このサイズに収まる象を連れてきてよ。
「このサイズに収まる象を連れてきてよ。」
彼女はそう言い、自分の丁度目の前あたりで、人差し指と親指で小さいスキマを作った。
「そのスキマ、何センチ?」僕は聞いた。
「約1センチね。」
つまり今回の話はこうだ。
"1センチに収まる象を連れてきてくれれば、再びつき合ってもいい"という事。
つまり断ってるんだ。「もう貴方とつき合う気は無い」ってね。僕はグラスに口をつけ、アルコールを口に含んだ。甘い酒だが、味なんかわかんない。
もちろん生きてるの、人形とかはダメ、でもってパオーンとか鳴くやつでなきゃダメ。そんなムチャな事、平気言ってきやがる。
それもシレッと言うんだ。
悪びれもせず、楽しげでもなく。
「ゾウ虫は?」
「却下。」
虫はダメか。
「だってパオーンって鳴かないでしょ?」と彼女。いや、元彼女か。
「君を巨大化させればいい。」と僕。
「どうやって?」
「ドラえもんを拉致。でもってビッグライト。巨大化させれば通常サイズのゾウが君の指に入る。」
「ビッグライトって?」
「ドラの小道具。スモールライトの逆!」
「その前にのび太君にならないと。ヤツはのび太にしかなつかないわよ。」
「だな。」
「貴方、性格はのび太くんよね。」
「どのヘンが?」
「いつも寝てばっかり」
「…」
言葉が返せない。
「何やってもダメ」
正論。全く正しい。
「三日以上続いたものってある?」
「君への愛。」
彼女のうんざりする顔が見える。僕はこうしてさんざん彼女をうんざりさせてきたんだろう。そしてうんざりが拒絶に変わり、別れを決意したんだろうか。
「とういか、ゾウが欲しいの。1cm弱のゾウが欲しいの。ゾウじゃなきゃダメなの。」
「巨大カマキリじゃダメ?」
「却下。つか、巨大カマキリならいるの?」
「来週、地球に襲来するらしいよ。さっきタレコミがあった。ウルトラ警備隊から。あれ逆に彼らが地球に怪獣呼んでるらしいんだ。たまに襲来が無いと、予算カットされるんだってサ。全部デキレース」
「来週地球は血祭り?」
「そう。今ウルトラマンいないし。だから一緒に逃げよう。無人島あたりに。」
「船はどーすんの?」
「ハイジャックする。」
「船は "シージャック" よ。」
そうだ、ハイジャックは飛行機だ。
こうして僕は時間を稼いでいる。彼女をよりを戻す糸口を見つけられないかと。言葉の端々から、僕が彼女の彼氏として返り咲ける方法がないかと探ってみる。
けどダメみたいだ。無理みたいだ。
最初から到底無理だったみたいだ。
「ゾウは?」
言葉につまる。
「ゾウは無理なの?」
返す言葉が無い。
「ゾウは無理なのね。じゃ私の事は諦めるんだ。」
僕は何も返す言葉が無い。だってゾウは無理だし。
彼女がガタッと立ち上がり、テーブルの脇にくるっと丸めてある伝票を手に取り、指でぴっと僕の方に弾いた。
「じゃ、ここの払いおごって。それで許したげる。」
僕はレジでお金を払い、二人で店を出た。
僕の支払った金額は、980円 シャンディガフ二杯分だ。
店を出ると彼女の方から僕の腕にしがみついてきた。「寒いから」というのが理由だった。
「ゾウは?」
「もういい」
ゾウは飽きたそうだ。
風がぴゅーと吹く。枯れ葉がふわりと舞う。そして思い出したように地面にまた舞い降りる。居場所を確かめるように。
「あんたの行動力なんて最初から何も期待してないわよ。」
と彼女。諦めたように。吐き捨てるように。
「私の金額980円か。」
「もっと高いもの食ってる時に言えばよかったのに。」
「いいよ、980円で。」
僕は彼女の肩に腕を回したら、いいよ暑苦しいからと言われた。
そして二人は地下鉄に乗って、あの頃と同じ方向へ向かった。
居場所を確かめるように。
<他にもたくさん作品があります!>
お気軽にお越しください!(^▽^)/
http://nitijyo.sakura.ne.jp/ ←トップページ
http://nitijyo.sakura.ne.jp/diary/diary_oowaku.html ←ログページ