表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

第一話

 迷宮入りかと思われた事件に進展があった。新たな手がかりが現れたのだ。

「センパーイ、この件の調査するのやめません? 僕、祟られたくないんですけど」

「仕方ないだろ。殺人事件なんだ」

「もー、こんなことなら新しい手がかりなんて出てこない方が良かったですよ……」

「こら。滅多なことを言うもんじゃない」

 遺跡の発掘現場で殺人事件があった。

 石器時代の古代人の墓で、被害者は考古学者の山城大輝さん。現場の指揮をとっていた教授だ。頚動脈を切られて殺害された。

 凶器は黒曜石の鏃。出土品の一つだった。

 犯人の顔は割れている。テレビの取材班がたまたま撮影に来ており、定点カメラを設置していたのだ。

 出土品を壊さないように土を掘るのは地道な作業なのである、という映像を撮っていた定点カメラに犯人の顔がバッチリ写っていた。

 データとして共有された映像を、もう一度開いてみる。

 白っぽい土埃の舞う発掘現場で、一人の老人がうずくまって土を掘っている。繊細さを要する作業のようで、その目は真剣そのものだ。

 画面が揺れて、視界が横転する。なんらかの衝撃が加わってカメラが横転したのだ。画面から老人が消える。その代わり、短い悲鳴が入った。

 ざっ、ざっ、ざっ、と誰かの足音が近づいて来て、また画面がぐるりと動く。犯人がカメラを拾い上げたのだ。

 不敵にも、犯人はカメラを拾い上げてレンズを覗き込んだ。画面いっぱいに返り血を浴びた顔が写り込む。

 どんぐりのように大きい目と、太い眉毛。唇は分厚く鼻も大きい。野性味溢れるパーツが、角ばった顎のために四角く見える顔の輪郭の中に収まっている。

 しかし顔が見えるのは一瞬だけ。犯人はすぐにカメラを投げ捨ててしまったため、しっかりと顔を見るには一時停止をする必要がある。

 ここに至るまで全く進展がなかった。人相書きを張り出したり、関係者たちに心当たりがないか聞いて回ったりしたのだが、誰もが首を横に振るばかり。

 進展のないまま月日が流れ、徒労に無力感が募っていた頃だ。

 発掘された品々を分析していた研究班から連絡があった。見て欲しいものがある、とのことだった。

「やっぱり、いくら研究のためとはいえ、人様の墓を暴くのは良くないんですって。やめましょう。帰りましょう。お疲れ様でした!」

「じゃあ私だけ行ってくるからコーヒー買って来て。ちょっと離れたところにスタバあるでしょ? あそこで頼むよ」

「えっ、サボっていいんですか?」

 私は田島を困らせてやろうと、なるべく早口でまくし立てた。

「ダークモカフラペチーノトールチョコチップとチョコソース追加ホイップましましエスプレッソショット追加とダークパウダー多めで。あと多分季節限定のスコーンがあると思うからそれもよろしく。なかったらアップルパイでお願い」

「ダーク? なんですって?」

「さー、行ってこようかな」

 田島は一瞬固まって思案を巡らせたのち、おとなしく仕事に来た方が楽そうだと判断したようだ。

「待ってくださいよ先輩! やっぱ僕も行きまーす!」

 私たちは、研究室に向かって車を出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ