日常にはない緊張感。たまに良いよね、と真顔でポーズ。―幻想の肖像
学生時代に好きで集めた澁澤龍彦。本棚の整理をしているついでに読み始めてしまった『幻想の肖像』。美術史の勉強は澁澤で習ったと言ってもいい程はまった、澁澤の文庫を再読です。
そう。この魅惑的な美女たちの肖像。見飽きることなく、見つめてしまうエナメルのような滑らかな肌。まさに陶器の輝き。
特に、ペトルス・クリストゥスの「若い女の肖像」だ。
細い切れ長の眼。まさにミステリアスと言っていい謎の魅力に満ちている。幼い少女のような表情と華奢な体つきは、日本人好みな肖像とは言えないか。
うーん。こんな少女を拝んでいると、私の肖像も作ってみたくなるのである。そうだ。一枚くらいいいではないか。
カメラが趣味の良人。求職中の私に、一枚履歴書用のポートレートを撮ってくださいとお願いする。快諾する良人。いいではないか。やってみよう。
早速髪から纏めていく。この本の肖像の女性たちは、波打つウェーブの髪型だったり、縄のように編んで束にして、飾りを散りばめたりと髪型を見るだけでも見応えがある。今回、私のポートレートは履歴書用。私は多めに手に取ったワックスを髪に撫でつけ、きっちりと結んでいく。顔周りもスッキリさせるためシニョンにして留める。
もちろん飾りはない。
次は薄く化粧をはたいていく。『幻想の肖像』の女性たちのように眉を剃り落とすのはさすがにできない。やや太めのアーチ状にペンシルでなぞってぼかす。アイメイクはしないで、お決まりの眼鏡をかける。リップもワセリンを薄く伸ばす程度。
どうだろう。スーツに着替え、第一ボタンまで留めて、息を止めて鏡の前に立った。
いいんではないの。年増のリクルートスーツの痛みも気にしつつ、早速、カメラマン・良人によってシャッターが切られる。
日常にはない緊張感。たまに良いよね、と真顔でポーズ。
そしてプリントアウトしてもらった写真にあ然とするわけです。もちろんそこはお決まり。
なんとなく想像と違っているけど、履歴書としては良いのかな、と納得する私。年増のダブルワークを狙った結果ですもの。こんなものです。
良人は、満足そう。
家族にも趣味の範囲が認められて、余程嬉しかったのかカメラをいじり出すのでした。
『幻想の肖像』の美女たちはよりすぐって美女ばかりか、個性派か。化粧も落として、澁澤を読みあさる昼下がりなのでした。




