迷惑な大人たちとお出かけしました。
議会の設立を受け入れた領地の生得魔術持ちばかりを集めて魔物領域へ向かうそうだ。ただし、元領主と現当主と跡取りは含まれていない。
クリニエール伯爵家でその条件に含まれる子どもは3人いた。第一夫人の末っ子は生得魔術を持っていなかったそうで、第2夫人の子どもは長女は持ってないが、次女は持っているらしい。
なので、該当者はシュエットとシャーリーと第2夫人の次女になる。
幼すぎると第2夫人の次女は真っ先に候補から外され、後はどちらか片方にするか両方にするかとの選択で、シャーリーのみの参加になった。
「別に嫌じゃないだろ?」
伯父の言葉にシャーリーはうなずく。普段は行けない魔物領域の奥地まで行ける。それは楽しみですらあった。
「嫌ではないですが、公爵さまから聞かされると驚きます」
「話すつもりはあったんだが、おそらく参加条件が緩和されて参加人数が増える。魔物領域へ行く以外の事はまだ流動的だ。決まっていない事の方が多い」
だからまだ、シャーリーには話していなかったそうだ。
「準備だけはしっかりしておきなさい。持ち物は高品質のものだけにしてくれ。持ち物自慢するバカがいると安者を持っているだけで絡まれるぞ」
「全部自作したらいい? 糸操魔術で作ったら安物は存在しないでしょ」
伯父は糸の素材に魔力含量の多い物を集めてくれた。
火柱が上がり、竜巻が発生して、天を突くかのような岩が隆起する。どれもが一定時間を過ぎると消えたが、その威力は遠くからでも感じられた。
魔物領域にいくつもの生得魔術の使用音や魔力の波動が響く。
「基礎魔術系統の生得魔術持ち連中は派手にやるねぇ」
「まあ、ちまちま魔術を使うより、生得魔術の方が大技でも魔力消費少なくて済みますから」
ボゴッンっと激しい音とともに魔物の頭が押しつぶされたように消えた。
「いいですね。そういう破壊力のある魔術は」
ひらひらと淡色に光る蝶が集団で飛び回る。魔物に蝶が触れると痙攣してバタバタと倒れていく。
「そっちは華やかでいいじゃねぇか」
中年の男はカッカッカッと笑い、それより少し若い長髪の男は微笑む。
「直接魔物を倒せる連中は元気だな。治療系の公爵さまへの嫌味か?」
「拗ねるなや。まあ、あんたはそれで王位継承権できなかったようなもんだけどな」
「申し訳ありませんね。毒を使うウチの生得魔術が信用ならないせいで、公爵さまはよばれているんですか?」
「そっちも拗ねんなや」
大人の微妙な会話にシャーリーとエクラスルスは口を開かない。監視役という名をごまかすために同行している異国の調査官二人も聞こえないふりをしている。
魔物領域の合同調査に当主ながら参加する事になった3人は、グダグダと自虐ネタを繰り出してはよそのグループを羨んでいた。
余計な口を開かないかわりにシャーリーは黙々と採取する。バッサバッサと枝ごと葉や花や実をアイテムバックに詰め込んでいく。
今回のためにアイテムバックは大容量で重量軽減、時間遅滞させられる物を10袋用意してきていた。
素材集めるより、おそらく用意してきたアイテムバックを売った方が高収入になる。けれど、今はそんな事は気にしないで、余計な話を聞かないためにも採取に集中する。
「しかし、このグループ寄せ集め感ヒデーよな」
「あー、それな。このグループに選ばれた人の共通点のせいだ」
「われわれ大人の共通点は現役の当主といったところですか?」
話しながらも障害物を吹き飛ばし、魔物を倒していく。
「そっ、で、ガキ二人なら先祖返り。同族連中からしたら、当主より貴重な存在だ」
「へー、それで?」
「よそのグループは合同調査官に配慮してるが、このグループは監査官はお飾りだ。口出しして王族席の残るオレに何かあると責任とれないからな」
ちらりと調査官に視線を向ければ、嫌そうな顔をしてはいるが否定はしない。
「それは、何かあると公爵さまがケガしていろいろうやむやにするって事ですか?」
「できれば痛い思いはしたくないが、生得魔術のせいで少々のケガでは死なないからな」
「その時は鎮痛作用のある毒を提供しましょう」
「それは薬と言い換えてくれないか? 公爵さまへの敬意が足りてないぞ」
拗ねる公爵を、男たちは笑い飛ばす。
「あんた、よっぽど来たくなかったんだな」
「攻撃力ないんだから嫌に決まってる。最初からお荷物確定だぞ」
「そこは護りに特化した生得魔術のお嬢さんがいれば問題ないのでは?」
視線を向けられ、うっかり目があってしまったのでシャーリーは口を開く。
「糸操魔術は攻撃的なのです!」
「というのを証明してこいと侯爵の姉ちゃんに言われてんだと」
「あー、あの美人の姉ちゃんな。糸操魔術一門は美人ぞろいだが気が強いんだよな」
「いいですよね。あそこ女当主でも成り立つのが羨ましいです。子ども2人産めば確実に次代に生得魔術が受け継がれるなんてずるいですよ」
蝶舞魔術を使う男はずるいずるいとグチる。
「お前、結局子ども何人産ませたんだ?」
「24です」
侯爵は口笛を吹いて見せた。
「11番目の子が持っていたんですが女の子で、男で持っているが22番目と23番目です」
「あー、そこで2人も生まれると争いになりそうだな」
「その時は女の子を中継ぎにして2人とも種馬です」
軽口の中に疲れがにじむ。
「領主統治が廃止になれば、そこまで子どもを産ませる必要もなくなりますから、改革には賛成なんです」
「このグループは改革賛成だ。ただ、そのためには誰が欠けても良くない」
「生得魔術は有用だ。だからって、領主一族だけで魔物領域を抑えるの生け贄みたいなもんだろ?」
「そうですよね。土地にも縛られますから、人柱にするために子どもが生まれてくるまで作り続けないといけない義務なんて、狂気ですよ」
自嘲してため息をつく。
「子ども母親の名前全員言えるか?」
「半分も覚えてませんよ。子どもも、持っていない子はお金出して終わりです。なのに、評判は女狂いですからね。こっちは義務でやっているんです。冷酷や薄情あたりなら仕方ない評価だとまだ受け入れられるですが」
「いや、その評価もどうかと思うぞ」
「こっちは母子の生活の面倒はみるから、金で子どもを産んでくれる女を募集しているんですよ。妊娠可能な女なら、選り好みもしていないのに女狂いは酷いでしょう」
「それは選り好みしないからこそ女狂いになったんだろ。女ならなんでもいいは義務とはいえ、な?」
嫌そうにエクラスルスが口を開く。
「未成年の女の子に対する配慮が欲しいです」
「おっ、少年。悪いな。すまんすまん」
「子どもには刺激が強すぎましたか。反省します」
「ムッツリ少年。心配しなくてもシャリーネは耳年増だぞ。仕事とはいえ娼館に通っても顔を赤くすることすらないからな」
そのあたりは前世の記憶もあるが、母親のせいもある。
「幼少期に母が男を連れ込んで何してたか見ちゃいましたから。平民の安アパートでは完全に隔離もできないんで仕方ないんですけど、そのあたりの記憶が残っていない弟がうらやましいです」
醜聞はいつまでも残る。シャーリーが伯爵家に引き取られた経緯は貴族社会では有名だ。大人たちもしばし口を閉した。
次、12月30日更新予定。




