目立ったら勧誘された。
なぜだろう。試合に出場する度に貴族学院の生徒がやってきて、戦い方に苦情を出される。
個人戦第二試合。首から下を完全拘束して、相手の左目の前に糸で操作したナイフを突きつける。まだやるか問いかけてみたが無視され、皮1枚切りつけた。
「まだやりますか?」
問いかけたが、やはり無視されて、もう一段深く切るしかないと決めたところで審判にとめられた。
拘束を解くと、対戦相手はポーションをかけられる。後も残らずに完治したので、力加減は上手くできているようだ。
「いや、ある意味すごいよ。綺麗に首から足の爪先まで並行な切り傷を指の太さ幅で均等に傷つけるなんて、技術としてはとっても高いのはわかる。わかるんだけど、手加減下手だね」
「ちゃんとポーションで治った」
「うん。そうだね。でも、脅して作る傷は1つづつにしようか」
エクラスルスに約束と念押しをされて、シャーリーは仕方なく同意する。
貴族学院側の主張としては、試合開始直後に武器や防具が消えたと思ったら拘束されてて、ナイフを眼前に突きつけられた後は恐怖で声が出なかったらしい。
「後出しの言い訳だと思うの。負けだなんて思っている顔してなかったもん」
「まぁ、わけわからなすぎて負けたとは思ってなかったかもな。そのせいで全身切り刻まられる恐怖を与えられたか」
「先輩?」
ちょっとだけ笑って、エクラスルスが頭をなぜてくれた。
「心配しなくても、勝ったのは悪いことじゃないよ」
「次はパーティー戦の第一試合がんばります」
「やりすぎ禁止。ダメだと思ったらケガする前にリタイヤしろよ」
「はい」
無理はしません。
なにしろ4対4のパーティー戦なのに、シャーリーは1人で参戦する。残りの3枠は従魔のルーナと人形2体だ。
1回戦第一試合がシャーリーの参加枠で、どうも貴族籍があるからと様子見に初戦を押し付けられている。
1人の選手が参加できるのは3種目で、3つ目は団体戦に出る予定になっていた。流石に24対24の団体戦はシャーリー1人とはいかないが、こちらも初戦で出る事になっている。
パーティー戦第一試合。
誘拐犯に狙われすぎて、多人数戦に慣れているシャーリーはあっさりと武器と防具を奪い、拘束した。そして、誘拐犯に対応用の人形で慣れた動作をとる。
試合では急所を狙ってはいけないと思い出して、ギリギリで動きをとめた。
人形の足はぎりぎりで当たっていないので、反則にはなっていないはず。シャーリーは審判をじっと見つめるが、試合は止められない。
「試合だから潰したらダメなのよね。そうすると、どこから切り刻んだらいかしら」
悩んでいたら、相手がギブアップして終了になった。
「防犯対策用の技をそのまま使うところだったわ」
やってきた貴族学院側の生徒に危うく反則負けになるところだったと反省していたら、絶対使ったらダメだと涙ながらに力説された。
「男の尊厳を奪いにくる人形が防犯用か」
「もう1人犠牲者を出して失格になった方が、後々被害がなくていいのでは?」
鳳雛側の生徒の発言に貴族学院側の生徒がキレる。
「貧乏貴族の子は欠損部位を治せるような治療費払えねぇよ」
「なるべく高そうな格好をした子を狙ったらいいの?」
「高位貴族の息子を狙うな!」
「まあまあ、落ち着いて。シャーリーも反則負けしたいんじゃないだろ?」
「うん」
「本人もこう申してますので、貴族学院側の生徒が拘束された段階で素直にギブアップしてくれれば問題は起きません」
先輩のこの発言のおかげか、次の試合から対戦相手が素早くギブアップしてくれるようになった。
3日間におよぶ交流会で、シャーリーは個人戦、パーティー戦、集団戦の3つともに優勝を手にする。意外と1番楽だったのが、集団戦。これの勝利条件は相手チームのリーダーを倒すか、相手陣営の1番奥に置かれた旗を奪うか破壊する事だ。
遠距離攻撃が得意なシャーリーは、開始早々に相手陣営の旗を狙い撃ちして破壊する。相手陣営が防御魔術を使うよりシャーリーの攻撃の方が速く、戦術や駆け引きなんてまったくないまま勝利を重ねた。
決勝の相手だけは盾持ちに最初の一撃を防がれ、防御結界を作られてしまったが、一点集中で狙い撃ちし続けて破壊する。
集団戦というより的当て競技のようになってしまったが、苦情は出なかったのでいいのだろう。
交流会が終わり、数日すると騎士団所属の人が鳳雛上級学校へやってきた。貴族学院との交流会の結果を受けてやってきたそうだが、シャーリーの将来の予定に騎士はない。
集団行動、縦社会に貴族の横のつながりと、騎士なんて面倒な点しか思い浮かばなかった。即答で拒否したいところだが、そうすると勧誘役のひとの面子を潰してしまう。
断るときにこそ、注意しなくてはいけない事は多い。
「保護者に相談します」
すべての返事をこれですませる。
騎士なんて志望してないし、騎士団に見学なんて行きたくない。騎士の鎧の下に切る服とかの納品ならまだ話を聞けるが、女性王族につける近衛騎士が不足しがちといわれても、より拒否感情が増すだけだった。
剣なんて冒険者活動するときに冒険者衣装の飾りとして下げているだけで、ほぼほぼ使えない。手にマメをつくるほど練習するつもりもない。
騎士には向いていないと何度も言いたかったが、シャーリーは同じ言葉を繰り返し続けた。
お話し合いが終わると、シャーリーは即伯父に連絡を入れる。そちらから断ってくれるらしい。
それで騎士団との話は終わったのだが、次は魔術師団に所属している人がやって来た。こちらも騎士団と同じ対応をして、伯父から断ってもらう。
騎士団と魔術師団の両方を断ると、この先に王宮関連の戦闘職に就くのは無理だといわれたが、問題ない。戦闘職で気になっているのは自由度の高い冒険者だけだ。
冒険者として素材を集めて、それを加工し売る。そうして日々の生活の糧を得る生活をシャーリーは夢見ていた。
産業をおこしたり、商品開発に追われるような日々は望んでない。ライフバランスを考えたとき、仕事に偏りきった日々を送りたくなかった。
ゆとりというか、余暇というか、ガツガツ、ギスギスしていない生活をおくりたい。
そう考えると、生き馬の目を抜くような貴族社会は向いていない。相続争いで殺し合いまでやっちゃう同級生を見ていると、貴族社会は怖いところだ。
「シャリーネ。時間がある時だけでいいから、オレと冒険者をしよう」
同級生が就職して活動に邁進し、就職が決まっても少しでも条件を良くしようと勉学に励まれ、冒険者パーティーを解散するしかなかったエクラスルスが誘いをかけてくる。
伯父に相談したところ、常に襲撃に備えて余力残すならと条件付きで許可がでた。
「自らの身を守れるだけの力があると示したからね。危険を排除できるなら止めないよ」
冒険者として活動するならと、準備の為に道具を集めていたら、商品開発までそっち関連になってしまった。悪くないが、月のうさぎの商品には向かないと却下される。
少しばかり訂正を入れたり、別の案を出すハメになり時間を取られてしまう。冒険者活動にはなかなか出られなかった。




