帆が風を受ける。やがて前進する船のように筆を乗せて。―マラルメ詩集
何からどこから、手をつければいいのだ。分からない。主題は? 書き出しは? 迷い、惑う。
真っ白な紙を前にして思うこと。それは苦悶の表情を浮かべることだろう。清少納言は白い紙を前にするとわくわくして、生きていけそう! と心躍ったらしい。何を書こう! そう、枕よ! などと。
『マラルメ詩集』に「わが船の帆の素白なる悩み」という詩句がある。船の帆の白さと、ノートの白さとが掛けられたこの詩は、孤独の創作の苦しみを「素白なる悩み」と表現した。
なにも書けない、いつまでも真っ白な紙を前にして、何を書いたら良いのか? の前に、モチーフを探しに出掛ける。それは、台所仕事をしている時に、ひょんなことで見つけたり、先人の言葉をパラパラめくった、その書物の中で発見することもある。自分を内省させるため日記を書く傍ら、主観を見つけたりすることもある。
白い紙に、黒い字が点々と埋まっていくのと、画布に色が乗せられ、絵が出来上がっていく高揚感は似ている。モチーフに沿って、筆が進んでいく作業そのものは、孤独で苦しみを伴うが、そういった悩みも主題に取り入れたりするのも、創作者ならではで面白い。詩人の苦悩は、作られた詩を豊かにしている。
真っ白の紙を、前にしたそのスタートラインまでは一緒。それをどう埋めていくのか。モチーフは? 主題は? 一文字ずつ描かれ、やがて形作られた時、それが傑作か否かが決まる。非凡だと相手がひれ伏したり、感動した時、それは生きた創作物として動き出すのだ。
ぽつりぽつり語りだす。帆が風を受ける。やがて前進する船のように筆を乗せて。




