七話 学校と勉強と配信
またもや机の上で腕を組んで寝ているのは時森琢磨。
そしてそれを起こしにきたのは周りの注目を一網打に浴びるクラスのマドンナ天星ルアだった。
「拓真、そろそろ帰ろ」
拓真は未だに慣れない彼女の美貌に一瞬天使が舞い降りたのかと錯覚する。
「僕は死んで天使が迎えにきたの?」
「違います。私は天星ルア、貴方の彼女です」
少し誇らしげな天星ルアに拓真は「そっか」と呟く。
拓真は立ち上がり荷物をカバンに入れ天星ルアの手を取る。
そしてそれを天星ルアは握り返す。
ラブラブな二人は帰路に着く。
「そういやさ、なんでルアはこんなにするの?」
拓真の質問を天星ルアには理解できない。
「だから俺と付き合ったのは要するに秘密保持が目的だろ。
だったら別に側から見ればカップル、もしくはカップルだって皆んなに言ってそれを二人が『そうだよ』って答えれば言い訳じゃん。
なんで周りの見ていない所まで『カップル』を徹底するのかが分からない」
それに対して天星ルアは少し照れる。
「だって本当に、ちょっと、ちょっとだけ拓真君のことが好きだもん」
赤らめた天星ルアの顔は可愛く拓実もついつい赤くなる。
両者ともども顔を赤らめるが両者ともども理由は違う。
そのまま無言で天星ルアの家の前までくる。
「今だって信じられないな。俺たち今までずっと間隣に住んでいたなんて。」
天星ルアは微笑む。
「そうだね。じゃあこれからいつでもお互いの家に遊びに行けるね。さ、入って入って。」
天星ルアは自分の家のドアを開け拓真を中に入れる。
中に入ると玄関から真っ直ぐの廊下が続き右には上へと上がる階段、そして左にはリビングへとアクセス出来る扉があった。
「先上がってて、飲み物持ってくるから」
「あ、ありがとう。お構いなく。」
拓真はそう言われ指を刺された階段を上がる。
家の中の構造は拓真の家も良く似ていて既視感がある。
上がるとトイレと部屋への扉が二つある。
トイレの位置は拓真の家と同じなのであとは二つあるドアのどちらかが天星ルアの部屋、もう一つがきっとご両親の部屋となる。
拓真は直感で二分の一を引き入ると、見事正解した。
初めて入る女子の部屋は綺麗に保たれ中はいい匂いが立ち込める。
入って左奥には白いベット、右には勉強机、そしてドアの真横には薄い茶色の棚がある。
床には丸いピンク色の絨毯が引かれそこに座り込む。
間も無くして天星ルアが部屋の扉を開ける。
「カルピスでよかった?」
「あ、ありがとう。お構いなく」
天星ルアはピンクの絨毯の上に置いてある小さい折り畳みテーブルの上にコトっと置く。
「さぁ、早速勉強を始めるわよ」
そう言うと天星ルアは筆箱と教科書を机に置く。
テーブルを挟んで正面にいる拓真も同じように勉強道具を出す。
まず二人は宿題を先に済ませる。
二人がお互い集中している勉強に取り掛かる。
「この丸一の解き方わかる?」
「あ、それは赤丸の所を読めば分かるよ。まぁ要するにxとyを反対側に回してここを掛け算すれば解ける」
「あぁなるほど。ありがとう」
微笑ましい助け合う二人は二人にとってもゆったりとした楽しい時間となった。
「そう言えば、ルア。ルアって前誰かと付き合った事ってあるの?」
「いきなりだね。うん、いたよ。二年前に一人ね」
天星ルアは宿題の問題を淡々とこなしながら答える。
そこに感情は無い。
強いて言えば軽い怒りを感じさせるだけ。
「それって深掘りして良い話?」
拓真は感じたその少しの怒りを恐れ一度問う。
「別に良いよ。
前の彼氏は私が高一の時の一個上の先輩。
彼は周りの女の子からも人気でね。
私が彼の家に遊び行った時彼は他の女とヤッテた。
だから分かれた。
それだけよ」
そう言う天星ルアの言葉にはやはりどことなく怒りが込められていた。
「そうだったんだ。何かごめんね」
「ううん、良いの。ありがとう。拓真、今宿題どこらへん?」
宿題の進捗を拓真に聞く。
天星ルアの声には再び元気が取り戻された。
「今は丸六。もうすぐ終わるよ」
「そう? 私も」
ニコニコと笑顔に満ち溢れる天星ルアに拓真は再び惚れなおす。
するとピコンと天星ルアのスマホに通知が来る。
「あ、今日だった。今から配信じゃん」
「あ、そういやそうじゃん」
拓真はそのことを天星ルア、又の名を『パピー』が投稿したツイートを元に知っていた。
「急がないと」
天星ルアは急いでグリーンバックを取り出し自分の座っている後ろに立てる。
そして椅子に彼女は座り込むとノートパソコンを開き引き出しから取り出した仮面をつける。
「よし、配信三秒前。」
拓真はそっと画面に映らないように部屋の端っこによる。
「二秒前、一秒前。配信スタート!」
すると天星ルアは一変した。
彼女は普段の天星ルアからパピーへと変わった。