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かけがえないんだろう、と騙されてあげる  作者: 今井葉


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私は奔走すればする程、空虚感が漂う。

 五月蝿い蝿。漢字にすると余計にうるさい。生ごみにうるさい蝿。私の加齢臭にうるさい蝿。素早い身のこなし。捕まる気配なんてないのである。


 横光利一の『蝿』を開く。眼の大きな蝿の生命力よ。


 春も過ぎ、毎日必死に生きる私。頼りがいのない私が、家族のために、日々、奔走。みっともないのも厭わず、ドタバタと足音踏み鳴らし、とにかくやたらめったらペコペコお辞儀して歩く。


 そんな私の周りを飛び回る蝿よ。


 私を小馬鹿にしてるんだろうか。その身軽さよ。私は奔走すればする程、空虚感が漂う。

 「真夏の宿場は空虚だった」から語り始められる『蝿』は、眼の大きな一疋の蝿が視点となっているように描かれている。蜘蛛の網から生命を取り戻し、最後、「その羽根に力を籠めて、ただひとり、悠々と青空の中を飛んでいった」蝿は、生命力に満ちている。

 蝿の命が助かり、人の命が亡くなる。どんなに忖度してあげたところで、命の重みは平等なのかもしれない。馬鹿馬鹿しくなってくる。それがいい。


 ああ、うるさい蝿よ。お前は飛んでても、止まっても気持ちが悪い。手をすり合わせ、申し訳ありませんとばかりに。




 

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