そんな少女時代の私が、懸命に百人一首の札を取り合ったこと。―古今集
雨粒に色褪せる桜。溶けて、白く褪せて、まるで年月経った私の肌。雨模様の私の心。滲む曇り空に溶ける花びら。雨のいたずらで、頬を打つ粒に、涙と合流する。見上げる空に、失った桜色に、思い出までが失い、そっと桜の木に寄り添う。
小野小町の歌。「花の色は移りにけりないたずらにわが身世にふるながめせしまに」
百人一首で一番くらい最初に覚えた歌。小野小町は綺麗な人だった、といつの間にか知っていたこと。その小野小町が年を取って、美しさも、色褪せる桜のようになった、ということが信じられないような、そんな少女時代の私が、懸命に百人一首の札を取り合ったこと。
年を経ることと、雨の降ることを掛け、何だか物悲しい雰囲気があるこの一首。桜の色を、雨が溶かして行くなんて。既にアンニュイな気持ちも知っていた少女の私が、年老いた小野小町を思う。年を取れば、得るものが増えると期待こそすれ、失うことがあるとは思い測れなかった若年の私。年を取った今だからこそ、共感できるこの歌に、儚さが身に沁みる。その儚さを知ることこそ、少女時代夢見た年長けたひとだろう。衰えるばかりの自分を見つめ、あの頃目指した大人になれただろうかと、ふと立ち止まってしまう、そんな一首なのだ。
時が遠ざかる。盛んに咲き乱れた、あの頃の桜。静かに打つ雨粒が、年老いた肌の上を流れていく。少女時代の私。雨の流れる音と、時の流れとが、さらさらと花びらを通過していく。




