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【05】 遭遇

町へは下男の仁助を連れて行った。

荷物持ち兼、護衛の為だった。

小太郎は自分が皆を守ると言い張ったが、即却下された。

鍛練はしたが、身体の大きさに不慣れなせいか、剣が上手く振れなかった。

皆にけなされ、悔しく思った彼は仁助相手に一生懸命特訓を重ねた。

少しはましになったと彼にお褒められたが、やはり危ないので彼が付き添いに選ばれた。



「小太郎じゃなかった、良鷹、人前で『姉上』って呼ばないでね。」


「なんで?」


「老けて見られるから!」


「じゃあ、なんて呼べばいいの?」


「絢女さんでいいわ。」


「良鷹、お願いね、知り合いが居たら貴方を絢女の従兄弟って事にするから。」


「はい…。」


良鷹と呼んでもらえるのは大人になったような気分がしてうれしかったが、実の母から甥っ子扱いされるのが不服だった。


町では小太郎の袴、着物などを買ったが、ほとんどは姉のものを購入することに費やした。

なぜそんなに物が居るのか疑問だったが、忙しそうだったので聞くのはやめた。

小間物屋は男の子にとってつまらないことこの上なかったので、供の仁助と一緒に外で無駄話をしていた。

しかし、呉服屋では姉に付添い、ああでもないこうでもないと反物選びに口出しした。

呉服屋が一方的に勧めるものは、大概絢女に似会わなかったからだ。

毎日一緒に過ごして見ている小太郎は姉には何色が似合うかよく知っていた。

何振りか反物を購入し、呉服屋を後にした。



その後、一通り買い物を終え、家の者たちへの土産を何にするか考えながら歩いていたところへ、男が大声で怒鳴る声が聞こえてきた。


「通り魔だ!逃げろ!斬られるぞ!」


はっとして叫ぶ声や怒鳴る声が聞こえた方を見ると、血がついた刀を振り回す男が見えた。


「危ないので逃げましょう!若も早く。」


「二人とも、早くしなさい。」



しかし、考えることはみな同じ。

逃げる人が押し寄せ、もみくちゃにされた。

小太郎と母、仁助は無事に人目につかない安全な場所に逃れることができたが、姉がいないことに気がついた。


「絢女は!?」


「姉上!?あっ、あそこに!」


姉の絢女は逃げる者に押され、転んだようで、道にうずくまっていた。

そのすぐ後ろには通り魔の侍が刀を振りかざし、迫ってきていた。


とっさに小太郎は母と下男の制止を振り切り、姉に向って走って行った。



「姉上!大丈夫?」


「小太郎、来たらダメ!わたしは良いから逃げるのよ!」


「ダメだ!一緒に逃げるんだ。」


二人で、逃げようとした矢先、目の前には侍が立っていた。

血のついた刀を持ち、返り血がところどころについた姿で、焦点の合ってない眼で、二人を眺める光景は不気味以外のなにものでもなかった。


「…ちょうど良い。二人とも斬ってやろう。へへへ…。」


小太郎は姉を庇い、腰の刀を抜いて眼の前に構えた。


「斬るなら、姉の前に、俺を斬れ!」


「おもしろい!」


そう言うと狂った通り魔は刀を突き出してきた。

すぐさま小太郎はその太刀を払いのけ、再び構えた。


「小太郎!やめて!逃げるのよ!」


「姉上!いまのうちに逃げるんだ!早く!」


小太郎に怒鳴られた絢女は弟の言うとおり、素早くその場を立ち去った。


「ちっ。逃がしたか。若い女を斬りたかったのになぁ。まぁ、代わりにお前の身体で斬れ味試してやる。」


「…やれるもんならやってみろ!」



それから何度か鍔迫り合いになった。気のふれた侍が使う剣は感情に任せただけの危ない物だったせいか、予想がつかず恐ろしかった。

必死に、斬られないよう侍の太刀を受け止めたが、体力が消耗してきた。


「さぁ、小僧早く斬らせろ。大人しくするんだよ!」


「イヤだ!…あっ。」


小太郎が油断した隙に、通り魔は刀を大きく振りかぶっていた。



間に合わない。

刃で受け止めてもボロくなったこの太刀じゃ、刀が折れる。

もうダメかも…。


覚悟をきめて眼を瞑った瞬間、どさっと妙な音がした。

小太郎の頭に刀は降りてはこなかった。

代りに若い男の声が耳に入ってきた。


「お前が自分の腹で切れ味試すんだな!」


声の主を確認するため眼を開けると、さっきの通り魔は昏倒して動かなくなっていた。

その隣では、若い武士姿の男が刀を鞘に戻していた。


「背後から斬ったからって文句言うなよ。お前の方が武士の道に反してるんだからな!恥さらしもんが。」


「……。」


斬られなかった安堵と、接戦の時の恐怖がどっと塊になって小太郎に押し寄せたせいで、腰が抜けて座り込んだ。

そんな彼に若者は腹が立つことをさらりと言った。


「お前度胸あると思ったが。剣と一緒でヘナチョコか?」


「…うるさい!」


「ほぅ、助けてもらったのにその態度か。」


「助けてなんて言ってない!あんたが勝手にそいつを斬ったんだ!」


「斬ってないさ。峰打ちだ。」


そう言われよく見ると、切り口は見当たらなかった。


「…じゃあ、起きるの?」


「…そうだな。ヤバいな。おい!役人!こいつしょっ引いてくれ。気がふれてるだろうから、ぐるぐる巻きにしとけよ。」


「……。」


「お上に届けておけよ。通り魔があったって。

俺のことは言わんでいい。ん?どうしても要るって?権兵衛にしといてくれ。名無しの権兵衛!」


その若者がテキパキ事後処理をこなすさまを、小太郎は座り込んだまま眺めていた。

するとそこへ、母が飛んできた。


「…申し訳ありません。甥を助けていただき、本当にありがとうございました。どんなにお礼を言って良いものか。」


同じように座り込み、頭を下げてお礼を言っていた。


「いや、構わん。無事ならそれで良い。」


「はい。ありがとうございます。」



通り魔が運ばれて行き、元に戻った町は活気も戻ってきた。

斬られたのは数人いたが、幸い浅傷で命に別条はなかった。

一躍英雄になった若者は、モノ好きな町人にしばらく囲まれていた。


それをほかって母と家に帰ろうとした小太郎を、薬売りの男が呼び止めた。


「ちょっと待ってくださいな。」


「なに?」


「薬、いらんかね?」


「怪我してたっけ?」


「血、出てまっせ。」


彼に指さされた所を見やると、肘からうっすらと出血していた。

どうやら擦ったようだった。


「あ、本当だ。」


「特別や、治療してあげましょ。兄さんよう頑張ったもんな。」


「見てたの?」


「へぃ、もちろん。あの兄さんも強かったけどな。」


手短に傷口を洗い、膏薬を塗る彼の様子を見ていると、そっと小太郎に呟いた。


「ちょっといいこと教えてあげるわ。…耳かしなさい。」


「こう?」


すると西国訛りだった男は、重々しい口調に変わっていた。


「小太郎、あの男について行くのだ、いいな?あいつが誘ってくる、絶対に付いてゆけ。」


「え?あなたは…。」


「ほな、さいなら。」


正体不明な怪しい薬売りは呼び止める間もなく、去ってしまった。

唖然として突っ立っていた小太郎に、さっきの言葉通り、若者が近寄って来た。



「…さて、俺はこれからどうするかな?いったい、誰に会えばいいんだ?」


「……。」


うすら怖くなり、若者が一体何なのか、じっと観察していた。

その様子に若者は気付いた。


「ん?俺が珍しいか?」


「別に。」


「図体はでかいがガキみたいだな。」


「ガキって言うな!」


初対面なのにずけずけと物を言う若者に若干いらだちを感じた。


「で、お前歳は幾つだ?」


「十…じゃなかった十八。」


「俺と一緒か!奇遇だなぁ。茶でも一杯どうだ?」


「なんで?」


言葉通りのことが起こっていることがやはり恐ろしかった。


「良いだろ。暴れてのどが渇いた。行こう!」



その二人の様子に気がついた母が、小銭入れを小太郎に手渡した。


「…行きなさい。これで、お金払うのよ。お礼するの。いいわね?」


「…はい。」



家族と別れ、小太郎は意気揚々と歩きはじめた若者に従い、茶店に入った。


「すみません。茶と、団子二つずつお願いします。」


「はい。ただいま。」


席に二人で座ると、目の前の若者は珍しそうに見渡した。


「こんなとこ初めてだ。」


「へぇ。来たことないんですか?」


「あぁ。」


「珍しいね。あ、お茶どうぞ。お団子も。」


彼の前に置くと、また興味深げに口に団子を運んだ。


「美味い!」


彼の不思議な様子に、小太郎は興味がわき、質問をすることに決めた。


「この国の人じゃないんですか?」


「いいや。生まれも育ちもこの国だ。」


「へぇ。なのに、来たことないんだ…。」


その独り言を聞いたのか、若者は少し不満げに言った。


「出歩きたいんだけどさ、家のもんがうるさくてできないんだ。お前んとこは?」


「別にそこまでひどくはないけど…。最近出歩けなくなりました。」


「イヤだよな。外で遊べないのって。息抜きさせろってんだ。」


「確かに。言えてる。」



しばらくたわいもない話を続けていたが、ここ何日も家から出られず、友達とも遊べなかった小太郎は楽しい時を過ごせた。

また、年上の者と面白おかしく話ができたことに内心少し驚いた。

普段なら先輩は後輩の小太郎たちを見下げ、話など聞いてはくれない。

敬語を使わないと生意気だといじめられる。

しかし、その中でも喜一朗は小太郎の中では別格だった。




帰りがけ、若者は小太郎に驚くべきことを言った。


「お前、気に入った。明日も会えるか?」


「…明日?…場所によるな。」


「じゃあ、明日の朝、城の近くの川で待ち合わせだ。どうだ?」


「うん。それなら大丈夫。」


若者は嬉しそうに小太郎に別れを告げた。


「じゃあ。またな!」


小太郎も彼に笑顔で返事を返し別れた。


「じゃあね!」



新たな知り合いが小太郎にできた。

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