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かけがえないんだろう、と騙されてあげる  作者: 今井葉


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家族揃って顔を合わせ、同じものを食べ、今日の会話をする。―古事記

 学生の頃、友人と福永武彦の作品を読み合っていた。その頃を思い出して、今日、福永武彦訳の『古事記』を手に取る。大学の講義でも学んだ、イザナギ、イザナミの神話を再読しようと思う。



 家族の団らんの時。テーブルのうえに並ぶ、煮物や焼いたのや、サラダ。汁に、炊いたご飯。真新しいメニューを並べると喜ぶきょうだいたち。温かい汁をまず最初に口に運ぶのがお決まりの伴侶。

 家族で揃って顔を合わせ、同じものを食べ、今日の会話をする。



 イザナミは火の神である、ヒノカグツチノカミを生むに当たって焼かれてこの世を去ってしまう。黄泉の国へと旅立ったイザナミを追って、イザナギは死者の国である、黄泉の国へと降る。



 連れ戻したいイザナギに、イザナミは、黄泉国よもつくにで不浄な火と水で炊いた食物を口にしたので、身体が汚れてしまった、と話す。イザナミは黄泉の国の住人となってしまったのだ。黄泉の国の食べ物を、黄泉戸喫よもつへぐいと言う。黄泉戸喫と呼ばれる食事を摂ると、生者の世界へと戻れなくなってしまうことを意味するのだ。



 黄泉戸喫の話はギリシャ神話にもある。同じ釜の飯を食うこと、ともに食事を摂ることは、特別な意味を持つのだろう。これを共食というが、家族となるということだろう。

 共食に深い意味を持たせたのだろうということ。そのことは、家族の食事を作る身となり、それを生業にもしている私は深く納得できることで、家族の身体を作る、活力となる食事を毎日用意することは、私の生活のなかで大きな意味を持つ。



 黄泉戸喫をすることで、黄泉返りができなくなってしまったイザナミ。その体は、蛆が湧き、膿が溢れ、雷がその体に落ちている不浄なものだった。黄泉の国で、イザナミはどんな食事を摂ったのか、イザナギはそのイザナミの有り様を見て、なにを思ったのか、考えを深める秋としたいと思う。




 見慣れた食器に、いつもの温かなご飯。きょうだいたちへのお願い事は、食事を食べながらすると、快く引き受けてくれる。心が解けるご飯。今日も。






 

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