学校に帰るまでが課外学習です。
「ルルさん、精算終わりました」
冒険者名を呼ばれて買取カウンターに向かう。
素材を入れていた袋と明細書とお金と冒険者カードが入ったトレーを渡される。薬草が3種で計5回の依頼達成になって、緑兎は3羽で1回扱いなので、依頼達成は1回となっていた。
「緑兎は状態が良かったので買取額が上がってますよ」
「倒し方変えて討伐したんですが、どっちの状態がよかったかわかりますか?」
「どっちもよかったみたいですね。どちらも倒して直ぐの持ち込みでしょう? 討伐から持ち込みまで時間がかかるようなら3羽倒したほうがいいかな」
「はい、ありがとうございます」
トレーを持ってテーブルに戻り、素材袋は鞄にしまい、小さな小袋に銀貨と大銅貨を小袋を出して入れる。
今更ながら、シャーリーはサイフを持っていなかった事に気づく。何を買うにしても、誰が買ってくれる。必要ならお付きの誰がか出してくれる環境にあった。
食べ歩きへの道は遠い。
明細書は鳳雛祭の資料に使うそうで、やる気に満ちている男爵令嬢に渡す。
「肉も毛皮も高品質で買取されてる。魔石も爪も欠けなしだし、どうやったの?」
「氷で瞬間冷凍。雷でドン」
「あっ、うん。参考にならないことはわかった」
男爵令嬢の言葉理解するのに、呼吸1つ分の時間を要した。
「何がダメなの?」
「1、属性。2、魔力操作の精度。3、魔力量」
「別に無詠唱でやる必要はないし、緑兎くらいならそんな魔力いらないでしょ」
「長々と詠唱していたら逃げられるわ。襲ってこない分逃げ足の速い魔物だもの」
討伐方法は参考にならないが、緑兎で銀貨が手に入るのは夢があると喜んでくれる。
「もう1回くらい冒険者やれる? やれそうなら、鳳雛祭の展示に使いたいからギルドに売らないでほしい」
「そういえば、何か作るって話もしていたわね」
無傷で終わったが、今日は襲撃されてしまった。もう1度冒険者をやれるかどうかは、伯父と護衛の判断になるだろう。
全員の精算が終わるのを待っている間に、今日の社会見学のレポートを書く。レポートには襲撃されたなんて余計な事は書かない。
「接近戦さえどうにかできたら、冒険者やれそうなんだけど」
「まあ、魔術使いなんて、守られながら攻撃するものだし、それはそれでいいと思うわ。問題は伯爵令嬢って事と、襲撃の巻き添えを喰らうからパーティーが組みにくいってとこよ」
「あの遠距離精密射撃はさすが学年首席って感じだよな」
「このあたりにいる緑兎とか森狼くらいなら、守りながら攻撃してもらえばいいパーティーになりそう。でも、ガチな裏社会の住人からの襲撃に守り切る自信はない」
貴族籍組で同じテーブルに座り、なんとなく本日の反省会になった。間で精算に抜けたりもするが、おおむね今日の成果にみんな満足していた。
「もうさ、シャリーネは門のところに陣取って、遠距離攻撃で魔物しとめたら? 遠くても糸で回収できるんだろ?」
「僕らが仕留められないのをそっちに逃がせば処理もしてもらえていいかも」
「さすがに兵士のいる門で襲撃はないわよね?」
子どもたちの視線を受けて護衛隊長は困った顔をする。
「いつも門にいるとなると、門の兵士が買収されないか気になるところです。お金で動かなくても、家族を人質に取られてやらかす方もいますから」
護衛は冒険者をやってほしくなさそう。後は伯父がどう判断するか。だけど、1人ぼっちで教室にいるのは避けたい。
でも、それはクラスメートを死なせてしまう危険にさらすことだ。それはそれで、できれば避けたい。
全員の精算が終わるのを待って学校へ戻る。学校へ着いたのは、授業が終わるよりも遅い時間だった。けれど、何人かのクラスメートは帰って来るのを待っていた。
午後の短い時間で多い人は銀貨、少ない人でも大銅貨を手に入れられるのは魅力のようで、熱心に明細書を見ている。
「今は薬草が多いからいいけど、冬場は魔物倒せないと稼げないと思う」
「まあ、鳳雛祭用に許可が出ているだけだから、冬場は冒険者できないけどな」
「でも、鳳雛祭までに昇級したら、実績になるもの。特例許可は取れると思うのよね。2年生になるまで待っていたら長期休暇に冒険者できないもの」
長期休暇は稼ぎ時だと男爵令嬢は熱弁する。
「1番稼いでいるながシャリーネさまなのがびっくり」
「魔物の倒し方が上手いのよ。緑兎の買取価格が1人だけ倍くらい違うもの」
「氷で瞬間凍結か、雷で頭狙い撃ち。しかも、無詠唱でフツーやるか? シャリーネにとっては学校の長距離射撃場が余裕で射程圏内ぽいよな」
みんなが楽しそうに話している間に担任の先生に本日のレポートを提出する。
「明日でよかったんだがな」
「できれば宿題は家に持ち帰りたくないですから」
宿題をするより、人形と人形をいれたカバンをもっと野外で使いやすいように改造したい。
「護衛方から連絡があったが、元気そうだな」
「わたしより、人質になった方のケアしてほしいです」
「君の放った魔術はすべて当たりはしたが誰も死んでいない。それが君の立場ではいい事だとは限らないが」
いつか、生かしたことを後悔するのだろうか。
「護衛がいる間は大丈夫です」
必要ならとどめをさしてくれる。
「よい子で守られているのが、賢くて安全な生き方だ。悪い事ではない。折り合いがつけられるならな」
「先生にはよい子に見えませんか?」
「がんばってよい子をしていると思うよ。でも、学友につられてとはいえ、冒険者登録しちゃう子だからな」
声を立ててシャーリーは笑う。
「バランスは大事だよ。君は幼く、守られている子どもだからね」
「覚えておきます」
「なら、もう1つ覚えておきなさい。我慢はいずれ限界をむかえる」
よい子。上手くできているはずなんだけど、バレている人にはバレているようだ。
「君はよい子すぎて嘘くさい。こっちは子どもに苦労させられるのが仕事だからな。大事にしてくれる保護者だ。苦労させてやれ」
「そそのかすなんて、悪い大人ですね」
「いいんだよ。どうせお前の保護者にはバレてるからな。よい子すぎるのも心配させているぞ」
いつまでも話している生徒を先生は帰るようにうながす。シャーリーも家に帰るために教室を出た。
さて、すでに伯父には連絡がいっている襲撃について、どう対応するのがいいだろか。
泣いて怖いとでもいえば、護衛が増えそう。
平気です。大丈夫です。は、強がっていそうで痛々しい。
上手い答えを見つけられないまま、夜の遅い時間に伯父が訪ねて来た。
「ケガはしてないな?」
「はい。護衛の方達のおかげでありません」
「元気に帰って来てくれてよかった」
グリグリと頭をなぜてくれる。
「まだ、冒険者やりたいなら、護衛を離さないようにしなさい。森まで行くのもナシだ」
「いいの?」
「楽しかったんだろ?」
穏やかな目で伯父が見下ろしてくる。
「護衛の望むままにしていたら籠の鳥になる。それではシャーリーを誘拐したい連中と同じだからな」
「町の外、風が吹き抜けて気持ちよかったの。ギルドに戻ったとき、1人だけ何にも食べられなかったけど」
「そこは我慢してもらうしかないな。冒険者ギルドの厨房は冒険者も入れるそうだから、安全確保が難しい」
そこは仕方ない。
「たくさん楽しんでおいで」
伯父は禁止するのではなく、送り出してくれる。保護者がこの人でよかった。




