第十九話 小鬼の巣掃討作戦!肥満貴族との交渉
続きです。お楽しみ下さい
現在、ギルド内は困惑の空気で包まれていた。突然ギルドに現れた貴族の男性ヒーマンが自身の立ち位置にようやく気付き、大声でギルドマスターに懇願していたからだ。
「ギルドマスターよ、貴様の権限でどうにかならぬのか!? 俺の栄光ある初陣が失敗に終われば我がディトニス家に泥をかける事になる! そうなれば俺は落ちこぼれの烙印を押され、今後の貴族人生が台無しになってしまうのだぞ!」
「そうは言われましてもねえ、貴族様の護衛にはそれ相応の経験を積んだ者を傍につける決まりですが、先程も申し上げたように依頼を受けるかどうかは冒険者に委ねられ、その判断の多くは金銭で決まります。ですが貴方様にはそれがない。ならばこれ以上申し上げる事はお分かりでしょう」
「うぅぅ……なんで俺様がこんな目に合わなければならんのだ……。だが、俺が単身挑むには――」
うずくまりながらブツブツと何かを呟いているヒーマンは多くの冒険者からみても不気味であった。
「あのー、ゴンザレスさん。仮に低級の冒険者が貴族の護衛に選ばれたらどうなるんですか?」
「ん? そりゃー、基本ギルドが冒険者の荷が勝ちすぎていると判断して受理されねえよ」
ふむ、そうかそうか。基本はね。
「ところで貴族様。貴方が対価として提示出来るものは金貨10枚以外で何かありませんか?」
「へっ? た、対価だと? ――すぐにとは言えぬが、我が家に戻れば相応の報酬は父上に頼んで出して貰えるやもしれぬ。だが、冒険者はこの場での実利を求めるのだろう、今の俺様には何もない。腕に嵌めている指輪を売ればどうにかなるやもしれぬが、これは俺の魔法媒体、手放す訳にはいかぬ」
ふむふむ、なるほどねゴテゴテと何をつけているのかと思っていたけど、これがこの人にとっての武器なんだな。確か魔道具って奴か。
「ゴンザレスさん、彼の護衛を僕達のパーティで引き受けると言えばギルドは受理してくれますか?」
「何っ!?」
むぅ~と目を瞑り唸るゴンザレスさん。恐らくこれまでの僕達の経歴や動きを思い出し、計算しているんだろう。こんな時に新人講習を受けてよかった、講習の中には護衛依頼の練習も含まれていたからね。それに元A級のゴンザレスさんに食らいついたベロニカ、直接指導を受けたフィリスとリリィ。小鬼相手ならばどうにかなるだろう。
「お前達の実力は分かっているつもりだ。俺が直々に教官役を引き受けたからな。その上で聞くぞ? お前はたかだが金貨10枚の為に貴族様という重荷を背負い、己と仲間を危険に晒し今回の作戦に参加するというのか?」
そこには『気前のいい先輩冒険者ゴンザレス』ではなく、『歴戦の冒険者ギルドマスター、ゴンザレス』が是非を問いただしてきた。
「ええ、これは仲間達の総意です。彼が承認し、ギルドが受理してくれるのであれば僕は今回の依頼をうけようと思います」
「……意思は固いようだな。貴族様、あんたはどうやら運が良いらしい。この子達は並の新人なら一日で逃げ出す新人講習を俺自ら教官役を引き受け、一週間みっちり耐え抜いた期待のホープ達だ。あんたが交渉のテーブルに着きたいと言うのなら例外として護衛依頼を受理してやろう」
多くの冒険者達が驚きの目でこちらを見ている。中には「まじかよ……」とか「あいつら根性あるな」……など聞こえてくる。
「ほ、本当に俺に護衛をつけてくれるのか?」
「さあな、それはお前さんが彼等を納得させれるかどうかだろ」
そう、まだ僕はこの人の口から報酬の話や依頼の事を口にされていない。だから僕から口出しはしない。膝を床につけ座り込んでいた体制からよろよろと立ち上がり僕の目を見てくる。本気で泣き腫らしたのか顔は大変な事になっている。
「冒険者の少年、名を教えてくれないか。俺はヒーマン・ディトニス。ディトニス伯爵家の次男だ」
「僕はカインです。」
「そうか、では冒険者カイン。この件が済み本家へと帰還した後父上へと此度の事を報告し、貴殿に相応の対価を支払うと約束する。金貨10枚は申し訳ないが前金という形になるが、どうか俺の護衛依頼を引き受けてくれないだろうか」
「いいでしょう、僕達が望む対価はいつかこの町を出て貴方の本家がある地へ足を運んだ時に恩を返してくれれば構いません」
「……俺はこんな気のいい少年にあのような態度を取っていたのだな。――そこの獣人、先程は怖がらせてすまなかった、良い主に拾われたな」
突然話題を振られたリリィはピンッ!と耳と尻尾が跳ねる。
「……はい、自慢のご主人様です」
そう言ってリリィはにこりと微笑み、ヒーマンは憑き物が落ちたかのように表情が柔らかくなった気がする。僕はそっと二人の元を離れ、様子を伺っていたゴンザレスさんの所へ向かう。
「マスター、話はまとまりましたので依頼の受理をお願いします」
「仕方があるまい、今回は本当に例外だからな。だが、俺としても貴族様を放置しては外聞が悪かったjから正直助かったぜ」
「一緒に緊急依頼の方も受理しておきますね、カインさん」
しれっと会話に混じって来るオリヴィエさん。中々に抜け目がないな。正直完全に忘れていた。同じ依頼対象に向かうんだから参加はしておくべきだね。
「ありがとうございます。」
受理された控えを懐に入れ、今後の話をまとめるべく元の場所へと戻る。
状況が落ち着いた為、徐々にギルド内の雰囲気も戻って次第に人の話し声も戻って来た。
「さて、それじゃあこれからの事を話したいんだけど、ヒーマン様、一つよろしいですか?」
「むっ、なんだカイン。今回俺は貴様らに守られる立場だ、極力貴様等の指示に従うつもりだが」
本当、最初からこれぐらい殊勝ならそう話はこずれなかっただろうに。
「それは助かりますが、貴方様と一緒にいた男性はクビにしたほうがいいですよ? 何故ならご当主様から預かったお金の使用用途を本来知らないはずがありません。仮に貴方様が今回の冒険者に大金を支払う必要を知らなかったとしても、いつでも貴方を諫める機会はあったはずです。にも拘らず貴方様を止める処か、自身も豪遊していた。はっきり言って執事失格でしょう」
僕の言葉に思わず呆然とするヒーマン、しかし自身でも心当たりがあるのか執事の男性を睨みつける。
「……確かにカインの言う通りだ。恥ずかしい話だが、冒険者にここまで大金を支払うものだとは知らなかった。サムよ、貴様は執事見習いの卒業試験として此度の件に任命され、領主たる父上に多額の金を託されていたな。俺はてっきり旅費だとばかり思っていたが何故俺を諫めなかった? 貴様も寝食を共にしていたはずだが」
執事見習いだという男性は完全に顔が真っ青になっている。
「……ヒーマン様のディトニス伯爵家の御威光があれば、いつも貴族様方が見下していた冒険者達は大人しく従うと思っていたのです。しかし、ここまで冒険者達が実利に聡いとは思いませんでした」
「だが、その結果俺は多くの平民の前で恥を晒し、少なからずとも本家に泥をかけた事に変わりはない。この事は父上にも報告する故身の振り方を考えておけ」
話はここまでだと言わんばかりにピシャリと断じる。
この二人は色々と自業自得なので僕達が口出しする事ではないだろう。サムと言われた男は今後どうなるか想像し、ガタガタ震えている。
「こちらの話でゴタゴタしてすまんな。それで、巣の掃討はどう挑む?」
「はい、僕達は元々今回の件に参加するつもりだったので準備は終えています。ヒーマン様は如何ですか?」
「俺様も早くに事を済ませたかったからな、荷物持ちはサムに任せ、俺が魔法で遊撃するつもりだった」
ふむ、ならヒーマンを中心に前衛にベロニカとフィリス、中衛にヒーマンとサム、殿に俺とリリィで挑むようにするか。
ここからはベロニカ達も会話に参加し始め、最終的に僕が上げた案が採用された。
全員が用意してあった背荷物を背負いノース街道を歩き、【ネアルの森】へと向かう。
道中連携の確認がてら低級の魔物と戦ったりしたが、ヒーマンの魔法使いとしての実力はカタリナさん達と比べてかなり見劣りするようだ。
ベロニカが思わず似たような事を呟いてしまい、ヒーマンは落ち込んでいた。どうやらカタリナさん達は貴族達が通う王立学院のトップカーストなんだとか。そして彼自身は下から数えた方が早い下級カーストの位置づけらしい。そこに家柄はあまり関係がなく、本人の実力次第なんだとか。
その卑屈っぷりに苛立ったベロニカが姉御肌を発揮し始め、魔力操作指導をし始めた。ヒーマンは今まで感覚で魔法を使っていたらしく、魔力操作? ナニソレ? といった感じだった。
ベロニカが彼の前で実演し、フィリス、リリィでも出来ている事を知り、それらがもたらす効果を信じられないと喚いていた。だが、この技術を習得し、王都でも憧れの存在である賢者サーフェイスさんや聖女マルタさん達も大幅に実力を上げたと知り、貴族が最も大事にしている見栄を何処かにかなぐり捨てて教えを乞うてきた。
まずは集中することが大事だ! という事でヒーマンの荷物をサムに預け、休憩中も移動中も魔力操作を意識するようになっていた。何かしらコツを掴んだらしく、これか! これなのか!? と興奮気味に鍛錬を積んでいた。
二人分の荷物を背負う事になったサムは顔が真っ赤になっていた。ちらちらとこちらに救援の視線を送って来たが僕達は全員がスルーした。
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