糸操魔術はミシンだけじゃなかった。
人の減った侯爵邸で、子ども部屋と呼ばれる勉強するための部屋に連れて行かれる。先生役はプリエールのままで変わらないが、助手が3人ついていた。
「糸操魔術について勉強するのは大きく分けて3つです。刺繍は8月にやりましたね。あとは結界、人形使いです。まず、結界からやりましょう」
輪になった紐を渡される。
「この紐、魔力が一定方向にしか流れません。常に魔力を流しておいてください」
魔力を流すのはすぐにできた。その後はあやとりをさせられる。そうやって、魔力の流れを覚えたら、自分を取り囲むように魔力で出した糸で再現すると結界になるらしい。
糸で輪を作るだけでも結界にはなるとプリエールは見本を見せてくれた。形が複雑になるほど必要になる魔力は多くなる。なので、輪からの変化で作れる形は複雑でも魔力消費が少なく、強度と効果が増せるとあやとりが推奨されているそうだ。
まず輪で結界を作り、次に王冠の形で結界を作れば、6歳のお勉強としては合格となる。属性をつけたり、強度をあげたりは自分で試して最適化していかなくてはならない。
来年からは自習の成果を見せるだけで、あれしろこれしろという勉強はないそうだ。自分で独自の形を作ってもよくて、形の練習をするために練習用の紐は1度だけもらえる。
よっぽど変なことをしなければ壊れる事はないが、壊れたからといって代わりはもらえない。一門独自の練習方法なので、売っている所もないから、大事に使うように言われた。
あやとりか、前世の記憶にはあまりない。冬場のイベント時期に手編みのマフラーをプレゼントというのがクラスで流行ったことがあった。その時にあまった糸であやとりをしている人がいた記憶がよぎる。
特に使える情報はないと判断し、プリエールに簡単なあやとりの形だけ教えてもらう。結界の勉強は半日で終了した。
午後からは人形使いの勉強に入る。最初にもらえる人形は3つ。
1つ目、木の人形。シャーリーと同じくらいの大きさの人形で、丸太に手足と思われる木の棒が四つついており、胴体と思われる丸太より小さな丸太が頭のようにのっていた。
手足である棒は、くるくると胴体と接続部分にあるネジを中心に動かすことができる。動くのはその部分だけで、この丸太人形は重い。
大の字のように内部に糸が通っており、魔力操作でその糸を動かすことによって人形を動かすことができる。
起き上がらせるのは魔力ゴリ押しの力業だ。バランスをとって技術的に起き上がらせれるほどこの人形は丁寧に作られていない。
人形の内部に糸を通して動かせられるという見本でしかなく、みんな練習で1度成功させたら使わないそうだ。人形を贈られる5歳児の数に合わせて毎年作られるが、持って帰る子の方が少なく。引き取り手のないまま年代物になった人形もあるそうだ。
「上手く使えば盾になります。 丈夫で修復も簡単だから、戦争している時期なら人気でした」
「これ、変態にぶつけたら、相手倒せる?」
糸の主導権を取られなければ、やれるそうなので自衛用にもらうことにする。使う気があるならと、手の平くらいの木の板で作り方を教えてもらった。
ネジを金槌で打ち込んで固定し、糸を強化して力業で木製の人形に通す。なかなか雑な作りだ。
使いこなせるかどうかは自己努力と、なげられてしまう。
「はい、こちら2体目の人形です」
人型をしておりは膝や肘といった関節もある。人形にいくつもの糸かついており、人形劇で使われそうなあやつり人形になっていた。
「先程のとは違い、人形の内側ではなく、外側に糸があります。さっそく動かしてみましょう」
糸を引っ張れば腕があがり、緩めると腕が下がった。シャーリーの腰ぐらいまでしかない人形で、最初の丸太人形に比べれば軽い。こちらも起き上がらすことができれば合格となる。
「はい。最後、3体目です。動けるようにしなさい」
2体目の糸なし状態の人形を渡される。糸を内側に通してもいいし、外側につけてもいい。両方併用してもいいから、自分にとって最も使いやすい状態にするのが課題だ。
この3体目の人形を素材を使い強化していくため、年が上の子が持っている人形はどれも装飾されている。そんな人形を使って戦うのが夏のお勉強会だ。
戦わせれば当然壊れもする。そのため、修復用にみんな2体目の人形を確保していた。
「それ、丸太人形で参加したらダメなんですか?」
「構いませんよ。ほとんどの子がゆっくりとしか動かせないので的扱いされてしまいますが、壊すのが目的みたいな子とやる時は使われる方もいます」
その場合はだいたい自作の人形であまり大きくないそうだ。
丸太人形とあやつり人形を交互に操作し、刺繍に浮気したり、魔力操作だけであやとりをやりながら、3体目の人形をどうしようか悩む。
高性能ミシンにあやとりに人形遊び。やれる事は増えたが、どうにもしょぼい。
決まらないもの考えるより、この丸太人形を気持ち悪いのが現れた時に全力でぶつける練習を優先しよう。こう、身体の中心を抉るというか潰す方向で、ドンっとぶつけたい。
人形の顔に長い鼻をつけたら、いい感じに有害な物体を潰せないだろうか。高さ的にはいい位置だと思うのだけど、そこまで威力を出すの難しい。
「シャリーネ、あなた、カメラに映っていた残念な殿方が何を言っていたかわかっていたりする?」
「刺繍部屋で相談したら、内容は知らなくていいって言われました。切り落とすか潰せば問題ないそうです」
「そうね、教育的には問題があるかもしれないけれど、女にとっては問題ないわ」
刺繍技能者集団は旦那や婚約者と問題が発生し、仕事に生きる女性になった方がままいる。男もいるにはいるが少数派であり、なかなか過激な意見が出やすい場だった。
「でも、いきなり潰すのは難しいから、お鼻をつけて、鼻から水かでるようにしましょう。夏に子ども水遊びなんて、いたずらの定番だわ」
人形強化の練習にプリエールと一緒に鼻型水鉄砲を使ってくっつけた。なぜか、刺繍技能者集団が予備の鼻を作ってくれる。
色と臭い付きの水が出るらしい。しつこい相手に性別を問わずに使えるそうで、自信作だそうだ。
原料にものすごく臭い臭いを発生させる花を使ってあるらしい。かなり珍しい物で、素材を提供したのは侯爵家の当主だ。
「子どもらしくいたずらしたらいいわ」
そう許可を出してくれるあたり、思うところがあるのだろう。とりあえず、白銀の髪信奉者で、仕事をしないで足の引っ張り合いをしている人を水鉄砲の練習台にしよう。
アレニエル侯爵も1度や2度ならともかく、半月以上バカをやっている使用人はいらないそうだ。度重なる注意に反省する様子もないため、順次入れ替えていく予定になっている。
「一門の子は侯爵の客人なのよ。それを物扱いして取り合うなんて、勘違いもはなはだしい」
怖い笑みを浮かべていたので、甘い対応にはならないだろう。シャーリーはそっとカメラを提出しておいた。




