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[自作フィギュア]モンスター美少女たちのパパになったら、全員俺を殺しにくるんだが!?  作者: 矢崎 那央
第9話 第1幕『弱虫をやめた少年と、褐色の観察者』
202/221

Scene4:『ぼくの大切だったもの』


 次の日も、ぼくは腕立てをした。



 誰にも見られないように、まだ朝が来る前の暗い時間に、納屋の裏に行って。

 膝をつかないように気をつけて、ゆっくり、ゆっくり、体を沈めた。


 昨日よりも、ちょっとだけ多くできた気がした。

 気のせいでもいい。続けることのほうが、たぶん大事だから。


 

 “ちょっとずつでいい。毎日、すこしずつ。”


 “変わっていけば、いつかきっと——”


 

 そんな小さな希望を、胸の奥で温めてた。

 あの日までは。


 

————


 

 ぼくには、ひとつ“心の支え”があった。


 村はずれの物置小屋の裏に、いつの間にか住みついてた小さな白猫。


 耳が少し欠けてて、しっぽがふにゃっと曲がってる、年を取った子だった。


 名前はつけなかった。

 名前をつけたら、いなくなったときにつらいから。


 


 でも、毎朝こっそり、残りものを持っていった。

 魚の骨とか、かけらになったパンとか。


 食べ終わると、「にゃっ」って鳴いて、足元にすり寄ってきた。


 それだけで、少しだけ安心できた。

 弱くても、生きてていいって思えた。


 ——ぼくだけの、秘密だった。



 「おーい、タクト!」


 広場のはじ。声がして、振り返った。

 その瞬間、何かが投げられてきて——



 ——ぺた。


 足元に落ちたのは、赤いシミがついた、布きれ。


 

 「……え?」


 

 目をこらす。

 模様が見えた。白い、先っぽに少し黒い模様。


 ふにゃっと曲がった、しっぽ。


 「あっ——」


 

 息が詰まった。

 喉の奥で、なにかが固まる。


 手が、勝手に動いて、それを拾おうとしたとき——


 

 「っはははははは!!」



 笑い声が、背中に刺さった。


 「マジで拾った!やっっっば!」


 「おまえ、ほんとにエサやってたんだな、あの汚ねー猫に!」


 「昨日、ヒマだったからさ〜、みんなで追い回して遊んでたんだけど〜、

 ベックが蹴ったら、“キュッ”って変な声出してさ〜!」



 「ぐえっ、ぎゃっははははは!!」


 「お前の猫、弱すぎ〜!」


 「オマエといっしょ! よっわ〜!」


 

 ——世界が、止まったみたいだった。


 

 周りにも、ほかの子たちがいた。


 でも、誰も止めなかった。

 聞こえてないふりをして、目をそらして。

 それすらやめて、背を向けた子もいた。


 

 誰も、なにも言わなかった。

 ぼくのために、怒る子はひとりもいなかった。



 「……あーあ」


 ゼノットが、あくび混じりに言った。


 「オマエが関わんなきゃさ〜、

 あの猫、もうちょい生きられたのにな〜?」


 「ちょーとばっちり? かわいそ〜」


 にやり。


 その顔は、笑ってなかった。

 ただ、ぼくの心が割れる音を聞きたがってる顔だった。



 彼らはそのまま去っていった。

 足元に、ぼくだけの秘密だった“それ”を置いて。


 

 その夜、ぼくは泣かなかった。

 泣いたら、本当に終わる気がした。


 リオお兄ちゃんが言ってたことを思い出す。


 

 「誰も助けてくれねぇ」


 「甘えんな。自分で切り開け」


 ——その通りだった。



 弱いままじゃ、大事なものを守れない。

 誰も味方になってくれないなら、ぼくがぼくの味方になるしかない。



 決めたんだ。

 もう、誰にも頼らない。

 優しさにも、期待しない。



 つよくなる。


 ——ぼくだけの力で。



 その晩、納屋の裏で、ぼくは何度も拳を握った。

 震える心を叩き直すみたいに。

 くしゃくしゃになった感情を、叩き込むように。


 月は出てなかった。


 でも、見られてる気がした。

 どこかで、誰かが、ぼくを見ている気がした。


 それだけで、立ち上がれた。



 ——ぜったい、守れる自分になる。



——to be the next scene.

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