第七話 幼馴染の視線が痛い!貴族令嬢様は元の馬車へお帰り下さい
本日二話目です、お楽しみください。
――――ふふっ、面倒事は帰ってくれなかったよ。
翌日、いよいよカートス村を出立する日が来た。
早朝の村の門前には、護衛の六人と今回【開示の儀】を受ける予定の五人、そして護衛対象を運ぶ為の馬車二台の御者二名が待機しており、僕以外の子供達の両親が見送りに来ていた。
「ベロニカ、気を付けて行ってくるんだよ! 立派な冒険者になっておいで!」
「今まで俺とカルラがきっちり仕込んだんだ。ベロニカならきっちりやれるさ」
今朝になって聞かされたのだが、ベロニカは【開示の儀】を受けたらそのまま冒険者になるつもりらしい。
確かに再びカートス村に帰って来るには日数が掛かるし、貴族の生徒達は僕達を町まで護衛した時点で依頼完了らしく、ジェームズさんとロバートさんも事実上、貴族の四人の護衛なので帰省するにも護衛は全員居なくなる事に。なのでこの村に帰って来るには新たに護衛を探すか自力で帰って来る必要がある。
他の三人もそれは理解しているらしく、一旦町で仕事を探して賃金を貯めて今後の進路を考えるつもりらしい。まさかそんな話になっているとは知らず、実は僕だけ今後の事を考えていなかった。
『まーたカイン変な事考えてるでしょ~? もうここは諦めてカインも冒険者になっちゃいなよ。ほら、平民村人の成り上がり! とか新しい物語が産まれそうじゃない』
「冗談じゃない、なんでわざわざそんな面倒な立場に突き進まなきゃならないんだよ」
僕はシャルに愚痴を吐きながら他の皆を見守る。――――ちょっと、ほんのちょっとだけ、親が見送りに来ている子達が羨ましいと感じるのは、僕も彼等と同様にまだ子供だからなのかな。
♦♢♦♢
さて、色々とセンチメンタルになっていたが僕達は無事に出立した。
けれど、旅は順風満帆とはいかなかった……主に僕が。
「さぁ、カイン師匠賢者であるお兄様を唸らせたという指導を見せて下さいませ!」
「ちょっ、ちょっと!? なんで護衛役であるカタリナさんが僕とベロニカの馬車に乗り込んでいるんですか!?」
「――――ねえ、カタリナさん。ちょーっとカインにくっ付き過ぎじゃないかな? かな?」
師匠!? なんで昨日と呼び方が変わってるんだ? 意味がわからない!
『わー。修羅場だ、修羅場だ~! まあどれだけこの子達がカインに好意を持っていても正妻が私なのは揺るがないけどね!』
シャルも訳分からない事言ってるし、なんで僕がこんな面倒な事に巻き込まれなきゃいけないんだ!?
「ふふん、説明致しましょう! いいですか? まず、私達の馬車は二台。現在私達三人が乗っている小型の一台と、大人数と荷物が乗る用の大型馬車が一台。他の護衛対象の三名はアリーナとサブリナが車内から、そして二台を囲うようにベテランの二人とリーベが護衛していますわ」
「馬車の数が少ないのは少しでも護衛対象を集中させる為。尚且つ貴方方なら本来護衛の必要がない程の戦士だからですわ。万が一、大人数の野党に襲われたりしても事実上守る馬車は一台のみ。それならこの人数なら余裕で守り切れますわ」
話を聞いていたベロニカが僕とカタリナさんの会話に首を突っ込む。
「それならカタリナさんもあっちの馬車に行けばいいじゃないですか。護衛任務なんですから、私達程実力があるわけじゃない他の三人に戦力を集中させる方が合理的だと思いますけど?」
「ええ、確かに最初はそういった布陣も検討されましたわ」
「じゃあ な ん で 今ここにしかもカインの と な り にいるんですかぁ?」
どんどんとベロニカの口調に棘が飛び出し始めている。僕は知っている。ベロニカの不機嫌ゲージがみるみるうちに高まっている事を。
「そんな事決まっていますわ。カイン師匠はどうにも苦手な事から逃げる癖があるご様子。ならばがっちりと抑え込む為に強硬手段に出る必要があったからですわあ」
「そ、そんなの理由になってないじゃない! カインが嫌がってるんだからそっとしてあげるのがマナーってものじゃないの!」
遂に貴族令嬢に遠慮が無くなったベロニカが猫の如く威嚇する。
「どうとでも吠えるがいいですわ。私はお家の為にも自身の為にも少しでも実力をつける必要があるのですわ。その為なら慣れなくても殿方にかじりついてでも指導を受ける覚悟ですわ!」
「ふんだ! カインをそう易々と魅了できると思わない事ね! 何故ならいくら私がモーションを掛けても……掛けても……ふふっ。何同情した目で見てンのよ、笑えよ」
「貴女も苦労なされているのね……。ええ、分かってはいますのよ? こうして恥を忍んで身を寄せているのにカイン殿の表情が全く変化がない事くらい。うぅ……淑女としての魅力が足りないのかしら」
怒鳴り合っていると思ったら急に意気投合して握手をしており、意味がわからない。
僕は二人が余りに五月蠅い為、シャルが僕の耳を塞いでくれていた。ずっとにやにや笑っていたのが気になるけど、シャルがわざわざこんな行動するからには意味があるんだろう。
「改めまして、カイル師匠。どうか私に貴方様の叡智をお分け下さい」
今までで一番真摯に心を込めて頭を下げられた気がする。本来プライドが高い彼女がここまでするのだ。腹の底ではきっと屈辱に耐えているだろう事は察せれる。
おまけに今も彼女の肩に居る小さな女の子もぺこりと頭を下げている。ここまでさせてしまっては流石に元の馬車へ帰れとは言えないか……。
「はあ、わかった。わかりましたよ! 僕としては大した事じゃないけど、サーフェイスさんと同じ事だけ教えてあげます。」
「本当に!? やりましたわ! ベテランのお二方が言った通り、胸を押し付けて上目遣いで頼めばイチコロというのは本当だったのですね!」
「元の馬車へお帰り下さい、コノヤロウ」
「もうすでに言質は取りましたわ! ハリー! ハリーですわぁ!!」
あの二人は後で殴ろう、そうしよう。
「あー、それじゃあ指導? を始めます。まずは魔力を全身に纏います」
僕が見本として自身の周りに見えるように魔力を発露させる。
カタリナさんも同じように魔力を発露させる。
「今纏っている魔力をゆっくりと循環させるように動かします。その流れがスムーズに流れるようになれば、徐々に、徐々にその速度を上げていきます」
意図的に見せた魔力小さな塊をグルグルと身体を回るように動かす。
カタリナさんは何とか真似をしようとするが、やはり慣れていないのだろう、中々上手く動かす事ができないようだ。
「ぐぬぬぬ、魔力の操作がこれほど難しいとはっ!」
「慣れない間は仕方がないよ、これが上手くできるようになれば魔法の発動が劇的に早くなるはずですよ」
我が意を得たり! と悟ったカタリナは黙って静かに魔力操作の特訓を始めた。
急にベロニカが静かだと気付き視線を移すと、じっとこちらを睨んでいた。幼馴染の視線が痛い!
「あの、どうしたのさベロニカ。そんな親の仇を見つけたような顔をして」
「ずるい! カタリナさんにそんな優しく教えるだなんて!」
この娘は何を言っているのだろうか? いつも猪武者の如く突っ込んで来ては模擬戦となり、時にはソドルスさんと二人がかりで挑んできた事もあった。
懇切丁寧になんて状況は一度も出来なかったのは彼女自身に原因がある。
「あー、じゃあこの訓練は身体強化にも応用が出来るからベロニカも一緒にやってみようか」
「っ! うん! よろしくカイン師匠!」
やれやれ、一瞬で機嫌が直るなんて現金な生徒だこと。
こうして二週間の旅の間、魔力操作の訓練という日課が加えられた瞬間だった。
旅の休憩時に僕達がやっていた事を知った他の皆も暇な時は魔力操作という名の瞑想をするようになったのは言うまでもない。
ついでにジェームズとロバートが一度空を舞った事も明記しておく。
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