Scene6:『おままごと脱出術:パパ式関節リリース法』
『喜んで欲しいから、しんどくても頑張れるもんだぞ』-「着せ恋」より引用。
そう、私もまた努力している。娘を喜ばせたくて。命まで賭けて。
服を選び、プレゼントを用意し、話題を仕入れ、
「なにかあったら話してくれよ」と笑顔で伝え……。
そして、その結果がこのザマである。
「ふむ……昔の私は、あれはあれで、
なかなかにワイルドだったな。」
ヴェルミアが語っているあいだに、
私は、自分の両肩の関節を器用に外して、
糸の中から這い出しながら呟いた。
——ヴェルが語った記憶は、本来ならば、
男にとっては罪の記憶のはずだ。
だが、彼にとって、
自分が反省した=すでに許されたことなのだ。
心苦しさなど、どこにもない。
「いやしかし、あの頃の私は実にクールだった。
名も名のらず、感情も見せず……
まるで“沈黙のパパ”だな。渋い。いける」
カキンッ、カキッ。
私は自分で自分の肩の関節をハメながら、
ふう……と腰をのばした。
——人間ばなれした奇行である。
ひかえめに言ってキモい。
ヴェルは目を細めて、ふふ……と笑っていた。
「……うん、……パパは、素敵なパパ、だったよ」
そうして、ぬいぐるみを抱きしめたまま、
床にそっと腰を下ろす。
ドレスの裾がひらりと広がり、部屋の白に重なる。
ヴェルミアは、床にちょこんと座っていた。
そして、下から私を見上げてくる。
八つの目が、うれしそうに細められていた。
人間に近い“赤い瞳"は、
まるで恋する女の子のようだ。
額、頬、顎のあたりにあるちいさな六つの目も、
それぞれほんの少しずつ角度を変えながら、
じっと私を見つめている。
「パパ……」
ヴェルは、ゆっくりと、細い指をのばしてきた。
その指が、そっと……私の胸にふれた……。
——to be the next act.
——だいすきって、言われた気がした。
胸の奥が、まだ少し痛いけど。
きっとこれが、しあわせなおままごと。
——次回予告。
次回から、ヴェル編最終幕
第3話 第3幕 『柔らかな唇の感触〜パパ、ドキドキしてるね……もっといっぱいキス、して欲しいの?〜』
読者が男に感じたイライラは次章で昇華される。
Scene7:ヴェルミアの“好き”は、だいたいヤバい。
——
もしかしたら。
あなたが落とした感情のかけらを、作者は勝手に拾って、物語に混ぜているかもしれません。
拾いものを集めた物語ですが、気に入ってもらえたなら、嬉しいです。
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