Scene1:『ぽわぽわ娘の“おもてなし”は命がけ』
『苦労から抜け出したいなら、肩の力を抜くことを覚えなさい』from 精神科医 斎藤茂太
——彼の肩の力など、とっくにダルダルである。
それでも、苦労は終わらない。
なぜなら、私が抱えているのは、“肩の力”ではなく、“業”だからだ。
彼女の声が、ふわっと
風のように空気をなでた。
さわぁ…。
葉っぱが揺れる音と、土の匂いがする。
私は目をとじて、彼女の気配を感じる。
それだけで、心がポカポカあったかくなる
「はぁい、ここに……
おいしいハーブティーの茶葉がありますからぁ〜」
ズズッ……。
フィロが足の代わりの根を使って、
鉢ごと近づいてくる。
そして、すぐ目の前で、ぴたっ と止まった。
この距離、ものすごく近い。
うむ……。まさにこれは!
父への信頼の証……!!
《フィーちゃんは、誰にもこの距離感だ》
なんだか、ほっとする。
ここはもう、癒しの空間そのものだ。
そのまま、しゃらんと揺れる髪が、
肩ごしに光を受けてきらきら光る。
ミントグリーンの髪が、葉のように透けていた。
首すじには、細い蔦。
動くたびに、ドレスのすきまから光が漏れる。
服というより、花と蔦でできた衣。
まさに、“咲いている”ようだった。
——私は目を閉じた。
しん……。
音が消える。
聞こえるのは、葉がこすれる小さな音と、
そばにいる彼女の気配だけ。
あたたかい空気。
ふわふわした甘い香り。
心がとけるような気持ち。
まさに、癒しの時間。
——そして……。
「ぜひ飲んでいってくださいねぇ」
ぷにゃん。
私の顔に、なにかが当たった。
やわらかい。
あたたかい。
しっとりしてる。
もちもちしてて、ぷにぷに。
しかも、低反発。
「ん……ぐっ……こ、これは……」
鼻と口が、ぴったりと何かでふさがれる。
ぷにゅっ。
ぷに……ぷに……。
頭で押しても、はね返ってくるやわらかさ。
それが、左右から同時にせまってくる。
まるで、もちもちの雲に顔を埋めたような……。
……いや、今そんな表現をしている場合ではない。
——息が……できない。
おそらく、彼女は私の頭の真後ろの棚に手を伸ばした。
……そしてそのまま、私は押し潰された。
だが、跳ねのけるわけにはいかない。
なぜなら彼女は、“父”のために、
一生懸命にもてなしの準備をしているのだ。
この善意に、私は耐えねばならない。
たとえ、娘のおっぱいで窒息しようとも!
——これが、父の試練である。
視界がゆらゆらしてくる。
目の前が、暗くなっていく。
あたまがふわふわして、思考もとろけていく。
「あれぇ……。どこでしたっけぇ……」
一瞬だけ、顔の前にすきまができた。
ふっ……と、空気が通る。
が、一呼吸するかしないかのうちに、
すぐに、彼女が腰を曲げて、
棚の下の段をのぞきこんだ。
——もふっ。
ふわっとした感触が、また顔をつつんだ。
今度は、おしりだった。
やわらかい。
丸い。
ほんのりあたたかい。
蔦のドレスがさらっとすべって、
肌ごしに、花の香りがする。
——ぷにゅ。
再び、呼吸の道がふさがれる。
あたまが、くらくらする。
視界が、くるくる回る。
——これは、充分に危険な状態である。
「ふふ〜、ありましたぁ〜」
ようやく彼女が立ちあがると、
顔のまわりがぱっと明るくなった。
息ができる。
空気が、肺に入ってくる。
生きている……生きているぞ私は……。
「これで、きっと落ち着きますぅ〜」
手に持っているのは、木のティーポット。
すうっ……と、ハーブの香りが鼻に入ってきた。
やわらかくて、ちょっと甘い香り。
——なるほど。
この香りが、心とからだを落ちつかせてくれる。
さっきまでフワフワしていた思考が、
だんだん、はっきりしてきた。
胸のあたりも、すーっと軽くなっていく。
これがハーブティーの効果か。
《いや、落ち着いたのは彼の血中酸素濃度だ》
こうして、愛しい娘とのお茶会は、
続いていくのである。
──to be next scene.
きょうは、だれか知らないおきゃくさまがきました。
ちょっとつかれてるみたいだったから、お茶をいれて、ゆっくりしてもらいますぅ。
わたしとお話しして、なんだか楽しそうにしてたから……
少しでも元気になってたら、うれしいなぁ
——次回。
Scene2:父は癒しを求めて花にすがる。
——
私の脳内では、いつもイマジナリー娘が囁きます。
「素人が書いた小説なんて、誰も読んでないやろ」って。
だから、ここまで読んでくださってありがとうございます。
感想や評価など、いただけたら嬉しいです。




