教養学校に入学しました。
教養学校の入学式はどこも同じ日だ。第一夫人の第3子は同い年で、あちらも入学式をむかえる。親は当然子ども入学式へ行くので、シャーリーは1人で参加するつもりだった。
祖父母に来てもらう案もあったが、第一夫人の子どもの心情を考えると、兄と姉の入学式に出た人が自分の時だけ欠けるのは嫌だろう。
「1人で大丈夫です」
そう主張してはみたものの、誰も付き添いがいないのは外聞がよくないと伯父の側近が付き添いに決まった。マイモナと2人で並べば夫婦に見えなくもない人選になっている。
車で学校に向かうと、学校の周辺は入学生を乗せた車で渋滞を起こしていた。
「歩いた方が速くない?」
「降りたらダメですよ。歩きたいなら護衛を呼びますから、到着までお待ち下さい」
「車で大人しくしています」
私立鳳雛教養学校は平民の富裕層や奨学金生が生徒の大部分を占めている。貴族籍のある生徒は少数派であり、貴族専用の門なんてなかった。
貴族の子どもが多くて通う貴族学院の教養部なら身分別に入り口がわけられており、上位の者は渋滞を避けられる。
そのため、そういう場で使われる車は地位がわかるようになっていた。
現在、シャーリー専用になっているこの車は地位がわかるようにはなっていない。必要に応じて家紋を取り付けることもあるが、表示したところでこの渋滞からは逃げられなかった。
早く家を出ないとダメだとマイモナにせっつかれたおかげでまだまだ時間には余裕がある。遅刻するほどならもう1度歩くことを検討するが、今はまだのんびり構えていた。
どうやら渋滞に短気な人が混じったようだ。何度も何度もクラクションを鳴らし、怒鳴り声も上げているようだ。
「あれたけ騒ぐと疲れそうですね」
「使用人からすると、あの行動を主人から強要されるのは辛いですよ」
伯父の側近が苦笑し、いつも黙っている運転手が珍しく口を開いた。
「騒いでいる車のために道を開けているようです。どうしますか?」
「動くな。シャーリーお嬢さま。面倒だから道を開けさせたいと思っているかもしれませんが、地位でゴリ押しする相手に上位にあるお嬢さまが譲ってはいけません」
ほぼ初対面の伯父の側近に性格がばれていることに驚く。
「相手が下位だとなぜわかるのですか?」
「全校生徒及び教職員については調べております。教員で爵位持ちの方はいますが、子息令嬢は伯爵の子どもが最上位でした。お嬢さまと同等の方はいても上の生徒はいません」
そして、教職員はこんな時間に出勤してこない。
「真後ろに来ましたね。クラクション鳴らされたのでお話ししてきます。お嬢さまは降りたらダメですよ」
伯父の側近は楽しそうに車から降りた。
「シャーリーお嬢さま。心配しなくても大丈夫ですよ。あの方は1代限りですが騎士の爵位をもっております。何かあった時はお嬢さまの護衛ができるようにと選ばれた方ですから」
相手が静かになり、あおるように詰められていた車間が開いた。
にこにこと伯父の側近は戻ってくる。
「成金の平民でした。それでよくもまあ、あれだけ強気になれたと感心します。相手の家に圧力かけられますが、どうしますか?」
「え゛っ」
電話1本かけるだけの簡単なお仕事らしい。
「シャーリーお嬢さま。あなた糸操魔術を持った一門の子です。そしてその白銀の髪は母親のことがなくても伯爵家に迎え入れられたことでさしょう」
一門の根づいた白銀の髪信仰は伯爵位くらいないと守りきれない。それでも守れないなら総本家が出てくる。
「あなたの名前は貴族籍にあり、伯爵令嬢という立場があります。それを忘れないように行動しなさい」
立場と言われてもピンとこない。わかっていないのがバレたのか、ことさら笑みを深める。
「あなたが不敬を見逃し相手を増長させたら、注意や警告ではなく潰すしかなくなります。対象者本人だけではなく、家族ごとですね。あまりにひどいと親戚縁者にも処罰対象になります」
「6歳児がやったことで、そんなことになるの?」
「あなたの保護者は伯爵ですよ。子どもの口げんかやからかいでも保護者の悪口が出たら処罰対象です」
前世の記憶が身分社会の認識を阻害している。
「貴族の子でも王族に親の悪口を言ったら処罰されるのはわかりますか?」
王子や王女の親は王様。王様の悪口を公言したら捕まる。内容次第では極刑も連座もありえた。
「甘さは優しさではありませんよ。破滅への後押しになります。家ごと潰したい相手がいるなら、甘やかして増長させるといいですよ」
貴族らしい態度をと言われても、貴族らしさがわからない。
「えーと、相手の無知はどこまで許されますか?」
「この学校の生徒に限れば無知で許されることはありません。面接入試突破してきた子たちですから、知らないは通用しませんよ」
何がよくて何がダメか、境界線をさぐる。
「しゃべると危険?」
「学校ですから、議論はいいですよ。議論で負けてほしくはありませんが負けてもいいです。ですが、議論で個人や家を攻撃してきた人はダメですね」
「勝ちを譲れとはいわないんですか?」
「そこは自己努力で得て下さい。お勉強は順位より理解できているかどうかの方が大事です。成績が悪いと家庭教師は増えるとは思いますが、相手の足を引っ張って順位を上げることは推奨していません」
足の引っ張り合いをするメイドを見てどう思いましたかと問われ、みっともないと思う。醜いし、怖くもあった。
「シャーリーお嬢さま以外にも貴族の子はいますから、何がよくて何が悪いのか参考にされると良いでしょう」
のろのろと進む車はようやく学校の中へと入った。
「髪、ちゃんと隠れてる?」
「大丈夫ですよ」
裏社会で白銀の髪に賞金がかかったのを受けて、学校でカツラの着用許可を得た。今日のカツラは落ちついた青色で、肩の下くらいまで長さがある。
マイモナに身だしなみを確認してもらい、やっと車から降りられる場へ到着した。
入学生受付と書かれた場所へ向かい、事前に通知されていたクラスと名前を告げる。教室のある場所を教えてもらい、ここからは付き添いとは別行動になった。
1年生の教室は1階にあり、最初の角さえ間違わないで曲がればあとは教室の表示が出ている。1組の教室は1番手前にあり、廊下と教室を区切る壁は肩のあたりまでしかなかった。
廊下からでも教室の中の様子は見え、担任の先生らしき人と目があう。にこにこと笑みを浮かべていた。
教室に入り、名前を告げると名簿にチェックが入る。ロッカーの鍵が渡され、荷物は必ずロッカーの中にいれて鍵を閉めるように言われた。
鍵の番号は3番。これが出席番号で、出席番号は入試の結果順だ。入学生は100人で、1クラス25人。1組には入試順位上位25名が集められている。
3番ロッカーに荷物を入れ、鍵を閉めた。席は早いもの順で好きに座っていいが、今日だけは廊下側の1番前から出席順に座って欲しいと言われている。
席は半分ほど埋まっているが、知り合いはいないし、誰かに席を取られてもいない。シャーリーは廊下側の前から3つ目の席に座る。
だいたいみんな大人しく席に着いており、時間の少し前に全員がそろう。先生の号令で入学式の会場へ移動した。




