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かけがえないんだろう、と騙されてあげる  作者: 今井葉


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そう。私の特技。忘れてしまうのです。―方丈記

 人生なにがあるか分からない。時々、訪れる無常感。慎ましくあろうと誓った出来事。



 私を襲った無常感とは。



 そう。職場でひっくり返ったのです。気づいた時には、頭を強打しておりました。持っていたかごの中身は散乱し、恥ずかしさですぐに起き上がり、

「大丈夫です! すみません!」

と、仕事を続行したのでした。



「大丈夫?! 大丈夫じゃないですよね?! 頭、打ったんじゃないですか?!」

 周囲の同僚に騒がれ、どこも痛くなかったけど、痛いような気がしてくる私。その後、上司に報告されて病院へ行くように言われる始末となったのです。



 上司に心配されたのは、脳の損傷。MRIを撮ってくるように言われたのです。まさか。そんな。どこも異常ないですけど。でも行けと言われたのですから、行きますが。



 混んでる脳神経外科で待たされ検査するも、異常なし。そりゃあ、そうでしょうと思ったのでした。



 しかし、次の日。



 首が痛い。真っすぐにしてないと痛い。それに吐き気もあるような気もする。翌日、整形外科へ。



 結局、頸椎捻挫という診断結果に至ったのでした。痛み止めを処方され、ちょっぴりみっともないけど、首に貼り薬、丸見えな状態の日々⋯



 痛みがある時。



 鴨長明さんの如く、ですよ。人災から来る無常感に、打ちひしがれ、無力感から、ただ健康であることがどれだけ人生の宝か、としみじみ思うのでした。安静にし、職場で慰められ、自分を労ることに注力する日々⋯



 しかしながら。



 人とは、強欲なものよ。慎ましい日々はそう続かないものです。そう。私の特技。忘れてしまうのです。ちょっと調子良くなってころっと忘れる。でもそんな無常体験を都合よく忘れてしまうのは、どうも私だけでもないらしい。



「人皆あぢきなきことを述べて、いささか心の濁りもうすらぐと見えしかど、月日重なり、年経にし後は、ことばにかけて言い出づる人だになし」



 無常を諭す天災も、その直後は、誰も彼もいかに人とは無力かを語り合い、欲望も薄れるかと思えたが、月日が過ぎてしまうと忘れてしまうのでした。



 職場から話題にされるような日々も過ぎ、家族からも特に労ってもらえなくなったような今、止めていた飲酒も再開し、物欲に任せて、散財するような日々に舞い戻り。人とは儚いものよ。学びよ、何処に。



 すっかりその気だったけど、その時だけとはお恥ずかしい限りで。面目ない。





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