Scene2:『おっとり植物娘に、通行人Aあつかいされました』
『どんなに難しい魔法もマスターしていく!』
-「没落貴族」より引用
若者よ、向上心を持つことは実にすばらしい。
だが、"極めてしまった男”の末路が常に輝かしいとは限らない事も知っておくといい。
そう、反面教師もひとつの“パパ”の形なのだ。
フワァ……。
風が草の香りを運んでくる。
しっとりとした空気のなか、
私はボロボロのアーチをくぐった。
ここは、昔は温室のような実験場だった。
[器造型]LC-05……。
いや……フィロレーナがここにいる。
今や天井はツタに覆われて、
光と湿気と花のにおいが混ざり合って、
ほぼ森である。
でも、そこに咲いてる花たちは、
どれもちゃんと手入れされていて、
どこを見てもキレイだ。
私は、花の道を進んでいく。
その真ん中に、彼女はいた。
フワフワの大きな花弁のようなスカート。
それが ユラユラ 揺れている。
ミントグリーンの髪には、
薄紫の、おおきな花が咲いてて。
瞳をつむって、眠ってるように静かだった。
フィロレーナがカテゴライズされるのは、
[器造型試験体]。
融合にたえる、人造の体を作る。
そのために造り出した試験体群。
彼女は、アルラウネをベースとした試験体だ。
私がここに植えた。
だが初期段階で、
じゅうぶんな強度を持たせられないと判明。
そのまま、回収せず放置。
彼女は一人ぼっちで、ここにいる。
きっと、寂しかったろう。
ひとりで、ずっと私の帰りを待ってたはずだ。
私は確信していた。
この娘こそが、私を……“パパ”を、
いちばん必要としてる。
——いや、普通に暮らしてた。
ロメラとお茶をしたり、
九重と世間話をしたりして。
ポヤポヤ 楽しそうに暮らしている。
なんなら、
ご近所づきあいしてた可能性すらある。
私は、彼女の名前を、そっと呼ぶ。
「……フィロレーナ」
サラリ…。
葉っぱが、そっと揺れた。
彼女は、そっと目をあける。
とろんとした琥珀の瞳。
長い睫毛の奥、眠たげな光がきらめいた。
「……あ……こんにちはぁ……」
おっとりした声が、
しめった空気にふわっと溶ていく。
私は思わず、ペコリと頭を下げた。
「突然すまない……。
少しだけ、お前の静けさを分けてほしくてな……」
フィロレーナは、ポヤンとした笑顔のまま、
くすくす笑った。
「しずけさぁ……? なんだか、
ちょっとくすぐったいですぅ……」
ツタのドレスがゆらりと揺れて、
彼女の足の代わりについてる植物の根が、
音もなく地面を這う。
彼女のからだが、鉢植えごと、
ぬるっと前に出てきた。
スッ……。
私は後ろにさがった。
そのとき、
ふわりと彼女の胸のふくらみが弾け、
まるで水面に波紋が走るように、形を変えた。
肩のツタよあいだから、
うっすらと透ける肌がのぞいてる。
そこに浮かぶのは、葉脈のような模様。
変異個体の表層模様だ。
「お客さまわぁ……すっごく疲れてる、
かんじがしますぅ……」
「はいっ、これ。げんきがでる、お花……!」
ぽすんっ
彼女は花冠を私の頭にのせた。
……なんでだろう。
こんなに……やさしい。
私は知らなかった。
“父として認められる”
こんなにも温かくて……心がポカポカするとは。
そうか。この娘は、もう私のことを……‼︎
——いや、勘違いである。
「ありがとう……本当に、ありがとう……!
私も……誰かを癒す存在になりたい
……そう、思っているんだ……!」
彼女は、ぽよんと笑いながら、
うんうんと頷いてくれる。
「だいじょうぶですよぉ……
きっとぉ、いいことありますぅ……」
私は、ぐっと涙をこらえて、ふりかえった。
フワッ
草が鳴る。
私はそのまま静かに歩き出す。
——第二陣、完全勝利。男の主観的には……
「これが……娘に癒されるという感覚……!」
「ふふ……やはり私は、
父として認められ始めている……!」
ぽわん、と心があったかくなったまま、
私は温室をあとにした。
——
——男が去ったあと、フィロレーナは呟く。
「……そういえばぁ……今の人って、
いったい、だれだったんですかねぇ……?」
——
私は再び、静かに歩き出す。
あたたかな風が、そっと温室の中を撫でた。
——to be the next scene.
——お父さん的プロモーション -通行人A編-——
癒された。やさしくされた。花冠までのせてもらった。
これはもう、パパ認定の確定演出であった。
——やさしさは、ときに残酷に哀れな男を作り出す。
——次回予告。
Scene3:クモ娘に殺されかけ逃亡したが、パパって呼ばれたので実質勝利。
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『このすば』に笑ったなら。『ダンまち』に恋したなら。『リゼロ』に泣いたなら。
パパが。娘たちが。作者が。おこぼれを頑張って拾います。
感想や評価、お待ちしてます。