冒険者として自己投資するなら武器か防具を買う。
外門に到着すると、3組に分かれる。暗殺者の尋問に立ち会う貴族令息組に、報酬で武器や武具を買う予定の自己投資組に、投資先未定の組だ。
貴族令息組に手続きを任せ、豪商の子どもたちに引率されて自己投資組は店を回る。個々でいくと相手にされないかぼったくられそう面々なので、仲介役がいてよかったと思う。
投資先未定組は貴族令嬢2人の引率で話し合いのできる場所へと移動する。行き先はシャーリーが決めた。
それなりのお値段はするが、伯父からシャーリーが問題なく食事できる店として教えてもらっている。
店に到着したのは朝食の時間帯で混み合っていた。少し待たないといけないかと思っていたら、普段は利用できない2階へ案内される。
「申し訳ございません。お食事の準備にお時間をいただくことになるかと思います」
話し合いが終わらなければ長居するし、急ぎではないので待ち時間は気にしない。問題ないと告げて元クラスメートたちに向き合う。
「あなたたち6人の共通点はなんでしょうか?」
「奨学金生」
「兄弟多くて、弟妹がいる」
「うち3人だけど多いになる?」
「ケチ? 貧乏性?」
「あー、確かに。ここの食事高くて自分が食べていいのか不安になる」
「一夜の稼ぎを考えれば、大した事ない出費のはずなんだけど、罪悪感があるわ」
「上級学校へ進学」
アコニの問いに口々に回答をする。シャーリーはアコニに視線を向け、頷き合う。
「ここの食事、激安店じゃないだけで、高級店でもないのよ」
「年収以上に稼いで、いつもよりちょっといい物を食べるだけのことに罪悪感を覚える必要なんてないの。親にお金渡して、ギャンブルと酒に消えるよりよっぽどマシだから」
「そういう人に大金渡したら貧乏っていう歯止めがなくなるから、命で贖うことになるわよ」
「金食い虫の親を死なせたいって言うなら止めないけど?」
彼らが今回手にするお金はそういう金額になる事をまずは意識させる。
「親が失敗するの前提過ぎない?」
「成功していないから貧困家庭なんでしょ。それに、1回渡したら、次も同じくらいだけ求められるわ」
「武器や防具もないまま高額報酬を狙ったら死ぬよ」
まずは危険性を教えることから始め、納得できない彼らの意見を1つ1つ潰していく。
「いつもと同額までしか渡さない方がいいのは理解したわ。それなら貯金で良くない?」
「一部を貯金するのはいいわよ。でも、貯金する余裕があるなら今後の為に使いなさい」
「そういう意味ではアコニはお手本になるわ。アコニの実家への仕送りって、弟妹への投資でしょ」
「そうよ。いつまで生家と繋がりを持てるかわからないから、仕送りできなくなった後のために勉強させてるわ」
貴族同士の繋がりを持つようになれば、実家は養子先の男爵家になる。そして、実家の男爵領以外で結婚なんてしたら生家と連絡を取ることさえ難しくなる。
「あんたたちもさ、就職したら辺境送りになるかもしれないのよ。どっかの領地持ちの貴族に雇われたら、そこの領地に行くの。仕送りくらいはできるかも知れないけど、何かあった時すぐに助けられる距離にいられるとは限らないわ」
「仕送りも難しいんじゃないかしら? 結婚でもしたら、奨学金の返済して、自分の家庭があって、更に実家の親兄弟の面倒なんてみれないでしょ。まあ、生きてればまだいいけど、奨学金の返済免除を狙うなら危険地帯への配属もあるよ。死んだ後じゃ何もしてあげられないってわかってる?」
沈黙が落ちる。その沈黙を壊す様に引きつった顔で口を開く。
「シャリーネさまは発言が厳しいですね」
「だって、わたしが母親と住んでいた所、酷いからね。ギャンブル依存症とアル中が隣人で、子どもの稼ぎで愛人に貢ぐとか、もう親として存在してくれなくていいでしょ。殴られない分ネグレクトの方がマシかなって思っていたら、子どもの方が暴力は躾で、愛情なんだって。顔をはらして親に見捨てられてかわいそうって言われる環境だったの。家族になんて夢見れないわ」
「えーと、その、すいませんでした」
「いいよね。大事にしたい家族がいるのって。でもさ、大事にしたいなら、ちゃんと生きられる様にしてあげなよ。上級学校、死者までは滅多にでないけど、実技の授業で後遺症が残って退学くらいは毎年いる」
部屋の空気が重苦しくなったところで食事が運ばれてきた。スープにサラダにソーセージ。そらからパンと果実水にヨーグルトが人数分出てきた。
「まず、弟妹を冒険者にしよう。薬草採取ができる様になるだけで飢え死にしなくなるわ。で、夜はお勉強。文字と算術くらいは冒険者でもできた方がいいし、そういうのが得意なら別の職も目指せるわ」
「他の家族が協力してくれないなら、入学式までの期間だけでも、冒険者ギルドと近くで生活させたら?」
「学院の方は従者でも人を雇えるから、弟妹をお手伝いに呼んで勉強させてもいいわね」
「あとは、商業ギルドに登録してもいいかも。今回の賞金で登録できるから、露天商にはなれるよ。で、弟妹を雇うの。1年生の時なハーブ茶作ったでしょ。あれなら銅貨で弟妹たちに売ってもらっても大丈夫なんじゃない?」
「今の時期なら、氷で冷やせばいくらでも売れるわ」
「何でもいいから売買をすれば実績になるから。商業ギルドで仕事の斡旋をしてくれる可能性もある」
問題を起こさないのが最低条件で、見どころがあれば待遇は良くなる。
「お金に余裕があるのは失敗する余裕があるってとこ。お金を渡すのは愛情じゃない。食事が足りれば兄弟姉妹に必要なのは教育。お金を渡す時にしか得られない親の愛情は偽物。商売女が男に貢がせているのと同じだから」
「シャリーネさまは家族愛に否定的すぎではないですか?」
「だって、あなたたちの共通点、親が残念な人で搾取されることを当然だと思い込まされているとこよ。貧困家庭出身でもまともな親の子は買い物しに行っているじゃない。よい武器や防具は贅沢品ではなく、今後より上を目指す為に必要な物だと理解できてるの。冒険者としても使えるし、実技の授業でも使える必要品。戦う事をやめたら売れる財産。ムダつかいじゃないの」
「成績維持にはよい武器や防具があると助かるから、そんな物の購入さえ贅沢だと思っているようなら、先はないわ」
「ちゃんと考えて、今日あなたたちが稼いだお金は生活費なんかじゃいの。自分や弟妹の未来を夢見るチャンスよ」
買い物組に合流する事を決めた4人。アコニが通信端末で連絡をとって引率していく。
「で、あなたたち2人は人生を家族の奴隷として捧げると決めたの?」
「シャリーネさま、それはあんまりないいようです」
「だってそうでしょう? 生活費だけで考えたら数年分は余裕であるのよ。それだけの時間的余裕があるのに何もしないなら、今のまま家族に搾取され続けたいってことでしょ」
傷ついた顔をして強い目でシャーリーを見てくる。
「シャリーネさまは大事に育てられているからわからないんです」
「教養学校に入る前から最近まで会ってなかった母親に最近会ってさ、産まなければよかったってビンタされたんだけど、どこに愛情を感じたらいい?」
黙った相手にたたみかける。
「母がいらないっていうから伯爵の叔父が仕方なく面倒見てるのに、貴族待遇だったのが気にいらないみたいでね。会う場所として指定してきたのは向こうで、お茶だけでこの店の10倍はするわ。1番高いセットメニュー頼んで、お金払わないで帰られたの。そんな人に、何を期待したらいい?」
「えっ、あの、その、伯爵さまが久しぶりの再会に良い場所を提供したとかは?」
「伯父の助言は会わない方がいいだったわ」
困った顔をした2人にシャーリーは自分語りをやめる。
「それで、あなたたちの親は金づる以外の意味で、あなたたちの成功を喜んでくれる人?」
2人は黙ったままいた。




