Scene1:『古びた納骨堂、静寂の中で』
「少年よ、大志を抱け」from ウィリアム・S・クラーク
ただし、抱く志はちゃんと選べ。
間違えた大志を掲げた男の末路がこれである。
……シン…。
そこは静かだった。
廃村のはずれ。
風にすら見はなされたような、
さみしい丘の上に——
そこに、それはあった。
石でできた、ぼろぼろの小さな納骨堂。
屋根はくずれかけ、壁にもひびが入っている。
死者が眠るための場所にしては、
ずいぶん無防備で、がらんとしていた。
——だが、私は感じていた。
この中に、たしかに“娘”の気配がある……と。
ふわりっ
草のにおいにまざって、かすかに香りがする。
それは、重くてジメジメした
カビの匂いのなかに、しっかり残っていた。
甘いような、苦いような……。
どこか大人っぽい香り。
……わが娘、ロメラが使っている
コロンの匂いだ。
「……ふむ。やはり、ここか」
私は、建物の前で、
ピタッと立ち止まり、
深呼吸した。
鼻の奥いっぱいに広がるその香りに、
自然と笑顔になる。
「この空気、この瘴気……
そしてこの香り。間違いない……
わが娘が、近くにいる」
私は、強く確信していた。
特に証拠はないが、そう感じたのだ。
私は、納骨堂を見上げて、
ポツリ、とつぶやく。
「……もちろん、彼女が私をどう思っているかなど、
……百も承知だ」
《そう言ってはいるが、かなり、あやしい》
私の顔には、苦笑いではなく、
あくまで“余裕のある父”としての
微笑みが浮かんでいた。
「だが、それはつまり……まだ“思春期"なのだろう。
わかっている、わかっているとも。
愛とは、時に誤解から始まるものだ。
だが安心しろロメラ、私は父として、
すでに覚悟を決めている」
《やはり、わかってなかった》
私は手を胸にあてて、大きくうなずいた。
そして、マジメな顔をつくる。
「……よし。では、声をかけるか」
そう言って両手をうしろで組み、
ビシッ、と背すじをのばした。
その立ち方は、まるで卒業式の校長であろう。
「ロメラよ。我が愛しき娘よ……
お父さんが、来たぞ……!」
——そのときだった。
ズズ……ッ!
「ぬおっ……!?」
足もとの石が、いきなりガラガラと崩れた。
ズルズル………。
私はあっけなく、ホコリまみれの地面の中へ
しずんでいった。
胸のあたりまで、見事にハマった。
《これは、偶然できた穴である。
だが、彼は違う解釈をしていた》
「……ふふ。やれやれ。照れかくしとは、
こういうことを言うのだな」
頭に土をかぶりながら私はうなずいた。
何度も、うんうんと。
「このトラップ……いや、“歓迎の儀式"か。
まったく、ロメラという娘は……
どこまでも不器用で、愛らしい」
《しかし、誰からのツッコミもない。
なぜなら彼はここに一人。
ここまでのセリフも、すべて独り言だからだ》
スーッ…。
風が吹いた。
草がサワサワ揺れた。
——to be the next scene.
——お父さん的プロモーション -愛の落とし穴編-——
愛とは、ときに地中から始まる。
罠じゃない、これは“迎え入れるための穴”だ。
さすが我が娘、表現がロックすぎる……!
——次回。
Scene2:墓場から蘇った地獄のギター姉御、ロメラ登場。
——
私の脳内では、いつもイマジナリー娘が囁きます。
「素人が書いた小説なんて、誰も読んでないやろ」って。
だから、読んでくださったあなたが、まさかの奇跡です。ありがとうございます。
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