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かけがえないんだろう、と騙されてあげる  作者: 今井葉


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78/81

陰は称賛されるも、読書や宿題は明るい部屋で、ですよね。―陰翳礼讃

 なんともムーディ。食後の後片付けも終わってひと息。そんな時に奥から引っ張り出してきたのは間接照明だ。   

 



 新婚の頃、インテリアショップで見つけて、アロマも焚ける仕様のこちら間接照明。陰りのある室内にぽっと一角を照らし、ラベンダーの香りを発する照明に癒されたくなる。なんてムーディ。ホットチャイでも飲もうかしら。なんとなく悶え気味に長い髪をかき寄せたり。




 我ながら、ドン引きもいいところで、居住まいを正しつつ⋯




 これまた本棚で埃を被っていた谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』だ。

 日本の伝統的な美意識、「陰り」を称賛した随筆である『陰翳礼讃』を初めて読んだのは大学生だった。闇の中から見出される美しさというものに感銘を受け、西洋の明るさとの比較も頷ける確かな一冊として恭しくカバーをつけさせてもらったものだ。




 今回、谷崎の『陰翳礼讃』の再読で、闇色や陰りを堪能したくなったというわけである。




 ただ暗色一色なのがいいのではない。それではただの停電だ。谷崎の言う、闇の中に住む母のほのじろい顔ひとつ、のように情緒や風情が必要だ。月明かりほどの光源でコントラストを楽しむ。これだ。




 間接照明と温かなホットチャイ。癒される。私が求めていたものは、これだったのだ⋯





 と、途端。




 パチン。灯りが点けられる。

「暗くて宿題できないんだけど、点けるよ」と娘のクールなひと言。




「ど、どうぞ⋯」

 わけもなく恥ずかしさがこみ上げ、ずずっと冷めたチャイをすする。




 この情緒が分からない娘っ子よ。と涙を流しつつ、煌々と照る照明の下で読む『陰翳礼讃』。陰は称賛されるも、読書や宿題は明るい部屋で、ですよね。 





 またムーディやりたいな、と思う母でした。



 

 

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