第7商 "海鮮居酒屋"
(兼成の部屋、ウェルがもう少し話そうかと提案した後)
兼成『ウェルさん ありがとうございます 是非』
ウェル『先ほど 経済では次の信用サイクルは前の信用サイクルよりも成長すると説明した… それが一気に解消されるタイミングがくる これが長期の信用サイクルなのだよ』
兼成『ある時点になると返すおカネが収入より増えて支払いが減ってしまうと…そして誰かの支払いは他の誰かの収入にもなるから…』
ウェル『ああ そして信用と金利があれば返すカネは増えていく だから早いタイミングで支払いを減らした者が得をして…遅い者が大損をする』
兼成『なんかロスカットの感覚に近い…』
ウェル『デレバレッジとは…こうした過剰な信用が削減されていくこと』
ウェル『貸し手が順番に支払いを減らす… 他の誰かの収入が減る が返すカネは増え続ける… 借り手は圧迫され信用はなくなりこれ以上借りられなくなる… 借り手は資産を売らざるを得なくなる… 資産の売りが押し寄せ資産の値段は下落… 資産の値段が下落すれば返せるカネが少ないので信用がさらになくなる 株価が暴落する… 不動産や銀行は巻き込まれる…』
兼成『これは景気後退とは違う?』
ウェル『ああ違う 景気後退と違ってデレバレッジでは…金利を下げても解決しない それくらい借り手の返済負担が大きくなりすぎているのだよ』
兼成(これに税金の増減も含めて考えると…いかにおカネを動かすのに慎重になった方がいいのかわかる)
ウェル『1929年アメリカ…1989年日本…そして2008年全世界…いずれも同じ理由でこの現象が起きた 知ってるかね?』
兼成『はい』
ウェル『ではデレバレッジをどうするのか?』
(ウェルが指で4を示す)
ウェル『方法は主に4つ
❶国民・企業・政府が支払いを削減する
❷デフォルト(債務不履行)やリストラで債務を減らす
❸富が「持つ者」から「持たざる者」に再分配される
❹中央銀行が新しいカネを刷る
これらをハイパーインフレを起こさないようなバランスで行う必要がある この深刻な経済収縮が不況と呼ばれるものだ この要因は1つ』
ウェル『自分の富だと思ってたものの多くが実際には存在しないと気づくこと』
兼成『幻想の中から解けるみたいなイメージですかね』
ウェル『カネとは 他の誰かを信じる気持ち… それを自分のものだと言わんばかりに持つ時点で幻想にかかってしまうのだよ』
(ウェルがメガネをカチャっとする)
ウェル「デレバレッジとは 事業…不動産…消費…それらを自分のため自分のためと頑張る人間が破滅していく…それだけのつまらないイベントなのだよ」
兼成『不況が続くと極端な政治的変化が起きてしまいますしね… でも4つ目だけちょっと違う気が…』
ウェル『いいとこに気づいたな』
ウェル『新しいカネを刷るすることはインフレと景気刺激策をもたらす そしてこれは中央銀行と政府が協力しなければならない』
兼成『中央銀行は新しいおカネを刷ることができても 金融資産しか買えない…
政府は国民におカネが行き渡るようにして モノ・サービスを買えるようにできても おカネを刷ることができない…
だから中央銀行は国債を買うことで実質的に政府におカネを貸し…政府が赤字を出して景気刺激策を通じてモノ・サービスへの支払いを増やせるようにする』
ウェル『そうだ 収入の伸び率が金利を上回るだけのカネを刷るんだ だが重要なのはカネを刷り過ぎてハイパーインフレを起こさないようにすること わかるかね?』
兼成『はい そして僕らは 不況の中でもしハイパーインフレが起きてしまったら… ということも考えなきゃいけない』
ウェル『まあその話はまたの機会にしよう ここまでで経済活動の3原則が分かった』
(ウェルが指で1を示す)
ウェル『❶”信用が収入より速く増えてはいけない”… カネを返すことに押しつぶされるからだ』
(ウェルが指で2を示す)
ウェル『❷”収入が生産より速く増えてはいけない”…競争力を失うからだ 生産性が増えてもその収入が妥当なのかを常に計算しろ そして最後が一番大事』
(ウェルが指で3を示す)
ウェル『❸”とにかく生産性を上げろ”…前にも言ったが長い目で見るとこれが一番重要だ』
兼成『これを意識できないと 経済の波に飲み込まれてしまうと…』
ウェル『そうだ 経済が3アウトになる前に逃げて… 3アウトになって経済が苦しんでいるなら経済成長に向けておカネを使っていく…これが投資 そう思わないかね?』
兼成『血肉にします…ちなみにウェルさんの経済の見方って…』
ウェル『まず為替…次に債券・金利…その次に株式…そしてコモディティ…デリバティブ』
兼成『それは何を見てるんです?』
ウェル『詳しくはまた話すが… まず為替・債券・金利などでボラティリティの発生場所を見る…そして資産のつながりをざっくり確認し どこでリスクテイクがされているかを考える』
兼成『確認ポイントとかあるんですか?』
ウェル『為替の確認ポイントは2つ
❶主要通貨ペア… これはバスケットでも見る
❷各主要通貨ペアのボラティリティ…ざっくりでもいい そこに各通貨・金利動向・その背景にある統計的な情報が織り込まれている』
『為替は通貨間での資産移動を察知するためのツールとするんだ 常に動いているし マーケット参加者の厚みがある』
『そしてバリア情報も追うと損切り・利食いに活用できる よく動いている為替ペア… 動いていないにも関わらずバスケットで見た時にズレているペアは面白い』
兼成『債券・金利は…?』
ウェル『債券・金利の確認ポイントは5つ
まず確実に確認するのは2つ
❶主要年限の絶対水準… 1年物 2年物 5年物 10年物 30年物だな
❷主要年限間金利差…2年物と10年物…5年物と30年物のような感じだ』
『金利は関係のない資産同士を繋げていく役割をしている… デリバティブのポジションは金利を通じて原資産の価格を動かしている そして』
『その金利の出発点である政策金利を考えるためにこの2つを見る』
兼成『残り3つとは?』
ウェル『余裕があれば確認するのは3つ
❸通貨ベーシス
❹金利ボラティリティサーフェス
❺先物』
『通貨ベーシスは金融危機などを察知するためのツールとするんだ カネの偏り・違和感があれば通貨ベーシスを見る つまり』
『株価指数が1日に10%下落しても… 通貨ベーシスが通常通りであれば気にせず押し目だと考える』
兼成『じゃあその株式は…?』
ウェル『株式の確認ポイントは2つ
❶主要国の株価指数
❷気になる国のセクターと それを構成する個別企業の株価』
兼成(セクター…業界のことか)
ウェル『通貨と主要セクターを合わせて見ることが多い』
兼成『あとは…』
ウェル『コモディティの確認ポイントは コモディティの現物だ そして私はデリバティブを考える機会も多いので見るだけだ』
兼成『なんとなく分かってきたような…』
ウェル『自分の中で何かに置き換えて考えるクセをつけた方がいい… それができるようになって初めて 自分の頭で考えていると言える そう思わないかね?』
兼成『ウェルさんの場合は?』
ウェル『海鮮居酒屋だ』
兼成『え?』
ウェル『為替はお酒…他のメニューと一緒に動く…短期で飲み食いを繰り返すと酔って潰れて他の食べ物も吐いてしまう… 大きいグラスを酔って潰れないくらい長期で飲むのがいいのではないか』
『債券・金利は刺身の盛り合わせ… めちゃめちゃ大きいものを頼んでずっとテーブルに残り続ける… これがあるから他のメニューを頼んでも海鮮居酒屋にいると感じる』
『株式・コモディティは他のメニュー… 枝豆 チャンジャ 卵焼き 焼き魚 えいひれ かにみそ… 他のお店で食べれるものもある 食べ過ぎに気をつけろ』
『デリバティブは海鮮風のものだ 海鮮丼 寿司 海鮮風卵焼き 海鮮風チャーハン 海鮮風ラーメン… 余裕があれば食べたい… うまいからな だが刺身がまずいと全てまずい』
兼成『なんかよくわからないですけど…』
ウェル『自分の身体感覚に知識を落とすことが重要なんだ 自分だけがわかればいい そうすれば勝てる』
兼成『僕はカードゲームが好きなので それで置き換えてみます』
(ウェルが胸に手を当ててお辞儀をしている)
ウェル『またの100円の賽銭 心よりお待ちしております』
(お賽銭箱が映る、光っている)
兼成『ウェルさんって居酒屋とかいくんですか?』
ウェル『当たり前だ 酒場ではその土地の人間が見れるからな』
兼成『あ そういう理由なんですね』