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かけがえないんだろう、と騙されてあげる  作者: 今井葉


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極楽にいるであろうご先祖様に、南無、と手を合わせる。―蜘蛛の糸

 「悪いことすると地獄に行くんだよ。天国に行きたかったら善い行いをしないとね」



 子どもの頃、周囲の大人たちに教えこまれた、と言うよりおどし文句だろうという、これ。恐れていた、と言うより、なんとなくいい子に振る舞うのが当たり前だと思っていた、子ども時代。



 芥川龍之介の『蜘蛛の糸』は、読むのが先、と言うより、なんとなく知っている有名な話。



 改めて読んだ子どもの私はこう思った。



 大どろぼうが、クモを助けた位でお釈迦様からご慈悲があるって?


 

 私は大どろぼうをしたことがないけど、クモはよく潰して殺してしまうんですが、お釈迦様は私にはご慈悲いただけませんか?



 なんなら、クモだけじゃなくて、アリも潰すし、カエルもつい踏んづけちゃったことがあるんですが⋯



 子どもの私、大いに悩む。



 大きな罪よりも細やかな優しさを見せたカンダタを助けてあげようと思うお釈迦様に、自分がすごく残酷な子どもだと言われたような気持ちになったのでした。



 クモを気持ち悪いと思っちゃいけない?

 アリって、行列になると、ゾワッする。

 カエルって、つぶれているものでしょう?



 そんな日常が、実は平和でもなんでもなくて、地獄に行っちゃうかもしれない罪深さだったりするのかも⋯



 そういう日常が壊される感覚に襲われて怖くなった作品だった。



 大人になり。ある程度麻痺してしまい、また訪れる何でもない日常に。



 いい子からいい人に成長して、当たり前の日常がなんとなく苦しいと感じる日々に、再読した『蜘蛛の糸』




 極楽の蓮の池の描写が美しすぎて無慈悲な感じがしちゃう秋に、極楽にいるであろうご先祖様に、南無、と手を合わせる。




 家で。職場で。「虫いる! 殺して!」と騒がれても、そっとテッシュにくるんで、外に逃がしてあげよう。そんなふうに、恐れが行いを変えてしまう。小心者の私。でも善人な私。







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