お勉強の時間です。
無事ではないけれど、パーティーが終わり、再び引きこもり生活に戻れると思っていた。だが、翌日の午前中には家庭教師を名乗る人が部屋にやってくる。
お勉強のために移動すると言われ、図書館に連れて行かれた。広い建物一角で、勉強の進度を確認するとペーパーテストが用意されていた。
「解き終わったら呼んで下さい」
寝台くらいある大きなテーブルの反対側に家庭教師は座り本を読み始める。ペーパーテストは10枚あったが、難易度は入試と同じくらいかちょっと難しいくらいだ。
すらすらと解き、確認の見直しも一度する。そうして終わったとペンを置き、読書中の相手をどう呼べばいいか迷う。
もじもじしていたら、本から顔をあげ、眼鏡越しに琥珀色の瞳と目があった。
「どうかしましたか?」
「解き終わりました」
「では、なぜ呼ばなかったのですか?」
「どう呼んだらいいかわからなくて」
「家庭教師と名乗りましたから、先生でもいいですし、名前でプリエールと呼んでくれてもいいです。終わっているなら、呼んで下さい」
「プリエール先生、解きおわりました」
「はい。よくできました。採点する間に好きな本を選んで持ってきて下さい」
イスから立ってあたりを見渡す。背の高い本棚がたくさん並び、壁も本棚になっている。背表紙の文字を読みながら探検していると専門分野ごとに並んでいるのだとわかった。
建物の奥へ行くほど専門性が高くなっているようで、シャーリーは入り口の方へ移動する。入り口近くの背の低い棚に絵本があるのを見つけた。
呼んだことのある本もあり、このあたりかこの先くらいの本なら読んでわからないということはないだろう。
派生魔術入門と書かれた薄い本を見つけ、手に取る。基本属性以外の入門魔術が載っているようだ。これに決めて席に戻る。
土系統の派生魔術。
岩、岩よ。砂、砂よ。泥、泥よ。
水系統の派生魔術。
氷、氷よ。湯、湯よ。霧、霧よ。
湯って、属性あるのか。そして、入門魔術、なんかひどい。これもうわざわざ書かなくても、属性だけ教えてくれればいいように思える。
1ページに1属性だけしか書いていないから、サクサクと読めてしまう。
少しだけ採点の方が先に終わったが、読み終わるまで待ってくれる。
「座学は問題ないようですから、お勉強は実技が中心になります。魔術に興味があるようですが、図書館で試したらダメですよ」
「はい」
午前中の授業はそれで終わり。午後の授業は昼食後迎えにくるそうだ。
午後、再び家庭教師のプリエールがやってくる。そして部屋から連れ出された先は本館近くにある庭の小屋だった。
「これから刺繍の練習をします」
まず魔力で糸を作る。その糸を魔力を含む糸と馴染ませ、魔力操作で動かす。そうすると、針がなくても魔力操作で刺繍ができるようになる。
もしかして、糸操魔術ってミシン。この世界、足踏みミシンくらいはある。なのに、生得魔術がミシン。
転生者なのに、魔力や魔術チートないようだ。
プリエールに見本を見せてもらい、ひたすらにその真似をする。この家庭教師も糸操魔術を使うから、一門の人なようだ。
白銀の髪に反応しないなら、一門内でも外でもシャーリーはどっちでもいい。
「魔力操作は上手ですね。では次は糸に属性をつけます」
自分の魔力と馴染んだ糸に入門魔術を唱えると色が変わる。魔術を唱えるとき、糸に馴染んだ魔力を使うのいいらしい。
最初に試したのは水。うっすら青くなった。次は風で、うっすら緑になる。使った魔力量や魔術で色が変わる。
少しでも色が変われば今はいいらしく、次々と基本属性で試す。基本属性で難しいのは火。失敗すると糸が燃える。
火だけは1人で練習しないように注意を受けたが、問題なくうっすらと赤く染まった。
次は糸につける色を濃くする方法を学ぶ。糸に馴染ませた魔力を増やし、色を濃くする方法と薄く染まった糸に魔力を馴染ませ、重ねがけして色を濃くする方法がある。
馴染ませる魔力を増やす染め方をするのは1属性で染める時によく使い、重ねがけする方は複数の属性で染める時に使う。
慣れると詠唱は必要ないが、今はどの属性を使っているかわかりやすくするために唱えるように言われた。
そうして1つ1つ試し、合格をもらうとお茶休憩になった。
「糸操魔術持ちの魔力は属性に偏りがなく、扱いやすい魔力だと言われています。特化した属性がないので魔術師としては器用貧乏になりやすい傾向があります」
お茶休憩なのに、話は魔力の特性。
休憩とは。
「おそらく派生属性も問題なく使えますよ。授業としてはやりませんが、興味があるなら試してみますか?」
「はい」
返事をすると糸を渡される。
岩も砂も泥も、土と同じうっすら茶色だった。氷と湯と霧も水と同じうっすら青色。重ねがけしても変化も同じでは授業としてはやらないか。
「きっちり基本属性を使いこなせば派生も使えるようになりますよ。では、休憩は終わりにして糸の具現化を練習しましょう」
生得魔術ミシン疑惑で落ち込んでいた前世の厨二心が、具現化で元気になった。
プリエールはさっそく見本を見せてくれる。指先から出た糸が腕ほどの長さになり、ぽとりと落ちる。机の上に糸が落ちていた。
あまりの地味さに元気になった厨二心がガッカリしている。そのまま埋めて、そんな存在はなかった事にしよう。
「では人差し指を出して下さい」
そういうとプリエールは自分からのだした糸をシャーリーに触れさせる。
「どう変化するか感じて下さい」
滑らかに流れていた魔力が固まり、糸が落ちる。
シャーリーは今の魔力の流れを頭で描く。糸を出すときは流れるような魔力がいる。けれど具現化するときは魔力の流れが止まった。
流れていた水が氷になる、そんなイメージを持つ。そのせいか、あっさりと具現化した糸は青く染まっていた。
「具現化はできそうですね。属性を抜く練習をして下し」
魔力の流れだけ再現すると糸がテーブルの上に落ちる。それをプリエールか拾い確認した。
「よくできています。具現化できてよかったですね。これができないと髪の毛を使う事になりますから、そうならなくて安心いたしました」
「髪切っていいなら髪の毛使う」
「シャリーネルル。あなたが髪の毛を切ると泣きすがる人に囲まれる事になりますよ」
この国、女性の髪が長くなくてはいけない決まりはない。白銀の髪以外ならパーティーでもショートカットの女性はいた。
けれど、今の発言で伸ばす以外の選択肢は与えられないのだと知る。
「クリニエール伯爵はがんばっていますが、おそらく髪の毛の手入れ専属のメイドが派遣される事になるでしょう」
「やっ」
「自己主張は大事ですよ。ですが回避できない事もあります。今ならまだ誰にするかは選べるでしょう。最低2人、できれば3人。負担にならないメイドを選んで下さい。そうすれば、過剰な白銀の髪信奉者は避けられますよ」
お勉強が終わったら、伯父とマイモナに相談しよう。
髪の毛の付属品扱いしてくる人は避けたい。帽子をかぶったくらいで過剰はんのうする人も側に置きたくなかった。




