〜プロローグ〜
少し入り組んだ路地裏に太陽光が差し込み、上裸でワイドパンツを履いた大男のシルエットが浮かび上がった
地面が揺らいで見えるほど気温は高く、喉に熱が残るような湿度の高さに赤髪の大男は顔をしかめ、威圧的な姿勢で腕を組む
短く刈り上げられた赤い髪は滴る汗が反射して炎のように煌めき、褐色の肌には薄く白い蒸気が上がり、鍛え上げられたその筋肉は見事なほど絞られ、まるで美術品のようであった
「これは...少しまずいか?」
「少しどころな訳あるかーー!!大問題だよ!!」
赤髪の大男は肥満体型の男が血溜まりに倒れ込んでいるその惨状をみてバツが悪そうに呟き、青ざめた様子で非難する黒髪の少年
小柄で華奢な体つき。顔立ちはそこそこ整っており服装が男物でなければ少女と見間違えてもおかしくはないほどの美少年である
月を背景にランタン模様の耳飾りがよく目立ち、肩のあたりまで生え揃った艶のある黒髪を赤い紐で束ねてある為尚更女性のようにも見える
「あのさぁ!?【生け捕り】の依頼でしょ!?なんで腹に風穴開けてるのさ!!死んじゃってんじゃん!!」
「こいつが予想以上に弱すぎたんだ」
「脳筋すぎでしょ!!兎にも角にも治療優先!...これ治療できるかなぁ....やっぱり心配だからヒールも掛けとこ......」
そう言って少年はボストンバッグから数種類の薬品を取り出すと血溜まりに沈んでピクリともしない男に振りかけ緑色の一瓶だけ口に流し込んだ
それだけではなく後押しとばかりに呪文を唱えると手のひらから淡い緑色のオーラが発生し血溜まりで沈んでいた男に吸い込まれていく
「......ッ!?」
するとみるみるうちに傷は塞がり、先程まで死んでいたのは嘘かのように血濡れの男は跳ね起きてあたりを見渡した
「俺は死んだはずじゃ.....」
死んだ時の感触を思い出して大粒の汗をかいた男は、目の前の光景が信じられずにいた。男は確かに覚えていた。赤髪の大男に殴られたときの強烈な痛みとともに、意識が遠のいたのだ
しかし今は痛み一つ無く、すこし頭がふらつく程度であるがゆえに夢だったのではないかと錯覚する
「おぉ...正直諦め半分ではあったんですがそこはさすが盗賊団の頭。生命力高すぎて完治しちゃいましたか!」
「おめーさんナニモン.....だ...ヒィ!!近づくんじゃねぇ!!このバケモノ!!!」
男は少年の顔を確認すると恐れ慄きながら後退る
体は芯から震えあがり、先程大量に血が流れた影響か血色が悪い
「いやいや、バケモノはこのロイっていう脳筋だけですよ...自分はただの一般人です」
「俺は脳筋じゃねぇっ!」
「う、うそをつけ!お、お、俺は!だ、騙されねぇ!その耳飾りにその風貌!!おめーは手配書でみたガキ.....大逆無道の....ッ」
ロイと呼ばれた大男はすぐさま否定に入り、それを無視して男は少年に付けられた二つ名を言い当てた
刹那
男の首は刈り取られた
首を刈り取られた瞬間、異様な静けさが場を支配し血の一滴も流れなかった。その不自然さに少年は息を呑み、ロイは趣味が悪いと言わんばかりに眉をしかめた
胴体は力を失ったように崩れ落ちるが頭部や胴体からは何故か血が流れておらず、頭だけになった男も意識が鮮明で女の手の中で口をパクパクさせていた
その女の異形たる風貌はまるで着物を着た二足歩行の狐である
細長い顔から見える鋭い牙はいつでも頭を噛み砕けると言わんばかりに待ち構え、射殺す程の銀色の鋭い眼光は男を絶望させ、華やかな白に紫の花弁が描かれた着物からはふわりと野草で有名な花の匂いが香る
そして頭に食い込んだ鋭い爪はみるみるうちに頭に吸い込まれていき血が滴りおちる
『...木登りした猿が遠吠えしたんか思いましたわぁ.....こないなところで猿芸が鳴いたら見物客が噂してまうで?【口は災いのもと】やってオカンに教わらんかったん?』
「ちょいちょいちょいっ!!たんまたんまぁ!!!どーどーどー。小鈴とりあえずその頭を離そうか」
少年がそう言うと小鈴と言われた女は爪や牙をしまい、顔を扇子で隠してしまう。
男の頭は小鈴の手から消え去りいつの間にか元に戻っていた
ついでとばかりに亀甲縛りで身柄を拘束されており抜け目が無い
開けて崩れた着物を左手で直し、少年に近づいて抱き寄せる
身長は少年の1,5倍程あり抱き寄せただけでその圧迫感は凄まじいものだ
『レオはんはお優しいなぁ、その優しさでつけあがる阿呆はすぐ増えるさかいに、はよう駆除したほうがよろし
レオはんが教えてくれたやろ?千枚漬けと阿呆は早くつけあがるって』
「いやいや、言ってないし聞いたこともないよ。これは依頼だよ?生け捕りにしないとお金もらえないんだからね」
『虫と阿呆は子沢山やし...ほんなら去勢だけでもしたほうがええんちゃいますの?そのくらいなら誤差も誤差やろ?』
「そんなことしたらお金が貰えないだけじゃなくてうちのギルドが潰れちゃうよ。拷問は対象外なの」
『それは困りますなぁ。そうなったらうちは住む場所がなくなってレオはんの家に居候させて貰うしかなくなりますわ』
「小鈴ならいつ来てもいいよ。というか昔みたいにみんなで一緒に住むのもいいかもね。」
『そういう話とちゃいます。けれど魅力的なお誘いに、胸が躍るわぁ』
クスクスと上品に笑い、先程とは見違えるほどに穏やかな表情に戻る小鈴、そしてその表情を見て安堵するレオと呼ばれた少年
その二人の様子に人間として根本であるどこかに歪な物を感じ、男はすでに空気と化していたロイに目を向けた
「俺はこれからどうなるんだ?」
「あー。なんだ、盗賊団の頭として今迄美味しい思いをしてきたと思うが、ケジメの時が来たって訳だ
泣いても笑ってもお前は処刑台に上がることになるだろうが大人しくついてきてもらうぞ」
そう言うとロイは縛られた男を脇の下に担いで連行する
「ふん。どうせなら一思いに殺してくれていたほうが良かったな。まさか2度死ぬことになるとは思いもしなかった」
「しらねーよ!寸止めでなんで大怪我するお前が悪い!」
ふん。と不貞腐れたように鼻を鳴らし怒鳴るロイ
嘘ではないようだった。確かにあの時気の所為だと思ったが明らかに殴られたときの距離に違和感があった
控えめに言ってもこの男は怪物で、先程の狐の女も明らかに異常
そしてそれをまとめるあの少年の名はたしか......
(スラム街を取り纏める、常世の灯火ギルド。ギルドマスター大逆無道のメーディス・レオ。そしてこいつらは8傑のなかの二人......目をつけられたのが運の尽き......か....)
男はなすすべなく項垂れた
「ったく、小鈴は何時もやりすぎなんだよ!」
『ふふふ、レオはんは寛容やなぁ。けど、こないな優しいマスターが大逆無道だなんて嘘っぱち吐いた阿呆はお仕置きせなあかんよ?』
「いやいや、その二つ名も元はと言えば皆のせいだし」
『ややなぁ、半分くらいは赤髪猿ちゃう?』
「ア!?だれが猿だ!?デカチチクソ狸!」
『間違え探しの絵本でもこうてやりましょか?さすがの猿でもちんちくりんとの見分けもつくようになるさかい』
「喧嘩商売か?買ってやらァ!!!!!」
「ゴベッ!?」
そう言うとロイは手に持っていた男を小鈴に投げつけ殴りかかる
そして小鈴は涼しい顔をして投げつけられた男を一口大にざく切りにすると持っていた扇子でロイの拳を受け流す
受け流された拳は古びた家屋の壁をやすやすと貫き勢い余って屋内に転げていった
「うげっ。またやってるし!!あーーー!もう!二人とも喧嘩しない!!
ステイステイ!小鈴はざく切りにしたその人ちゃんともとに戻してよ!?なんで!うちのギルドメンバーはなんでこんなのばっかりなんだーーー!!!」
こうして男は盗賊に相応しく只々不憫な最後を迎えた
ご視聴ありがとうございました
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つまらないなどの感想文はメンタルが弱るのでやめてください
どのような部分が読みづらい、等は歓迎です。勉強させてもらいます