Epilogue:『それでも私はお父さんだ』
誰もいなくなった湖畔が、
ようやく静かになった。
ザアァァ……。
波音の音がする。
月が水面に映って、
ゆらりと揺れて、かたちが崩れる。
私はその光を背中に感じながら、
石の上に腰を下ろした。
ガサガサ……。
服がこすれる音が、
やけに大きく聞こえた。
座ったとき、体じゅうが冷えたような気がした。
顔にはまだノーニャの引っかきキズ。
髪にはヴェルミアの糸が絡み、
背中には水鞭の痕が生々しい。
マハの催眠のせいで気持ち悪く、
まだ吐き気がちょっとする。
それでも、私は、笑っていた。
「……ふむ」
ヒュー……。
夜風が一陣、吹き抜けた。
クチビルのはしが勝手にゆるむ。
「……父というのは、実に業深きものであったか」
その音が、私の呟きをさらっていった。
だれに届くでもない。ただ、のぼっていった。
月と、星と、あの子たちの……。
怒りと、涙と、笑いの向こうがわへ。
私は空を見上げた。しばらく、ぼんやりと。
怒号。打撃音。ムチの感触。
視界ににじむ星と、
脳裏に焼き付いた、あの温かな翼の感触。
「……家族、か」
それは種火のようだった。
手をかざせば、やさしくあたたかく……。
近づきすぎれば、傷ついてしまう。
しかし、息を止めれば
すぐにも消えそうな、
脆く、儚い灯り。
それでも、私の胸のうちには、
たしかに灯っていた。
「……さて」
私は立ち上がった。
足元の砂利が、わずかに音を立てた。
体は重かったが、歩みは確かだった。
管理者でも、創造主でもない。
“父”という、まったくもって不器用で、
不合理で、不確かな……。
けれども、選んでしまった道。
「……次は、誰に蹴られに行こうか」
そう、私は笑った。
乾いた笑いが、
夜の静けさにひとつだけ跳ねた。
そして、歩き出した。
月が私の進む先に影をつくる。
吹き抜ける風が、私の背を押す。
風に吹かれて、ほんの少しだけ……
赦されたような気がした。
——the episode’s end.
——次回予告。
第二話 第一幕『ロックでゾンビな不良娘に「パパ」と呼ばれたくて死にかけてるんだが!?〜全く、反抗期と言うものは実に厄介だ〜』
いよいよ、彼が本格的に娘たちの元へ(勝手に)訪問し、(無理やりにでも押し付ける)父娘の心の交流がはじまる……。
——ご期待ください。
——エピローグあとがき——
この物語に登場する、魅力的な“娘たち”──
実は、作者がひとりひとり、立体作品として造形しています。
(※画像は、鳥籠の中の翡翠の翼を持つ少女「飛鳥」)
もしお時間がありましたら、彼女たちが登場する
〜もうひとつの物語〜
『君は、風に還る。』もぜひご覧ください。
https://ncode.syosetu.com/n3644kl/
異形の少女たちが、自分の翼で“生きる意味”を探し旅をする。
そんな、少しだけ優しくて痛みをはらんだ物語です。




