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かけがえないんだろう、と騙されてあげる  作者: 今井葉


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すっかりその気だった私も、ようやく鎮圧されたのである。

 自宅の修理で、また、家族のケガで、と急な出費が続き、無常感を感じる日々。この世に永遠などないのだ、いつ何時平穏が乱れたっておかしくないのだ! とばかり、鴨長明『方丈記』を開く。これを読むと、贅沢することの虚しさが押し寄せてきて、今ある暮らしで満足せねば! ときょうだいたちにも説いて聞かせたり。迷惑なのである。


 大火、竜巻、飢饉、大震災、とこれでもかと人災、天災に見舞われた不安な時代に『方丈記』は書かれた。ひとはいかに無力であるかを思い知り、欲望や邪念と言った心の濁りも薄らぎ、無常感が心に染めていく世間。はかない欲望に身を置いていてはいけないのである! と慎ましく過ごそうと、節約メニューの献立を考えたり、防災の備えをしたり、やれそうなことをやってみる。

 家族は、と言うと、母がまたすっかりその気だよ、とばかり横目で馬鹿にして、ゲームしながら動画を観て、お菓子まで食い漁るという始末。

 そういう日常に慣れていてはいけないのだ! と吠える私に、一向に理解を示そうとしない家族。家族から、母がこの家を乱してる! 人災だ! と攻撃され、すっかりその気だった私も、ようやく鎮圧されたのである。


 でもね、物欲ははかないですよ。満たされたと思うのは、手に入れたその時ばかりよ⋯と虚しくつぶやく私の気持は何処。昔から欲望が乏しいから、立派な人物にはなれなかったんだ、と言えばそれまで。欲望に忠実に向上していけるのであれば、どうぞ頑張れきょうだいたちよ。


 行く河の流れは絶えずして、とぶつぶつつぶやく。方丈の庵。我が家の工事。

 住まう奢れるもの。 






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