第4商 "2種類のカネ"
(早朝の静けさが部屋に広がる中、スマホのアラームが鳴り、兼成はベッドの上で目を覚ます、時計の針が午前5時を指している、カーテンは閉めておらず朝日が差し込む)
(兼成は布団を畳んで枕の上に置く)
(兼成はポットでお湯を沸かし始める)
(兼成はドライヤーをし、その後に歯を磨く、そしてヒゲを剃る)
(兼成はコーヒーを持ってパソコンの元へ)
(兼成は小さい四角いチョコレートを包み紙から取り出して1つ食べる)
(兼成はパソコンで2つのブラウザを開いている、右側で何かをまとめている)
(兼成はパソコンで経済ニュースを見始める、GDPについて書いてある)
兼成(そういえば昨日ウェルが言ってた おカネは2種類って…)
(兼成は財布から100円を取り出して賽銭箱に入れる、その音が、朝の静けさの中で響く)
(深呼吸をして、目を閉じ、祈りを捧げる)
兼成(どうか…お客様の笑顔のため… 僕におカネについて教えてください)
(その瞬間、目の前に光が閃き、ウェルの姿が現れる、エルフの優雅な姿が、あっという間に部屋の中に浮かび上がる)
(ウェルが胸に手を当ててお辞儀をしている)
ウェル(笑みを浮かべて)『常盤兼成様 ご利用ありがとうございます』
兼成『おはようございます ウェルさん』
ウェル『君には朝のルーティーンがあるのか?』
兼成『はい 起きたばかりだと頭がボーッとするので 1時間30分のルーティーンを決めてます』
ウェル(笑みを浮かべて)『90分… 結構しっかりしている 何か理由があるのかい?』
兼成『はい コルチゾールという脳内ホルモンが起床後1時間30分ほどで減少し始めるので… そのタイミングでルーティーンを終えてコーヒーを飲むようにしています』
ウェル『なるほどな カーテンを閉めていなかったのは?』
兼成『また魔法使いましたね… あれは』
(兼成は窓の外の太陽を指差す)
兼成『朝日を直接浴びるとセロトニンが分泌され目覚めが爽やかになるので… 15センチくらい開けるだけで十分なんですけど もうカーテン開けるのがめんどくさくなっちゃって…』
ウェル『ほう… 頭も洗うのか』
兼成『お湯を後頭部に当てて交感神経を優位にするんです… 頭をスッキリさせたくて… ちなみにお湯になるまでの冷水は洗顔に使います!! 冷水の洗顔だと肌がダメージを受けにくいって聞いたことあって』
ウェル『細かいところまで考えているのだな』
兼成『ありがとうございます それから起床後にコップ1杯の常温水か白湯を飲むようにしています』
ウェル『それはなぜ?』
兼成『起床直後は軽い脱水状態なので水分を補給するんです それと消化管を刺激し体を起こすことができるからですね… ここまででお湯が沸くようにポットをセットします』
ウェル『そこまで考えているとは感心するよ それで他には何か?』
兼成『最後に チョコレートをひとかけら食べるようにしています』
ウェル『チョコレート? 昨日はグミを食べていたな 甘いものが好きなのかい?』
兼成『そこにも理由があって…』
兼成『チョコレートを少量食べることで脳内の高い周波数のα波が増加し 認知から行動への移行が早くなる可能性があると言われています』
ウェル『へえ…量と効果は比例しないのか?』
兼成『はい たくさん食べても効果が増すわけではないので ひとかけらだけにしています』
ウェル『面白いな 私のルーティーンに似ている』
兼成『そうなんですか… 僕は起きた瞬間から魔法でシャキッと準備されてるのかと…』
ウェル『人間もエルフも…そこまで違いはないのだよ まあ私の分身はずっと同じ姿だが』
兼成『ウェルさんのルーティーン…気になります』
ウェル『合宿に来れば分かる』
兼成『合宿?』
ウェル『年1回 2泊3日私が神社で直接教える もちろん別料金が発生するが』
兼成(サラッと宣伝入れてきた〜!!)『…か 考えます』
(兼成が何かに気づく)
兼成『それって1年で122回 閏年だと123回… それぞれの方に年1回という形でやってらっしゃる…?』
(ウェルがニヤニヤしている)
ウェル『勘のいいやつは大好きだよ… 私は』
兼成『そろそろ昨日言ってた2種類のおカネについて…』
ウェル『そうだな カネには”貨幣”と”信用” この2種類があるのだよ まず貨幣から話そう』
(ウェルが賽銭箱を指差す)
ウェル『貨幣とは…硬貨・紙幣のこと 金属や紙でできている 賽銭に使うのも貨幣だ』
兼成『でも ただの金属や紙の塊では意味がない…他の誰かが貨幣だと信じなきゃいけない』
ウェル『そうだ カネとは他の誰かを信じる気持ち… 貨幣であるかどうかは3つの機能を持つかで決まるのだよ』
兼成(3つの機能…大学の授業でやったことあるかも)
(ウェルが指で1を示す)
ウェル『❶”交換機能”…取引の支払いに使えること 例えばこの賽銭に100円玉を入れれば 先人達の知恵が手に入る』
(ウェルが指で2を示す)
ウェル『❷”価値尺度機能”…取引するモノ・サービスの価値がどれくらいか測れること 価値と値段については前話したな』
兼成『はい 5箇条を聞いた時に』
(ウェルが指で3を示す)
ウェル『❸”価値保存機能”…現在の価値をとっておいて将来の取引の支払いに使える 今日100円として使ってたものが明日100円として使えなければ意味がない』
ウェル『だが問題は貨幣の価値がどのように決まるかだ…例えば…』
(ウェルが兼成の歴史の本を手にとってページを広げ、指をさす)
ウェル『アリストテレス氏… やつはニコマコス倫理学で…”貨幣法定説”を説いた… “貨幣の価値は国家が決める”とな 当時は変人扱いされていたが実際 法定通貨は国家の保証があるから価値を持つ』
兼成『でも タバコが貨幣として使われた物語も見たことがあるんだよな…』
ウェル『良い指摘だ 国家が保証しなくても人々が価値を認めれば貨幣になりうる そこでこう考えたやつがいた』
ウェル『マルクス氏だ やつは資本論で…”貨幣商品説”を説いた… “貨幣の価値は貨幣を作るのに必要となった労働で決まる”とな』
兼成『今の貨幣と昔の貨幣は交換できないですよね…?』
ウェル『ああ だからこう考えたやつがいた…これは君の国の偉大な先人だ 経済の授業でやらなかったか?』
(兼成が考える)
兼成『岩井さん…?』
ウェル『そうだ 岩井氏は貨幣論で…”靴ひも理論”を説いた… “貨幣の価値は受け取ってくれる人がいるという期待で決まる”』
兼成『おカネとは他者を信じる気持ちというのに近い…』
ウェル『私とは話が合った… 合宿でよく酒を飲んで議論したものだ 最近は忙しいようで分身でしか会えないのだが そして懸念も話していた…』
兼成『貨幣の価値とは本質的にはバブルである』
ウェル『君もそう思うかね?』
兼成『最近 仮想通貨がバブルみたいな記事を見て…そうかもしれないと』
ウェル『信用も同じだよ その問いを頭の片隅に入れておくといい… 次に貨幣の形態を考えようか』
兼成(貨幣の形態…)
ウェル『貨幣の主な形態は4つ
❶”現金通貨”…日本銀行券・補助硬貨がこれだ
❷”預金通貨”…普通預金・当座預金がこれだ いつでも引き出せる
❸”準通貨”…定期預金・外貨預金がこれだ いつでも引き出せるわけではない
❹”その他”…MRFを利用した証券総合口座用の預金もこれだな これは耳にすることは少ないだろう』
兼成『口座の数字達…』
ウェル『そうだ それがもう1つのカネ “信用だ”』
ウェル『信用とは…その場にない貸し借りで生まれるカネのこと カネと呼ばれるもののほとんどが貨幣ではなく信用なのだよ』
兼成『昨日言ってた信用サイクルはこれのサイクル…』
ウェル『ああ 経済を短期的に見る上で最も重要な部分だ』
兼成『誰かが 他の誰かの返すという約束を信じる気持ちがあれば何もないところから信用が発生する』
ウェル『なぜ信用がこれほど重要かというと…信用を手に入れることで支払いを増やすことができ…経済を作る取引回数が増え… 他の誰かの収入を増やすこと…生産性の向上につながる』
兼成『他の誰かの収入が増えればその人も返せるから その人も信用を手に入れて…でもどこかで返せないこともあって…それが短期の信用サイクルにつながる…』
ウェル『そうだ 信用を手に入れた時は 支払いを生産性・収入より大きくできる… 返す時は支払いを 生産性・収入より小さくしなければならない…だが人間はこれができなくなってしまう事もある』
兼成『なんでだろう?』
ウェル『それが”人間の性”ってやつなのだよ これはエルフには理解できん』
(ウェルは本を閉じる)
ウェル『景気拡大とは信用を使うのが簡単な状態… 景気後退とは信用を使うのが難しい状態だと思っておくといいだろう』
兼成『金利はそこに関わってくるってことであってる?』
ウェル『勘のいいやつは大好きだよ 私は… では次に行こうか』