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[自作フィギュア]モンスター美少女たちのパパになったら、全員俺を殺しにくるんだが!?  作者: 矢崎 那央
番外編 最終幕『ドキなつフィナーレ〜はっするパパの大花火・そして娘たちが見送るパパ流れ〜』
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Scene30:『氷狼と、試練の咆哮』



 ドン、と空が鳴った。


 

 ただの爆音ではない。

 天の奥底に響くような、ずしんと重い音だ。


 

 そして——


 

 氷の大地が、青白く、うねった。

 


 ズズ……ッ、ズオオオ……!!


 

 氷柱が、地面を突き破ってせり上がる。


 鋭い牙のような、槍のような、

 ……いや、むしろ背骨のようだった。



 次の瞬間。



 巨大な影が、音もなく現れた。

 

 

 そいつは狼だった。

 ……否。狼の形をした、何かだった。



 全身が、凍てついた鎧のような毛並みに覆われ、

 背には、氷柱が無数に刺さっていた。


 その巨躯を締めるように、

 幾重にも巻きついた黒い鎖がきしむ。


 足音はない。だが、その存在が歩くだけで——


 

  ——風が、止まる。



 「……っ、なに、あれ……っ?」


 飛鳥が声を飲む。



 「おいおい、とんでもねーぞ……」


 ロメラが目を細めた。


  ——娘たちの誰もが言葉を失う中

 セドナが、少し恥ずかしそうに、ぽつりと呟いた。


 「……あの。あれ……夫です」



  ——時が、止まった。


 

 「……は?」

 「……夫ォ!!??」


  誰の声かもわからない驚きが、場に弾けた。



 「って、ハァ!? ダンナって!?」


 ノーニャが、素で叫ぶ。


 「いや、普通にびっくりした……ギャップ、すご……」



 意外にも金色姫が、目を輝かせてぐいっと前に出る。


 「えっ!? えっ!? セドナさん、ご結婚されてたの!?」

 

 彼女は口元を押さえながら、

 しかし明らかに“恋バナセンサー”が反応していた。



 「あら、ごめんなさいまし〜

 うふふ……急にテンション上がってしまってぇ」


 

 「ってか、え、ほんとに旦那? あれが!?

 なんてか……いや…めっちゃワイルド系ってか……」


 ロメラが若干引きつつも食いつく。



 ウェーリーも、尾鰭をブンブンと振りながら、

 ジリジリとセドナに近づいてきた。



 セドナは、ほんの少しだけ顔を赤らめて、言葉を選ぶように言った。


 

 「最初は……親に言われて、仕方なく、でした。  ……今は、まぁ、その……気持ちは……あります」



 「……ちょっと…詳細…気になる……の…!」


 ヴェルミアが、蜘蛛脚でぴとぴと跳ねながら迫る。


 

 「いや…でも、狼と人が一緒に暮らすなんて…」


 マハが斜め上から指摘する。


 

 「……あ、いえ。狼っぽいですが、犬……なんです」


 セドナが訂正した。


 「ちなみにですけどぉ、"な♡れ♡そ♡め"とかぁ…?」

 

 金色姫、めっちゃグイグイ来る。

 


 セドナは、パチパチまばたきをして、照れくさそうに口を開いた。


 「……昔、親に“結婚するならこの子にしなさい”って……言われまして」


 「最初は、“犬なんて……”って思ってたんですけど。

 でも、毎晩、舟で渡って…会いに来てくれて……」


 

 彼女は、指先を組みながら、ふふっと笑った。


 「不器用なんですけど、髪をとかしてくれたり、

なんだか、あの人なりに一生懸命なとこ……。

 かわいいな……とか思っちゃって…」

 


 娘たちが、ざわっとどよめいた。


 「うぉ、惚気じゃん!?」

 「ええ……それ…かわいい……」


 そのとき、飛鳥がひょいと手(翼)をあげた。



 「あの……お子さんとかは……?」


 セドナは深呼吸し、少し顔を赤らめながら言った。



 「ええ、犬の姿の子も、人間の姿の子も、産まれて…」


 セドナは恥ずかしそうに、でも少し誇らしげに続けた。



 「…犬の子たちは、海を走れるように成長して……

 人間の子たちはアドレッツっていう、ちょっと不思議な子たちになって……」



 娘たちが、一斉にテンションMAXでどよめく。


 飛鳥が、微笑みながらぽそり。


 「わたし、なんか……ちょっと……憧れちゃうかも……」


 ——娘たちはもう、完全に女子トーク。

   男の事など見てすらいなかった。



***



 ——一方、上空では。


 「ふむ。たしかにあれは……大きいな」


 


 私は、氷狼の姿を見上げ、冷静に観察していた。

 その咆哮の中に宿る“破壊”の気配。

 魔力の震え、そして、そこから感じる——


 ……確かな"父性"。



 「なるほど。……君もまた、“誰かを護ろうとする男”なのだな?」


 私は、静かに構えた。

 

 「ならば、私と共鳴するのもやむなし」



 私は、右手に“第二魔導注射器:パパモード・エクステンド”を装備する。


 それは意味不明なパーツが何層にも重なり、重さで手首が少しぐらついたが、

 気にしてはならない。これは“父としての重量感”である。



 「いくぞ——狼よ」


 「貴様の咆哮が、父性の具現であるというならば、

 私の魔術で、“愛の可視化”をもって答えよう!!」



 氷狼が、咆哮した。

 地面が割れる。

 空が凍る。


 

 私は、飛んだ。

 魔導ジャンプで、空中へ。



 ぶつかる。

 魔術と氷牙。

 巨大なエネルギーの衝突が、空間を震わせる。


 

 ひとつの狼の遠吠えと、ひとつの男の魔導の光。


 二つの父性が——


 空で、交錯した。


 

  ——戦いは、拮抗していた。

  セドナが、先ほどの惚気話から気を取り直し、

  女神の顔に、再び凛とした気配が戻る。



 「……もうよろしい!!」



 その声が響いた瞬間。

 狼の動きが、ピタリと止まった。


 私もまた、魔導跳躍を解除し、すうっと地面へ降りた。


 

 「魂の試練に乱入し、我が夫と渡り合うとは……尋常ではない者よ」


 

 セドナが、私の前に立つ。

 その目は、まっすぐだった。



 「問う。この異界、そして“娘たち”に何を望む?」


 「答えよ。罪深き男よ」



 私は、息を整えた。

 そして、右手をそっと胸に当て、静かに語る。


 

 「——それは、

  彼女たちに、“父としての真実”を示すこと」


 

 「己が犯した罪と、

  向き合いながら——なお、

  手を差し伸べる者でありたいのだ」


 

  ——言い終えると、空気が動いた。

 


 セドナが目を閉じる。


 風が、そよぐ。


 

 「ならば、そなたにも……課すとしよう」

 

 「己の罪と、向き合う試練を」


 

 私は、頷いた。


 ためらいはなかった。


 

 「……受けよう」


 

 私は、まっすぐ彼女を見て言った。


 「罪など、恐れるに足らず」


 「なぜなら、私は——」

 



 「パパだからな!!」


 

 

——to be the next scene.

 


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