一話 推しとは愛するモノ
皆さんは推しというモノがありますか?
それは人、又はグッズ。
そんなモノを愛するのは推す側としては当たり前である。
じゃあもしある日その推しというのが自分のそばにいたら?
「推し」とは愛する者である。
それはこの『青二高校』の高校三年生、時森拓真の頭の中の辞書に記載されているものである。
「おい、拓真。何寝てんだよ、もう昼休みだぞ」
拓真を起こしたのは彼の唯一の友達と呼べる男友達の竹本である。
拓真は竹本に起こされ眠い目を擦りながら頭を上げる。
ボヤーっとした視界の中拓真の目に入ったのはとある美女。
彼女の名は『天星ルア』。
彼女はいわゆる超陽キャ。
癖のついた長い黒髪に健康的な白い肌、ネイルは可愛く彩られ一挙手一投足が『天使』という形容詞が一番合っている。
そんな彼女が目に映っても拓真は一切興味を示さない。
それは別に彼女に魅力を感じないわけではない。
どちらかと言えば「諦めた」というのが適切であろう。
彼ごときでは彼女に近づく事なんておこがましい。
それほど天星ルアが輝いていたのだ。
「おっし、飯食うか」
拓真と竹本は同じクラス、という事もあり良く食事を共にする。
今日の弁当は学校に来る前に買ったひき肉サンド。
プラスチックの梱包を取り外し食べ始める。
「そういや、拓真は彼女とか作らないの?」
話を最初に振ったのは竹本だった。
「いや、まぁ、別に作らないな。というか俺は別に作る気は無いよ」
素気ないその答えは半分は竹本との会話が面倒かったのともう半分はツイッターのせいである。
最近拓真はとある歌い手を推している。
その歌い手というのは最近話題の『パピー』匿名で活動する歌い手である。
彼女はたったの17歳でプロデビューを果たし、デビュー以来、人気は高まって行く一方の注目のルーキーである。
そしてその歌い手『パピー』は今度アリーナでライブをする。
そのライブの最前列を予約できた拓真はその日を待ち遠している。
とにかく楽しみにその日を待っている。
彼はペンライトを買いタオルも買い準備万端でその日を待ち『パピー』のツイッターを見続け新たな情報が解禁されないかと待っている。
そのため隣にいる竹本に注意を割く暇がないのだ。
だがそれでも竹本は拓真に話し続ける。
「えー、なんで? 俺たち高校生だぜ、青春を謳歌しようぜ。例えばあの子は?」
竹本がそう言って指を刺した方向に居たのは天星ルア。
拓真は竹本の刺した方向をチラッと見た後すぐにスマホに目を移す。
「竹本、俺たちって彼女に釣り合うと思うか?」
拓真の発言にハァーと竹本はため息をつく。
「あのね、そんな事分かりきってる。だけど冒険してみるのも一つ手だよ。もしかしたら成功するかもしれないんだよ。チャンスがある間にやっておく事だね」
竹本はどこか遠くを見据えている。
「じゃあ竹本が冒険すればいいじゃん」
冷やかしのつもりで拓真が言うと竹本は即座に答える。
「俺はもう冒険したあとだよ」
友人の恋という名の冒険を知らなかった拓真はびっくりした様子で竹本の方を見る。
「マジで?」
「うん、マジで」
「で? 結果は?」
「惨敗」
予想できた答えに驚きもせず拓真は再びスマホへと視線を移す。
「だからよ、俺の代わりに天星ルアと付き合って彼女のお友達を紹介してくれよ〜!」
「それが目当てかよ」
拓真は竹本に抱きつかれ嫌がるように拓真は竹本を離そうとする。
「俺はパピー、一筋だ!」
拓真から離れ背筋を伸ばして座っている竹本は、またかと言わんばかりに困った顔をする。
「そのパピーのライブ確か今度あるんだよね?」
「そうだよ! もうワクワクしてたまらない!」
拓真のさっきまでの疲れた寝起きの目とは違いキラキラさせ声のトーンが一つ上がる。
「もう、あのパフォーマンスに歌声は天使の様。パピーは、がなり声がすごい良くてその技術と歌声は全世界が認めるほどの実力であり今後は映画の主題歌を歌う事でさらに注目度があびえていてもうたまらないんだよね。これほど凄い歌手は今世紀最高峰と言われるまで! 彼女ほど天使という言葉が似合う人はいない。ラジオもやっているが歌っている時の力強さとラジオをやっている時の眠たそうな声はまたギャップが堪らない! 彼女は僕の推しであり神であり天使なのだ!」
オタク特有の早口を披露した拓真は、竹本になだめられる。
「そっか、そっか。分かった。でも拓真がそのパピーと付き合うなんて可能性ほぼ皆無だろ」
むすっとした顔で拓真は振り向く。
「まぁな。でもやっぱり月は手が届かないからこそ美しいものがある。パピー様もそれと同じさ」
一端の詩人気取りの拓真にはムカつくものがあるが竹本はそれを口には出さない。
「まぁ歌い手を追いかけるのも良いけどたまには現実を見ろよな。」
そう言って竹本は席を外す。
拓真は相変わらずスマホと睨めっこしている。
だが竹本が席を外して一分も立たない瞬間。
「うええええええええ!!!!!!」
さっきまで死んだような目をしていた拓真はいきなり立ち上がり叫び始めた。
周りの視線が一気に拓真に向く。
だがそんな視線、拓真にはお構い無し。
なんたってパピーの公式アカウントから耳寄りの情報が投稿されたのだから。
「どうしたんだよ、パピーオタクさん?」
別の男友達と話に行っていた竹本は体をぐるっと曲げて拓真に問う。
「パピーのアリーナライブにて仮面をつけずにライブするらしいんだよ!」
竹本とその周りの友達の頭は?で埋め尽くされている。
「だから要するにライブで運が良ければパピーの顔が観れるかもしれないんだよ! 匿名で顔も誰も見た事がないあのパピー顔が観れるかもしれない! なんて運がいいんだ! 最前列の席を取っておいて良かった! あぁ天は我に味方した!」
軽く早口になる拓真を見慣れた皆んなは、また始まったと呆れ拓真を放って会話の続きを再開する。
だがそれが日常なので拓真は別に竹本の反応に対して傷ついたりショックを受けたりはしない。
それどころか拓真は勝手に目の輝きを増幅させ一人でヒートアップしていく。
そして数日後、ライブ当日。
ライブ会場にはもうすでに大勢のファンが集まりその中には拓真もいた。
ペンライトを手に握りタオルを首に掛けている。
そしていざ入場。
彼の席は一番前のちょうど真ん中の席。
この席は彼の努力の結晶であり彼の家のネットの回線速度が異様に速く強いからでもある。
彼は席につき満面の笑顔でライブが始まるのを待つ。
まだライブが始まってすらいない会場はで熱気に溢れ流れているパピーの楽曲と共に「ウィ! ウィ! ウィ! ウィ!」と掛け声がアリーナ内に響き渡る。
そしてフッとアリーナ内が真っ暗になりステージ上に一人の女性が現れる。
薄暗いながらもパピーだとすぐに分かった。
会場内は歓喜に包まれ声援が飛び交った。
そしてパピーが歌い出す。
最初の曲は彼女の代表曲である『稲妻』。
エレキギターと彼女の特徴的なガナリ声は最初の曲としても良く会場内を沸かした。
そして次々と曲は歌われその全てに拓真はペンライトを振り歌う。
だが最前列にいる彼でも中々パピーの素顔は間接照明しか無いため、あまり見れない。
たぶんそれは意図的だ。
やはり顔がバレるのはリスクが伴う。
だがそれでもファンからすればほとんど顔が見えなくても嬉しかった。
パピーの顔を見るのを諦めかけ、最後の曲が歌われた時であった。
その時にパァッと周りが明るく照らされ一瞬、パピーの顔が見れた。
その顔を拓真はもちろん見れたのだが、嬉しさより驚きの方が大きかった。
その顔は見覚えのある顔であるためである。
それもそのはず、その顔は自分の教室で毎日見る顔。
クラスメイトである『天星ルア』のモノだった。
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