第四話 不死者軍団はお還り下さい――土へ
続きです。二年の年代ジャンプです。
魔王襲撃から早くも二年が経過した。
あの後結局僕は勇者様達に押し切られ、僕が気づく限りの指導をする羽目になった。
そして、勇者様一行は現状の成長に満足したのか、数日後に村を出る事に決めたらしい。
二年も共に過ごせば村人達とも打ち解け、長年住んでいるかのように馴染んている。
その上最も変化があった人物が一人……。
「はあああっ!」
「せえぃっ!」
ガッと木剣がぶつかり合う音が響く。ちなみに、場所は相変わらず僕の家の裏だったりする。
「見事だベロニカ! 儂からこれ以上教える事はねえ!後は自身で剣を昇華していくが良い」
「はい! 今まで有難うございました!」
幼馴染のベロニカである。二年が経ち14歳となった彼女はより女性らしい体つきになり、美しさに磨きが掛かっていると村の男達から評判がいい。
そんな彼女が実は魔王が現れた時に影から覗いていたと知った時は大変驚いた。
その後、彼女は何を思ったのか剣聖であるソドルスさんに弟子入りした。
どういった理由があったかは聞かされていないが、マルタさんが黒い笑みを零していて、他の三人がニヤニヤと笑っていたのが印象的だった。
「これで儂としても一つ肩の荷が降りたってもんだ。勿論カインから学んだ儂自身これから己の道を極めていくがな」
「ふふふ、いつか私が追い付いて師匠を超えてみせますよ!」
何を~!と師弟でじゃれあっている。二人の試合を見届けたマルタさんとサーフェイスさんがぼーっと眺めていた僕に近づいてくる。
「カイン君、本当に私達に着いてくる気はないですか?嫌ですけど女の子にモテモテですよ」
「カイン殿が仲間にいてくれたらとても安心できるのだがな」
彼等はこの二年、ずっとこうして僕を仲間にしようと勧誘してくる。
けれど、僕の答えは決まっている。
「何度もいいますけど、僕は英雄なんて興味がないのでお断りです」
『この人達もしつこいですねえ。カインが力を振るうのは自分に火の粉がかかるときだけなのに』
まったくだ。心の中で溜息をついていると遠くで話を聞いていたベロニカが僕達の間に入ってくる。
「ダメですよ~! カインは後一年して15歳の成人になったら一緒に冒険者になるんです~」
あっかんべーっとマルタさんに睨みつけているベロニカ。
気のせいかニコニコと笑っている(目が笑っていない!?)マルタさんとベロニカの間にバチバチと何かがぶつかり合っている気がする。
暫くこうして時間を潰していると、リーダーであり勇者であるマルスさんが現れた。
「村長に挨拶は済ませて来た。俺達は二日後に村を出るぞ」
「これほどまで長く一か所に滞在したのは初めてでしたし寂しくなりますね」
「そうだな、だが今生の別れという訳でもあるまい」
「その通りですよ、マルタ殿。我々はこれからも生き続けなければなりません」
少し離れた所から勇者一行を眺める僕とベロニカ。
もうすぐ本当にお別れなんだと実感が沸いてきた。
――――二日後
村人達総出で昨晩は別れの宴を開き、盛大に祝った。日が昇る前の早朝に出立する為、代表として村長夫婦と直接お世話になったベロニカ親子、ついでに僕が出立を見送る事になった。
「村長さん、二年もの間世話になったな」
「いえいえ、勇者様方と共に過ごしたこの二年間の思い出は末代まで語られましょう」
「皆さまもお元気で」
「聖女様もお身体にお気をつけて」
サーフェイスとソドルスは馬車の準備をしているらしく
僕とベロニカの二人はもう別れの挨拶を済ませているので黙って大人同士のやり取りを見守っているだけだ。
これでお別れか、そう思った時良くない魔力を感知した。
『カイン、この魔力反応は闇の者だよ』
「不死者って奴か。なんて間が悪いんだろうな」
僕の雰囲気が変わった事を察したマルスさん達が近づいてくる。
「カイン、どうした?何かを感じ取ったのか?」
「ええ、まだ距離はありますけど結構な数の不死者が近づいてきています」
「妙ですね。不死者とは遺体となった者が瘴気に侵されて近づく者に襲い掛かる魔物のはず」
「一直線に群れとなって進んでくるなんて、普通はあり得ないはずなんですけれど」
むう、と唸るマルタ。
「距離があるならこちらから出向いて迎撃した方がいいな」
「そうですね、不死者が相手なら浄化魔法や火炎魔法で何とかなるでしょうし」
緊急事態だと理解した村長夫婦とベロニカ夫婦は眠っている村人達を起こす為に行動を始める。
「勇者様方、申し訳ありませんがどうか我々をお救い下さい。念の為我々は避難の準備をしておきます」
「わかった、こちらは任せてくれ。世話になった村の住人達を危険に晒したくはない」
話が纏まり、大人達は一斉に行動を開始する。
「……大変な事になりましたね。折角の出立の日だったのに」
「いや、むしろここを去った後に不死者の被害にあったと聞かされる方が余程堪える」
「ねえねえ、そんな事より勿論私も師匠様達の戦闘に混じってもいいのよね!」
眼をギラギラを光らせてマルスとカインに迫っていくベロニカ。
女の子を死体だらけの魔物の下へ連れて行くのも、と思案するマルス。
「いいじゃねーか、マルス。もうベロニカはそこいらの冒険者よりずっと強い。それに冒険者になるんだったらこういった経験も積んでおいた方が将来の為になンだろ」
「私達が魔法でフォローすればそう危険もないでしょうし、いいのではないですか? 魔王との事もあります。私達が向かった後に着いてこられるより連れて行く方が安全でしょう」
様子を伺っていた馬車組二人からフォローの声が入る。
「はぁ、わかった。ベロニカも迎撃に参加してくれ。くれぐれも無茶はするんじゃないぞ? もししたら俺達が去った後にカインから厳しいお灸を据えて貰うからな」
「うげっ、あれはもうやだー! わかりましたよーぅ」
ぷーと頬を膨らませるベロニカ。そういった仕草はまだまだ子供らしさが見える。
こうして勇者一行+2のパーティは魔力感知を頼りに元凶の下へと向かう。
一時間程馬車で移動し、もうじき魔物の群れとぶつかるであろう場所に陣取る。
暫くして、じゅるりじゅるりと何かが這うような音が聞こえて来た。
「うげっ、あれが不死者?気持ち悪いし、まだ距離があるのに腐敗臭がきつい」
「だから冒険者なんかは臭いや負の瘴気を消せる浄化魔法が使える僧侶を仲間に加えたり、聖水で身を清めて身を護るんだ。」
各々が武器を構えるとマルタさんが浄化魔法を僕達に掛けてくれる。
『聖なる光よ、我が願いに応えて集え』
『我が身に宿りて、悪しき者から身を護る盾となれ』
『聖なる盾』
『我は神に願いを捧げる』
『我は神の代行者、悪しき者共を屠る剣也』
『我が矛に宿りて眠れぬ魂に鎮魂ヲ』
『破邪の剣』
マルタさんが詠唱を済ませると、僕達は光の膜包まれて武器にも光の膜が宿っている。
「これで不死者対策は大丈夫です」
「よし、それじゃあ俺、ソドルスが前衛、その後をカイン、ベロニカ、後方支援をマルタとサーフェイスに頼む」
「「「「「「了解」」」」」」
前衛四人が不死者の動きを引き留めていると、サーフェイスさんとマルタさんの詠唱が聞こえてくる。
『火招くは煉獄の炎』
『降り注ぐ先は焦土と化す』
『彼の者に永遠の苦しみを』
『出でよ、地獄炎』
『我が求むは神の雷』
『救われぬ魂に救いの手を』
『嘆き、苦しむ魂を神の下へ誘わん』
『堕ちよ! 神々の雷』
辺り一帯に巨大な魔法陣が現れて大爆発が起き、雷が降り注いだ。
ベロニカを抱えて咄嗟に引いたから避けれたけど乱戦時にあんな大魔法使うなんて余程普段鬱憤が溜まっていたんだな。
「びっくりしたー。あのお二人ってあんなに凄い魔法が使えたのね。回復魔法が使えるお姉さんとちょっとキザなお兄さんなだけだと思ってた」
そう、脳筋気味な幼馴染を含めて日頃大魔法なんて放つ機会がない二人は、村人からは見るからに強者の風格を放っている勇者や剣聖と比べて見劣りしていたのだった。
何度か二人からどうやったら威厳を見せれるだろうか?と相談された事もあった。
「あーっ、すっきりした。やっぱり偶にはドカンと魔法を放たないと駄目ね」
「そうですね。この二年、中々こういった機会がありませんでしたしね」
憑き物が落ちたかのように爽快とした笑顔を浮かべる二人に僕とベロニカの二人はドン引きせざるを得なかった。今度村に寄った時には優しく迎えるように伝えておこう。
大半の不死者が大魔法で吹き飛び、僕達は事後処理をするだけに終始した。
マルスとソドルスの二人の顔色が若干悪い所から相当危うい目にあったんだなと察した。
「しかし、不死者の駆除は済んだとはいえ何で方向性を持っていたのかは謎のままか」
「魔王が何かしら動きを見せたって事でしょうか?」
「こればっかりはわかんねえな。わかりやすく親玉でも居ればよかったんだが」
「そうそう上手い話はありませんよ」
不死者の駆除が完了し、辺りを警戒したが成果はなし。
この場でじっとしていても仕方がないので村に戻る事にした。村に戻ると村長が出迎えてくれて無事に駆除が完了したことを伝える。
「有難うございました勇者様。このご恩は決して忘れません」
「いや、気にしないでくれ。それじゃあ改めて、世話になったな。俺達はこのまま旅を続ける」
マルスさんが簡潔に挨拶を済ませて馬車に乗り込む。
「ベロニカさん、カイン君は一時的に預けておきます。」
「ご心配には及びませんわマルタ様。カインはきっちり私が面倒を見ますので」
女性二人がにこにこと微笑み合いながら握手をしている。
女性同士の友情も素晴らしいね。マルタさんも同じように馬車へと乗り込み
僕達は馬車が見えなくなるまで手を振った。
浄化作戦は大変だったけど、死者が還るは土の中ってね。
やっとこれで僕の日常が帰ってくる。
――――はず、だったんだけどなぁ。
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