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寝心地は大事です。

 周囲の騒ぎなんて気にしないで、シャーリーは素材となる魔物の毛を見ていた。


「革加工の職人、伯父さんに相談したら紹介してくれるかな? 機能性は内布で確保するとして、皮をそのまま使うと重いかな?」


 解体していないので正確にはわからないが、軽くはなさそうだ。しばらく悩んでシャーリーはアイテムバッグに戻す。


「今の何?」

「さっき糸に引っかかっていたから退治した魔物。毛がきれいだったから鞄もだけど、装飾品や服に使ってもいいかと思って」


 ただ小さい物だと模様がいかせない。


「糸は毛の長さをそろえる時に切り落とした分でいいとして、総革のカバンって重いよね?」

「シャリーネ。皮職人はオレでも心当たりがあるから国に帰ってから考えよう。ね?」


 エクラスルスの最後の一言に圧を感じて、シャーリーはコクコクとうなずく。


「さっき離れた時に倒してきた魔物?」

「うん」

「強かった?」


 シャーリーは首を傾げながら答える。


「きれいだったよ」

「そうか、強さはわからないか」

「大きいからたぶん強い?」

「シャリーネにとってはそういう感じなんだね」


 この中で1番付き合いの長いエクラスルスはすべてを悟ったような顔をした。


「次からはオレも連れて行って」

「でも、食事作ってた」

「うん。食事を作っていてもいいから、声をかけてくれるかな? オレが使役できたら定期的に毛が手に入るよ」

「あっ、そうだね」


 革は手にはいらないが、長期的に毛が手に入るのもいい。


「待て、少年。その大きさは飼育に向かないぞ」

「いくら使役していても、首都には入れないはずです」

「王はあの大きさの魔物を許可するほど治安維持に無関心ではない」

「先に到着した国で大丈夫だって実績作れば良くないですか?」


 今回の遠征、魔物領域を抜けて調査官を派遣している国へ行く予定になっている。


「魔物領域の魔物の強さを調べるのも今回の計画の内でしょ。調査報告出すなら捕獲はありじゃないですか?」


 調査官たちは、許可を出せる権限は与えられていないと回答を保留にした。




 食事休憩が終わると、再び魔物領域を進む事になる。体力はまだあるが、朝から歩き続けて疲労感はあった。無理をしないでシャーリーはルーナを呼び出す。


 休憩の終わりに敷物を餌として与え、騎獣させてもらう。


「アイテムバッグ、生き物は入らないよな?」

「入らなくはないですよ。植物とか、仮死状態になれる生き物でないと生存が難しいだけです」


 人間を入れると発狂するとウワサでは聞いた方があるが、事実かどうかは知らない。生き物は入れてはいけないと広く知られており、入れるとなんらかの不都合があるのだろう。

 やめておけと言われているため、シャーリーは試した事はない。試してアイテムバッグが壊れても嫌だから試すもりもなかった。


 アイテムバッグに荷物を出し入れするとき、手は入る。生存できるかどうかはともかく、中に入るくらいは出来るだろう。


「生態が不明の特殊個体について深く考えない方がいいですよ。答えなんてありませんから。冒険者ギルドで登録して、問題も起こしていないなら、それでいいとしましょう」


 アイテムバッグではなく、ルーナについて問われていたらしい。こっちはこっちで謎な生き物だから答えられる事はなかった。


「しかし、坊主と嬢ちゃんは仲良いな」

「冒険者ギルドでパーティー登録してますから。それなりに一緒にいる時間は長いですよ」


 シャーリーが騎獣した事で進む速度が上がる。誰も何も言わなかったが、身体の1番小さいシャーリーに合わせてくれていたらしい。


「意外と公爵さま体力あるんだな」

「これでも緊急事には最前線で回復要員だ。最低限動けるようにしておくのは義務だからな」


 戦闘面は完全に任せて歩くだけなら楽なもの。生得魔術のおかげで人より回復も速いらしく、疲れても少し休憩すればいいそうだ。


 午後に2回休憩を入れ、3度目になる頃に野営の準備を始める。整地して敷物をしいて、寝床用にテントも作った。


「見張りの順番どうしましょうか」

「見張りはなくても大丈夫ですよ。これから寝るまでの間、襲ってきた魔物を使役して見張りの役にしますから」

「警戒用の糸張り巡らせるから、危険なの来たら起きます」


 エクラスルスと2人で主張したが、大人たちは懐疑的だ。ルーナは抱き枕兼暖房扱いなので見張りに出すつもりはないけれど、ルーナの索敵能力は高い。


 今日は様子をみて、大人たちで見張りをする。問題ないと判断できれば今後はナシにするが、火を完全に絶やしたくはないそうだ。

 火があると寄ってこない魔物もいるが火があると寄ってくる魔物もいる。目立たないように、範囲を限定した明かりが欲しいらしい。


 1人用の明かりは魔術具のランタンで、火種用は竈門(かまど)で覆い隠す。これなら火が見えるのは限られた範囲だけで済むし、火も使える。


「こんな感じでいい?」

「ランタンも竈門もその場で作れる物か?」

「これは生産職と言われても仕方ないです」

「シャリーネ、いいみたいだよ。風邪ひかないように寝るときはあったかくしてね」

「風邪ひいたのは真冬だったからだもん」


 いくら夜冷えるからといっても雪の降る季節とは違う。迷惑をかけてしまっただけにあまり強くも言えないが、わかりやすく拗ねてみせる。


「シャリーネ、地面だと寝るには硬い。何かいい敷物はないか?」

「おい、公爵さまよう」

「どうにもならないなら我慢もするが、どうにかできるなら我慢したくない」


 公爵の要望ならと、寝具を作る。寝具は月のうさぎで売る用に何度も試作を作ったから、すぐに形にできた。魔物領域は素材は豊富で、材料はその辺にゴロゴロしている。


 ついでだから、前世の記憶を頼りにウォーターマットとエアマットを作ってみよう。魔力含量の多い素材が豊富なこの場なら試しやすい。

 いくつか試作して、公爵に選んでもらう。エアマットの方がお好みのようだ。


「これが、優秀な糸操魔術の使い手ですか」


 驚きが抜けると、皆んな自分の分も作ってくれと頼んできた。


「色の指定は聞きません」


 その場にある素材を使っているので、色までは考慮しない。できなくはないが、手間が増える。


「これ、野外専用じゃないよな? 家用に欲しい」

「材料と作成費用意して一門の営業担当と交渉して下さい」


 まだ魔物領域の攻略は始まったばかり。寝具なんて大荷物を運ぶつもりはない。明日の朝にはルーナのご飯だ。


「シャリーネ、パンの焼けるかまも作れる? 作れるならパンを焼きたいんだけど」


 火属性の魔石を持って交渉にしてきたので、作る事にした。これで、朝と夜は美味しいパンが食べられる。


「坊主、おまえ料理人にでもなるつもりか?」

「それもいいですね。領主以外なら何になってもいいと言われますから」

「次代継承されにくい魔眼持ちを当主にできないのはわかるが、騎士はめざさないのか?」


 騎士は跡取り以外の貴族令息の将来として、選ばれることの多い職だ。しかし、エクラスルスは顔を横にふる。


「社会制度が変わるかもしれない時代に中途半端な職につくと、連座とかとばっちりで犯罪者にされそうですから」


 少年は儚く笑う。そして、余計な言葉をつけ足した。


「条件さえそろえば、数万の群衆でも虐殺できる能力ありますから、時代の変わり目には大人しくしておかないと歴史に悪名が残る」

「君の場合、スタンピート起こさせれば都市や国家規模で滅ぼせそうです」

「そちらも毒を使えば、首都が廃墟になるでしょ」


 2人して笑い、回答を拒否する。おそらくできるのだろう。自分はどうなのかシャーリーは考えてみる。

 糸の素材に拘ればやらなくはなさそう。ただ、それを実行してまで生きようとは思えなかった。

次、1月20日更新予定。

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