……アナタはたしか……」
「ふふふ……ヴェルミア。
今日は創造主ではなく、父として会いに来たのだ」
「え?……パパ? ……なん……で?」
沈黙。遠くで、水が滴る音が響いた。
「いや、その……お前たちを“造った”私が、
改めて“家族”として──」
「……ちょっと、怖い……です」
ヒヤリ…。
空気が、一気に変わった。
ぬるり、と肌にまとわりつく冷気。
息をのんだまま、私は言葉を失った。
「でも……だいじょうぶ。
"動かなくなって”くれたら……
いっしょにいてあげられるかも……」
蜘蛛脚が一斉に跳ね上がる。
シャキン!!
刃のような金属音が響いた。
「そうしたら……ずっと遊べるし……
パパにしてあげてもいいよ……?」
私は、はっ と息を飲んだ。
……ああ……これは……ちがう。
フィロレーナの時とは……明らかに何かが違う……
そもそも……なぜ私はここに来た……?
——フィーちゃんに父と認められたと勘違いして、
テンション上がったからである。
私は、そろり と後ずさる。
足音を立てぬように。糸が軋まぬように。
「だめだよ……ちゃんと……止まっててね?」
私は振り返らず、ダダダっと走った。
糸が震え、空気がぶわりと逆巻く。
うしろから聞こえる足音は…、
私だけのものではなかった………。
——第三陣、大破。
——to be the next scene.
——お父さん的プロモーション -実質勝利編-——
見て頂けただろうか。
私は、ついに“パパ”と呼ばれた。
つまりこれは、娘に認められたということであり、家族としての関係構築が着実に進行しているという証左に他ならない。
拘束?殺意?
あれほど強い“感情”を向けられるというのは、信頼の裏返しである。
——次回予告。
Scene4:沈黙系マーメイドは何も語らない。でも勝手に心砕けて帰る。
——
『このすば』に笑ったなら。『ダンまち』に恋したなら。『リゼロ』に泣いたなら。
パパが。娘たちが。作者が。おこぼれを頑張って拾います。
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