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かけがえないんだろう、と騙されてあげる  作者: 今井葉


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「よしなしごとですが、申し訳ない」と言われれば、逆に興味をそそられてしまう。

 うちのきょうだいたちは、どうやら最近、古典を習っているらしい。枕草子だの徒然草だの平家物語だのを音読し、その早口っぷりに閉口してしまう。ほとんど呪文のようにしか聞こえないのであるが、「だって暗記しちゃったも〜ん」だそう。


 教科書にも載る徒然草の冒頭を、私も頭を並べて確認。ふむふむ。


 つれづれなるままに、日くらし、硯にむかひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。


 この有名な書き出し。徒然草を読んだことない人も、ここなら知っているという書き出し。


 私は思わず唸ってしまう。この控えめな物言いに隠れた都会人らしいセンス。

 退屈な時間の中、じっとり湧いて来て、筆を動かしたくなる様な気持ち。じっと硯に向かって、心に浮かぶとりとめのないようなものを、何となく書いてみたら、妙なほど興味深く、ものに憑かれたとさえ思うんだ、などと。


 「書いたから読んで読んで! 面白いからさあ! リア充な私のリアルな言葉なの。ぜひ!」なんて鼻息荒く言われたら、却って読みたくなくなると言うもの。

 「よしなしごとですが、申し訳ない」と言われれば、逆に興味をそそられてしまう。ぜひ、読みたい! となる。

 「いえいえ、こんなことに興味があるのは私だけ。一読に及びません」などという声が聞こえて来そう。そこがまた格好良すぎるでしょう、兼好さん! と背中をバシンと張り倒したくなるのだ。


 果たして、意味も分かっているのか分かっていないのか、外国語のようにしか思ってないんだろうきょうだいたち。今日も早口で呪文の音読に、味わいそそられない気分の私なのである。




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