伯父に苦労をかけたくはなかった。
外門の次は冒険者ギルドで権力が使われる。通常営業が終了している冒険者で魔物の登録を行う。
「巻き込んでしまって、悪いね。エクラスルスくん」
「いいですよ。糸操魔術一門の方には儲けさせてもらっていますので、父にも気持ちよく送り出してもらえました」
夜勤に当たっていた職員は伯爵さまの訪問にガチガチに緊張している。
狼と違って角も牙もないうさぎは危険性が高くない。けれど、見たことのない特殊個体そうだからと、冒険者のルルの従魔として登録する事になった。
頭の上に乗り、寝ているらしいうさぎだ。たまに目を開けるが、だいたい閉じているそうで、とても危険な生き物には見えない。
害がなければ問題ないそうで、種族が判明したら再度種族名を登録に来てもいいし、来なくてもいいそうだ。
「狼はどの種か登録がいるんですが、見た事のない種類ですね。毛も白っぽいですし、森狼の突然変異でしょうか?」
「月狼らいしですよ」
うさぎが言っていた事を告げてみたが、よくわからないようだ。
「ゲツロウですか? 私では判断つきませんので、申し訳ありませんが、昼間に再登録に来ていただいてもよろしいですか?」
「それはいいですが、いつ頃がいいですか?」
「こちらでも調べる時間をいただきたいので、10日前後いただきたいです」
「オレ、週末冒険者なので、その度に顔は出しますから、判明した時に再登録します」
するべき手続きが終わり、ふと思い出してシャーリーはギルドの職員に告げる。
「魔導列車の高架の近くでネズミ、300くらい倒してるんですけど、生態系大丈夫ですか?」
「へっ?」
なんか理解してくれていないようなので、リュックサックから採取袋を出す。袋をひっくり返してカウンターの上に出すと魔石が転がってしまうので、糸で壁を作ってから出しだ。
「うわっ。これ全部ネズミかよ」
「これと同じだけ魔石が入った袋があと2つあります。次から次にネズミが来ちゃったから、閉門時間に間に合わなかったの」
「えーと、買取希望ですか?」
「希望してないですけど、数が多かったので報告がいるかと思ったんです。必要なかったですか?」
「いえ、報告ありがとうございます。変異体がいたかどうかわかりますか?」
「20コぐらいほかのより大きな魔石が出ましたので、そのくらいかと」
何度か質問され、魔石の入った袋を2つ見せる。ギルド職員は何かの書類を作っていた。
「情報料は後日になりますので、昼間お越し下さい」
エクラスルスにお礼を告げて別れると、伯父と一緒にクルマに乗る。
「さて、夜も遅い。叱るのはクルマの中でもさせてもらおう。まず、何が悪かったかわかるか?」
「遅い時間から冒険者活動したこと?」
「それはいつもならやらないだろ。今日、出かけたいのもわからなくはないから、それはいい。閉門時間に間に合わないとわかった時にまずは連絡してきなさい」
いつも帰ってくる時間に返ってこなければ心配すると怒られた。
「ごめんなさい」
「それで、ネズミの群れが大変だったのはわかったが、その兎とあの狼はなんだ?」
「えーと、その。女神さまに会ったかもしれません」
あったことを話すと、伯父は片手で自らの頭をおさえた。
「我が系譜の娘に祝福を、か。それは総本家に調べてもらわないといけないな」
伯父が大きなため息をつく。
「シャーリー、君は今でも爵位を望まないか?」
「望みません」
「なら、その話はもう侯爵さま以外にはするな。そして、話した後はしっかりと爵位を望むつもりはないと告げなさい」
「はい。同級生の後継者候補たちは毎日暗殺を警戒しています。わたし、変態だけでお腹いっぱいだから暗殺者までいりません」
「あー、話が漏れると確かに変態も増えるな」
「イヤです。いらない。拒否です」
伯父にしてはめずらしく、運転手に口止めをした。もともと口の堅さで伯父の専属運転手に選ばれている人で、口止めは重要度の高さを知らせるものでしかない。
「ルーナ、イヤーカフに戻れる?」
『糸、ちょうだい』
魔力で糸を作りルーナに触れるとイヤーカフになった。
「シャーリー、何をやった」
「えーと、ルーナしゃべるんだけど、声聞こえなかった?」
「私には聞こえていない」
バックミラー越しに伯父が運転手を見ると運転手も聞こえなかったと答えた。
「えっ、会話しているつもりだったのに幻聴? でも、月狼なんて知らない言葉だし」
眠そうなルーナをまたうさぎにするのもかわいそうで、シャーリーは悩む。
「カフスなら、カツラで隠せるな。人前ではうさぎのままかカフスのままのどちらかにしなさい」
あんまり叱られなかったけど、ルーナとの付き合い方はくどくどと説明された。
ペットの飼育許可が出たのでいいとしよう。
「明日、学校行けるか?」
「行きます。クラブ棟なら寝れるから」
「もう休みなさい。出なくて困る授業もないだろ?」
「それはないです」
クルマが止まったのは知らない場所だった。伯爵家の王都別邸の1つらしい。
爵位を譲渡したあと、先代にヒモつく人が暮らしたり、愛人を囲ったりするのに使われる家だ。今の先代は領地におり、伯父は愛人がいないそうで、別邸に特定の誰かは住んでいない。けれど、いつでも使えるように手入れはされている。
別邸の客間で、伯父と向かう。シャーリーの前にはお茶とお茶菓子が置かれ、伯父の前にはお酒とつまみになっていた。
「シャーリー。何が嫌で離れを出た?」
作り物の笑みさえなく、伯父が問いかけてくる。
「寮に入るくらいなら別邸を使ってもいい。何が気に入らない?」
これ、答えるまで許してくれないやつだ。明らかな嘘はたぶんばれる。
「今日は、今日だけは、母を擁護する言葉を聞きたくなかったから」
「離れでエメロードと関係のあったのはマイモナくらいのはずだが」
そういうの、把握しているのか。シャーリーが特定の名前を隠した意味なんてなかった。
「なら、ちょうどいい。マイモナをエメロードのところにやろう」
薬の副作用で辛いから、手伝いの人を欲しがっていたらしい。そんなにエメロードに対して忠誠心があるなら喜んでやってくれるだろうと、伯父が悪い顔をしてたくらんでいた。
「本邸の使用人からクレットティックの世話は不人気だから、そっちも任せるか」
どつやらマイマナは本邸へ移動になり、クレットティック専属にするようだ。で、クレットティックが学校に行っている間にエメロードのお世話をしに行くことになるらしい。
「それは喜びそうですね。エメロード様をお助けしたいから、そのための協力をと言われていましたから」
離れのメイド頭を左遷してしまってもいいのかと悩んでいたが、ある意味本人希望が叶うなら問題ないだろう。
「そういう事は言われた時に知らせてきなさい。黙っているのがよい子ではない」
次のメイド頭についてや、減ったメイドの補充について話している間に、伯父は何度もグラスを開けていた。そのせいかほんのり顔も赤くなっていて、楽しむように笑って目を細める。
「悪い子のシャーリーに罰則課題だ。毎月、最低1回はおねだりにきなさい。今月はもう残り少ないから、ペットを飼いたいで許してあげよう」
「伯父さま。酔っているようです。お休みになられた方がよろしいかと思います」
「そうだな、できなかったときの罰は、高位令息令嬢の集まる茶会かガーデンパーティーの参加にしよう」
本気でその罰は嫌だ。そんな面倒なものに参加なんてしてくない。
けれど、おねだりはおねだりで難題だ。
基本的に、お金でどうこうなる物は与えられている。おこづかいももらっているし、糸操魔術関連で収入もあり、望めば自分で手に入れられる物は多かった。
これはもう、酒による戯れで、寝て起きたら忘れてくれている事を願うしかない。
けれど、ゆっくり寝て昼頃に起きたシャーリーに伯父から残されていたメッセージカードは、おねだり楽しみにしているだった。




