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第三十九話 伝説の魔獣 VS 規格外の村人

久しぶりのカインの戦闘回です。ついでに国のトップの様子。

 カインは自身が持つ剣を抜き、一気に駆け出し距離を詰め剣を斬りつける。


 「おぉおおおおお!! せやっ!」


 ガィイイイン!!


 「くっ! 堅いっ」


 動きが止まったカイン目掛けて、お返しだと言わんばかりに鋭い爪が振り下ろされる。


 「ふんっ!」


 カインは咄嗟に攻撃を受け流し、更に斬りつけていく。しかし、【竜】の鱗には傷一つ付かず時間だけが過ぎていく。


 カァン! キィン! ズガァン!


 激しい剣戟の音と、周囲諸共吹き飛ばす轟音が響き渡る。

 【竜】からの猛攻を受け流し、一気に距離が開く。


 「はぁ、はぁ、はぁ~~……まいったな。全然ダメージを与えれている気がしない」


 『相手はピンピンしてるね。どうする?』


 「ま、やれるだけやってみるさ!」


 ぐっと呼吸を整え、再び周囲に激しい戦闘音が響き渡る。しかし、時間が経つに連れ【竜】からの攻撃に変化が起きる。


 これまでの戦いで見せた【竜】からの攻撃は、大振りな爪を用いた攻撃か、鋭い牙による噛みつき、巨大な尻尾を鞭の様に振るう横薙ぎといった豪快で単調な動きばかりだった。

 それ故にカインは次に繰り出される攻撃を簡単に予測する事ができ、ここまで無傷でやり過ごす事が出来ていた。


 しかし、【竜】はカインを【他愛もない虫けら】から【敵】として認識を変えたのか、翼で荒風を起こし動きを牽制したり、爪での攻撃にフェイントが混じるようになり出した。


 元々の体躯の差が比較にならない両者の間には、絶対に埋まる事がないリーチの差があった。

 カインは急に変化した【竜】の動きに戸惑い、一瞬の隙が生まれた。


 「くっ、このっ! まずっ!」


 カインは必死に【竜】からの攻撃を捌いていくが、一瞬の隙を突かれ視界が暗転する瞬間に見たのは物凄い速さで迫って来る【竜】の尻尾であった。


 ドゴン ドゴン ドゴォォン!!


 一瞬の隙を突かれ巨大な尻尾でカウンターを食らい、カインは聳え立つ大岩を幾つも突き抜け、最期には巨大な岩壁に叩きつけられてようやく止まる。

 だがそれだけでは収まらず、大衝撃に耐えきれなかった岩肌に亀裂が入り、カインの頭上へと雪崩のように崩れ落ちカインは呑み込まれる。


 【竜】は【敵】を廃した事で勝鬨とも思える咆哮を上げる。そして、自身に歯向かう存在から意識を離し、天災は再びその猛威を周囲に振るい出す。


 崩落した岩雪崩が収まり、一抹の静寂が生まれる。


 ゴ……ゴゴ……ゴゴゴ……ドゴォオオオン


 一つ一つが大人の背丈以上ある大岩が宙を舞い吹き飛ばされる。


 「いてててて……油断した」


 『んも~、カインのおっちょこちょい! 伝説にまでなる【竜】が単純な動きばかりのはずないでしょ!』


 シャルロットはカインを心配しつつも不用心な所を咎める。


 「いや、警戒はしていたんだよ? けど、余りに急な変化に動きが追い付かなくてさ」


 『じゃあどうするのよ? 精霊の力を借りるの?』


 「いや、ここは折角覚えた技術を試してみるよ」


 この戦いの狙いは【竜】を殺す事ではない。傲慢な考えではあるが、カインは【竜】と対話がしてみたいと考えていた。その為には精神を屈服させ、冷静にさせる必要がある。

 そういう意味では新しく学んだ技術は効果的かもしれないと考え、シャルロットに自分の考えを告げる。


 カインは全身にこれまで以上に魔力を行き渡らせ、全身に力を篭める。


 「行くぞ、第二ラウンドだ!」


 観客のいない死闘の第二幕があがる。


 カインが【竜】との死闘を繰り広げている頃、【ラグーン山脈】から轟く【竜】の咆哮と岩山が崩れる轟音は空気をビリビリと震えさせ、遠く離れた王都ギルフォニアにまで轟いていた。


♦♢♦♢


 「陛下!」


 恐怖の感情に染まった感情を、王太子としての誇りで必死に抑えつつ、国王の下へと真っ先に駆けつけたのはカフェラ第一王子だった。


 その国王は自室のテラスへ出ており、カフェラは自身の父であり、最高指導者である国王に報告する。


 「陛下、【ラグーン山脈】に駐在している者から早馬で 『急変在り』 との報告を受けております。如何致しますか!?」


 「無駄だ」


 「へっ?」

 

 カフェラは国王が発した言葉の意味が分からず、呆けた言葉が漏れた。実は現在【アインザート王国】と【アルプオス公国】の王達は、天災である【竜】の存在が国を揺るがす大混乱を呼ぶ事を懸念し、情報の洗い出しが済んだ時点で事態の収束が済むまでの間緘口令(かんこうれい)を敷き、その上で魔物の数が増えている為というデマの情報を流し、人の行き来を禁止していた。


 国王ジラートと宰相ウィスドム、更に二大公爵家の当主の四人のみが真実の情報を共有していた。


 真実を知らないカフェラは、何らかの事態が原因で魔物が大繁殖し、魔物氾濫(スタンピード)を懸念して国王であるジラートに事態を収束する手段を乞いに来たのだ。

 しかし、他国から名君と呼ばれ、自身も尊敬して止まない国王から出た言葉は諦めにも似た、余りにも頼りない言葉だった。


 「どういう……事ですか……」


 カフェラは必死に自身の感情が暴発せぬよう制御し、国王に真意を問うと予想もしていなかった言葉が飛び出す。


 「カフェラよ、お前は魔物氾濫(スタンピード)を懸念してンだろ? だったらその予想は大外れだから無駄な事は考えるな。心配しなくても手は打ってある」


 公務の厳格な国王の時とは違う、父として心配性の息子を諭そうとする表情でジラートは声をかけた。


 「今から言う事は他言無用だ。周囲に知れれば大混乱間違いなしだからな。この事実はこの国では、俺とウィスドム、後はジェラルドとアーネストの四人しか知らねえ極秘情報だ。ついでに事に当たっている当人だな」


 カフェラはごくりと唾を飲み込む。この国の中でも本当の意味での最高幹部のみしか知り得ない極秘情報。一体何が飛び出すんだと警戒しないほどカフェラは愚鈍ではない。


 「今現在、【ラグーン山脈】には伝説上に度々その存在が確認されている魔獣【竜】。いわゆるドラゴンって化け物が住み着いている。そして今ある人物にその化け物の撃退、又は討伐を依頼してある。お前も聞いただろう? あの天にも轟きかねない咆哮と轟音を」


 カフェラはジラートの言葉を整理出来ず固まってしまう。ドラゴン? 名君と呼ばれた父は日頃の疲れで頭がおかしくなったのだろうか? だが、もしそうなら叔父上達が止めている筈。では父の言葉は真実? とぐるぐると思考が回る。


 「何を言ってるんだと思うかも知れねえが、事実だ。んで、俺が無駄と言った意味が分かるだろう?」


 魔物氾濫(スタンピード)であれば、大急ぎで王都の冒険者ギルドと協力し、屈強な騎士団と共に事の事態に当たればなんとかなる可能性が高い。だが、天災に立ち向かう事などできはしない。

 世界に数名存在し、所属している各国の最高戦力とも言われるS級冒険者がこの場に居ても対抗できるかも分からない。天災とはそれほどまでに埒外の存在なのだ。


 「ゆ、勇者様なら!」


 人類の希望、女神と聖剣に選ばれし勇者ならば天災に対抗できると考え、カフェラはその存在を口にする。


 「勇者なら確かに対抗できるかもしれねえ。御伽噺の中では竜殺し(ドラゴンスレイヤー)なんて言葉が出てくるぐらいだからな。だが、奴等がこの国に戻るのは半年も先だ。今から救援の依頼を出した処で奴等がこの国に辿り着く頃には焼け野原だ」


 勇者一行は現在、魔王を打ち倒すべく世界各国を周り、魔王軍に狙われた国々の救援に向かい経験を積んでいる真っ最中であり、次に帰国出来るのは半年後と記載された手紙がつい先日届いていたのだった。

 勇者とて力が他者より優れているが一人の人間である。出来る事と出来ない事があるなど、王族でなくても分かる事である。


 「まあ、そう焦るな。俺が切ったジョーカーは最強だ。もし、この手札で敗れるようならば俺も、この国も運がなかったと諦めるしかねえ」


 今もテラスに出ている国王は、今も轟く大咆哮を耳にしても震える事なく堂々としている。


 「一体その人物は何者なのですか? 失礼ですが、陛下がそれほどまでに信を寄せる人物に心当たりがません」


 「そりゃあそうだろうな。お前はそいつに会った事がねえからな。切り札ってのは切る瞬間まで晒す事はなく、他者に知られずに回収するもんだ」


 ジラートはガッハッハッ! と豪快に笑い執務に戻りだす。

 カフェラは国王の後を追いかけ、子供のように教えてくれと縋っていた。


 他者から見れば、国の存亡の危機をもたらす存在がすぐ近くに居るとはとても見えなかっただろう。

読んで頂きありがとうございます。


面白かった、続きが気になるかも、と思って頂ければ

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次回もカインVS竜の戦闘が続きます。 カインの新たな手段とは!?


次回もお楽しみに~。

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