憂鬱の始まり
続きです。お楽しみください。
目の前には木剣を構えているソドルス様。
少し離れた所にはサーフェイス様とマルタ様がじっと観察している。
本当にどうしてこんな事になったんだろう?
僕はただベロニカに連行(半強制)されて勇者一行を眺めているだけのはずだったのに。
「まずは改めて名乗ろうか。儂は剣聖ソドルス。未だ剣の道を諦めきれねえ60のジジイだ」
「村人カイン、12歳です」
カインとソドルスが名乗りを終えると、それが合図だったかのようにソドルスが駆け出す。
「ゆくぞ!!」
来ないでくださいとは言えないのかな。
ほらー、凄いスピードでこっちに踏み込んでくるし、村の大人とは違うんだなぁ
「ふんっ!」
「おっと」
上段からの高速の振り下ろし、これ手加減してるんだよね。やっぱり剣聖って凄いんだな。
たまたま見え見えな剣筋だから簡単に避けれたけど、本気を出されたら一瞬なんだろうな。
そこからはソドルスの一方的な攻撃が続く。
時には避け、時には受け止め、そして受け流す。
本来ならばありえない光景が広がっていた。実の所、最初の一撃以降ソドルスは手加減をしていない。
しかし、全力の剣戟を悉く捌ききっているカイン。その光景を目の当たりにした賢者と聖女は戦慄していた。
「サーフェイスさん、ソドルスさんのあれって全然手加減されてませんよね」
「ええ、身体強化こそ使ってはいませんが剣術という意味でソドルス殿は全力です。しかし何時みても60のご老体とは思えませんね」
ふう、と一息ソドルスは呼吸を整えるとにやりと微笑みながらカインに問いただした。
「凄えな坊主、いや、カイン! 年甲斐もなく熱くなってきやがったぜ!」
「ありがとうございます。剣聖様にそこまで言って貰えると照れますね」
「しかし、だ。まだお前さん実力を隠してるだろ。その証拠に儂の攻撃を捌ききって息切れすらしていねえ。見せてくれよお前の本気をよ!」
えっ、と様子を見ていた二人が唖然とする。剣聖の攻撃を受け切って息切れすらしていない。
これはちょっと実力があるとかそんなレベルではない。王国騎士団で言えば騎士団長クラスである。
「これは模擬戦でしょう?それにソドルス様も全然本気出していないのに僕なんて勝てっこないですよ」
カインは自己評価が低い。両親を失った頃から自己鍛錬を続けていた。全ては自分が強ければ家族を失わなかったという自己嫌悪から来るものだった。畑仕事もその一環であり、故に欠かさず続けているのだ。だが、ここで話が通じないのが戦闘好きという生き物である。
「ほう、ならば儂が本気を出せばお前さんも真価を見せる、という事だな?」
「えっ、なんでそうなるんです?」
マルタとサーフェイスはまずいと判断した。
普段のソドルスは温厚で豪快な人物なのだが、明らかに熱くなり過ぎて模擬戦という事を忘れている。子供相手にこれ程までに全力を出すとは考えてなかった二人は咄嗟に静止するのが遅れる。
「ぬえい! チェストォォォ!!」
「ほっ、と」
「セイッ! ソラッ! テリャア!!」
「ちょっ! あぶなっ! よっ!」
先程と違い、ソドルスは魔力を全身に廻し身体強化のスキルを使い、全身が淡く光っている。
その上でカインに斬りかかっている。カインは先程より余裕は少ないが一太刀も浴びず捌ききっている。
「どうしたどうした! 見せてくれよお前の本気をよぉ!!」
ソドルスの一撃を受け止め、後方に吹き飛ばされるカインは難なく地面に着地する。
そして観念したのか、カインも身体強化を使用する。
「真剣に向かって来る人にこれ以上手を抜くのは失礼ですね、行きます!」
今まで防御一辺倒だったカインがここにきて初めて攻勢に出た。
カインの連撃を受け止めたソドルスは驚愕した。
「カイン!まさか俺の剣を――――っ!」
「見せるのはこれからです、よっ!」
攻守が逆転したカインはじわじわとソドルスを追い詰めていく。
そのままでは終われないとソドルスは意地を見せる。
「はぁ、はぁ、驚いた。心底驚いたぜカイン」
「それだけ貴方の剣が凄いという事です」
「へっ! ここまでされちゃあ嫌味に聞こえるぜ。まさか俺自身の剣を模倣され、完成形を見せられるなんてな。だが、感謝する。俺はまだまだ強くなれそうだぜ! ……もう俺の体力は殆ど残っていねえ。最後の一撃、受けてくれるかい?」
「ええ、受けて立ちます」
ソドルスとカインは合わせ鏡のように木剣を中段へと構える。
「「ハァーーーー!!」」
先に切っ先が触れていたのかカインの木剣だった。
「……見事!」
ソドルスはカインの一撃を称え、気を失いうつ伏せに倒れる。
「それまで! 勝者カイン!」
ふぅ、と息を吐くカイン。すぐさまマルタが駆け寄ってきて治療魔法をかけてくれる。
「まさかソドルスさんを倒してしまうなんて、カイン君は将来英雄になれるかも!」
「確かに。いつかは王都に来るといい。騎士団への推薦状を出させてもらうよ」
何も出来ない弱い自分が嫌いで腕を磨いてきたカインにとって、誰かを助ける高潔と英雄の象徴とも言える騎士団に何故自分が勧められるのか理解出来なかった。
「英雄とか僕は興味がないので遠慮させていただきます」
治療を終えたカインはそう言い残し、スタスタとベロニカの下へと帰ってしまう。
呆然としたマルタとサーフェイスは顔を見合わせ、苦笑いしつつソドルスの治療に努める。
「あっ!カインやっと戻って来た、も~何処行ってたのよー!」
「気にしないでいいよ。それよりも勇者様とのお話は終わったの?」
「うん! いつまでも私だけお話するのも悪いしね。カインはこれからどうするの?」
「宴はぼちぼち終わりそうだし、厨房に戻って片付けを手伝うよ」
「じゃあ、一緒に行きましょ!私も手伝うわ」
こうして二人は厨房に向かい、賄いをつまみつつ片付けを済ませた。
♦♢♦♢
「……すまねえな、マルタ嬢。いやあ最高の時間だった。」
マルタとサーフェイスの治療により、カインが去った後すぐに目を覚ましたソドルスは満面の笑みを浮かべ今回の戦いの感想を述べる。
「貴殿程の方が敗れるなどと直に見ていても未だに信じられませんよ」
「出来ればカイン君には騎士団に入団して貰いたいですわ」
「彼は騎士などより、人助けや自由に行動が出来る冒険者があっているかもしれませんね」
「えーっ、それだと私達と肩を並べて戦えないじゃないですかー」
好き勝手にカインの将来を模索するマルタとサーフェイスはあーでもない、こーでもないと会話を続ける。そんな中、彼等の中心人物である勇者が近づいてくる。
「おーい、お前達、折角村の人達が美味いもん沢山作ってくれてるのにこんな所で何してんだよ」
勇者以外の三人は事の顛末を説明する。
「いや、爺さんいい歳して子供に喧嘩吹っ掛けんなよ」
「すまねえな。あの坊主の手を見たら手合わせせずには居られなかったのよ」
バトルジャンキーめ。と愚痴をこぼすマルス。
「それで、報酬とやらはどうするんだ?俺達の共有財産から出すのか?」
「いや、今回は儂の我儘だからな。儂個人の資金から出させてもらうぜ」
そうか、と納得したところで衝撃的な発言が飛び出す。
「ところでマルス。お前さん、暫くこの辺りで腰を下ろすつもりはねえか?」
「はっ?なんでこんな地方で足を止める必要があるんだよ」
「実はな……、儂、あの坊主……いや、カインに弟子入りしようかと思ってな」
「「「ハァァァァァァァァッ!!??!?!」」」
三者三用に驚く。唯我独尊を貫いてきて常に強い奴に会いに行くというスタンスを続けて来た男が弟子入りしたいと言い出したのだ。驚かずにはいられない。
「それカイン君は承知しているんですか?」
「いや、明日の朝にでも頼みに行こうかと」
「我々には魔王討伐という使命があるんですよ!?」
「だからこそ、より実力をつける為に弟子入りをだな」
「そもそもなんで弟子入りなんだよ? あんたの剣は我流剣術じゃなかったか」
「そこだ!あいつと打ち合いした時にわかった事なんだがな、奴は儂の剣を完全に模倣し、儂が未だ至っていない完成度で儂を打ち負かしたのよ!」
「これが熱くならずに居られるか? 儂は自身の剣は限界にまで研ぎ澄まされていると思っていた。だが、まだ先があった!そこへと至れるのならばジジイの頭なんていくらでも下げてやるぜ!」
自身の感じた事を熱く語るソドルスを見て、三人はそれぞれ自身の師匠の顔を思い浮かべた。
だからこそ彼の気持ちが理解できた。初めて自身が教えを乞いたいと思った相手に出会えた幸運と行き詰っていた道が導き出された喜びが。
「わかったよ爺さん、好きにしなよ。なんだったら俺も剣術を教わろうかな」
「ふっ、勇者様の実力が増すのなら王都にいる貴族連中も文句はないでしょう」
「私は治療に専念して、更なる魔法の向上に努めれますね!」
「感謝するぜ、オメエ等!」
マルス、サーフェイス、マルタ、ソドルスの順に言葉を紡いでいく。ここには確かに勇者一行の絆があった。そして次の日、カインの自宅へと訪れソドルスは頭を下げた。
「お願いします! 弟子にして下さい!!」
「お断りします、出口はあちらですよ」
速攻で拒否されていた。
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