プロローグ
連載版に切り替えました。
一応短編予定ですが、もし人気が出たら長期物に編集するかも。
「お願いします! 弟子にして下さい!」
「お断りします、そしてお帰り下さい。」
どうしてこんな事になったのか。
♦♢♦♢
僕の名前はカイン。平凡な村に住む12歳だ。
両親は幼い頃に魔物に襲われた僕を庇った傷が原因で早くに亡くなり、今は一人暮らしだ。
今日も日課である畑を耕していると、頭上から声を掛けられた。
「ねーねー、カイン~。私暇なんだけど~」
彼女の名前はシャルロット。長いピンク色の髪と蝶に似た半透明の羽が特徴的な女の子だ。
彼女は人間ではなく精霊だと本人(本精?)が語っていた。
シャルロット……いや、シャルは物心ついた時から傍に居てくれて、何故か僕にしか見えないし声も聞こえない。
出逢った頃は小さい光の玉だったのが、成長したのか掌サイズの妖精とも言える今の姿になり、現在は60㎝くらいの子供サイズにまで成長している。
両親が生きていた頃に聞いた時に訝し気な視線を受けてそれ以降他人に教えるのは辞めた。
時々シャルに話しかける姿を見られていて、村の子供達からは気味悪がられている事も知っている。
それでも大人達は両親を失ったせいだと気を遣ってくれて、こんな俺でも大事にしてくれている。
「シャル、僕はもう12歳なんだ。好き勝手に遊んでばかりもいられないんだよ」
「それは分かってるけどさー、それなら村を出て冒険でもしてみない? 冒険者って職業があるんでしょ?」
冒険者は12歳から認められており、平民の花形とも自由の象徴とも言われており、村の少年少女達が外の世界に憧れて村を飛び出すという話は珍しくない。
けれど、僕は村の外という物にあまり興味がなく、同じ年頃の子達が大好きな英雄譚なども大して凄いとも、そうなりたいとも思わなかった。
「そういうのは意欲に溢れてる連中に任せればいいだろ。僕は興味ないし」
「んも~、カインだったらぜ~ったい、最強! 無敵! 無双! なのに」
シャルは偶にこのように俺を持ち上げる事がある。僕は何処にでもいる村人だし所詮12歳の子供だ。
溜息混じりにザクザクと畑を耕していく。日が昇り、そろそろ昼休憩にしようとした時遠くから僕を呼ぶ声が聞こえる。
「お~い、カイン~。お昼一緒に食べな~い?」
走りながら声を掛けて来たのは幼馴染のベロニカ。
茶色い長い髪を片方に結っており、元気一杯な村の子供達の人気者だ。
この村の子供の中で唯一僕に話しかけてくる女の子で、彼女は冒険者に憧れているらしい。
「いいけど、他の子達もいるなら遠慮するよ。気分悪くさせたくないし」
「んも~、そんなんじゃ私以外に友達できないぞ! まぁ、いいや。一緒に食べよ!」
そういって僕達は木陰になっている所に腰を下ろして昼食を広げる。
「ねぇ、カイン! 今、村中で話題になってる話聞いた? もうじきこの村に勇者様が立ち寄るんだってー」
「ゴートンさんが言ってたあれか。本当だったんだ?」
「みたいだよ、どんな人達なのかな。楽しみ~」
この国、アインザート王国の最大宗教【ルーテル教】が信仰している女神フロティア様から十年前に神託が降り、当時一人の少年が選定されたという話らしい。
それ以降、伝説として語り継がれている職の聖女、賢者、剣聖も次々見つかったのだとか。
選ばれた人達の身分はバラバラで平民もいれば貴族もいるんだとか。
そんな話もあり、子供達の中では勇者ごっこがとても流行っている。
「ふーん、だからゴートンさんとカルラさん達は宴だって騒いでたのか」
「そうね、お父さん達大人はこんな時でもないと騒げないからって大はしゃぎだったわ」
話の流れからわかったかもしれないが、ゴートンさんとはベロニカの父親でカルラさんが母親である。
「確かこの村に来るのって三日後だっけ」
「そうよ、私達も宴楽しみましょうね!」
僕は不覚にも華が咲いたかのような笑顔がとても綺麗だと思った。
♦♢♦♢
――――あれから三日後、予定通り勇者一行が村に到着した。
「ようこそいらっしゃいました勇者様方。何分大した御持て成しは出来ませぬが、旅の疲れを癒して下さいませ。夜には広場で宴を開く予定ですので、楽しみにしていてください」
そう言って村長が勇者一行を一番大きな建物である村長の家へと案内し始めた。
村の子供達は初めて見た勇者一行を見て大興奮していた。
「すっげー! 本物の勇者様なんだー!」
「私聖女様とお話してみたいわ!」
「賢者様格好いい……。」
「剣聖様、俺に剣の稽古つけてくれねえかなー」
僕は特に反応を示さず、日課の畑仕事をしていた。
しかし、彼等がきてから何かに呼ばれているような感覚がして落ち着かなかった。
「なあ、シャル。なんだか凄く落ち着かないんだけど僕何か変なのかな」
「んー、そんな事ないよ? ただ村に来た人間達の武器がちょっと気になったかな」
シャルの言っている事がよくわからなかったので、そうかーと流し、作業に戻った。
夜中になり、村の広場では火が焚かれ、宴が行われようとしていた。
「カートス村の皆さん、俺達を歓迎してくれた事に感謝する。乾杯!」
『乾杯!!』
こうして宴が始まり、各々に用意された食べ物を手に取っていく。
僕は調理が出来るので、村の奥様方に交じり調理したり、配膳をしたりと忙しかった。
あれやこれやと作業を進めていくと、ベロニカが僕を呼びに来た。
「ねえ、カインも勇者様達のお話聞きに行こうよ!」
「僕はいいから、ベロニカは楽しんできなよ」
「いいじゃない、一緒に行きましょうよ~」
珍しくベロニカが引き下がらず、グイグイ来る。
見かねたのか、一人の奥さんが僕に彼女のエスコートを勧めてくる。
「カイン坊や、折角こんなお嬢さんが誘ってくれてるんだ。行ってきなよ」
「そうそう、ここはおばさん達に任せて楽しんで来なさいよ」
村の女性は強かだ。こう言われてしまうと流石に僕も無碍には出来ないので折れる事にする。
「はあ、分かったよ。行けばいいんでしょ、行けば」
「へへへ、やったー!」
調理場からずるずると引っ張り出されて、僕達は勇者一行が居る場所へと向かう。
特に何事もなく辿り着くと、僕達二人は自己紹介をした。
「こここ、こんばんわ!初めまして、ベロニカと言います!」
「こんばんわ、カインです」
ぺこりと頭を下げると勇者一行も挨拶を返してくれた。
「世話になってるぜ、勇者のマルスだ!」
「聖女マルタと申します。」
「賢者サーフェイスです」
「剣聖ソドルスだ」
「あああ、あの!私、冒険者に憧れていまして。もしよければ皆様の旅のお話でも聞かせて頂けないかと思いまして!!」
「僕は彼女の付き添いなのでお構いなく」
いいぞ!と笑顔で答えてくれた勇者に感動して、ベロニカは旅の道中の話を眼を輝かせながら聞いていた。僕はベロニカの様子を呆れたように眺めているとソドルス様が話しかけて来た。
「坊主は余りマルスの話に興味がないようだな」
「あー、そうですね。子供らしくないと言われる事もあります」
やっぱり僕は普通の子供とはどこか違うんだろうなぁ。
色んな場所や人を見て来た人に言われたんだし。
「そう気にする事もあるまい、むっ、悪いがお主の手を見せてくれぬか?」
「構いませんけど、何かありましたか?」
別に特に思う事もなかったので両手の掌を見せる。
「……坊主、お前さんかなり強えな?」
「何を言ってるんですか。僕は村人ですよ?剣聖なんて呼ばれてる方に認めて貰えるほど僕は多分強くないです」
僕の言葉に納得が言っていないのか、眉間に皺が寄っている。
僕達の様子が気になったのかマルタ様とサーフェイス様が近づいてきた。
「お二人共どうしたんですか?」
「珍しいですね、ソドルス殿が他人に興味を示すなんて」
二人の様子からみて、彼から話しかけられた時点で非常に珍しいようだ。
「坊主、儂のようなジジイが言うのもなんだが手合わせ願えねえだろうか」
「……何故かお聞きしても?」
心底嫌そうな態度で尋ねる。僕の頭に体を預けながら聞いていたシャルは物凄く楽しそうだ。後で〆よう
「お前さんの手には凄まじい鍛錬の跡が刻まれていた。今でこそ儂は剣聖なんて呼ばれているが、元は剣を振り回すしか能がなかった大馬鹿者よ。強え奴がいる、だから戦ってみたい。ただそれだけの事よ」
「なんだったら条件を付けてくれても構わねえ、坊主なら……そうだな、勝ち負けに関わらず金を寄越せとかでも構わねえ」
……お金を貰えるのは正直嬉しいな。勝てなくてもくれるって言ってるんだし。
「生活が楽になるのでその条件なら助かりますがいいんですか?」
「構わねえよ、今の俺でも勝てるか分からねえ相手と戦えるんだ、それだけの価値があるってもんだ。武器も心配いらねえよ素振り用の木剣が何本かあるからな。」
こくりと頷き、こっそりと人が居ない所へ移動する。
何故かマルタ様とサーフェイス様まで着いてきた。
「あの、なんでお二人までここへ?」
「立ち合いでしたら審判が必要でしょう。マルタ殿はソドルス殿がやり過ぎた時の治療係です」
うんうんと聖女様が頷いている。
溜息を吐きつつ、少し距離を空けてソドルス様から受け取った木剣を構えた。
「それでは、始め!!」
こうして、僕と剣聖の模擬戦が始まるが、この後、後悔する事になる。
何故なら僕は、世界最強の剣士と謳われる男に勝ってしまったのだから。
そして冒頭に戻る事になる。
読んで頂きありがとうございます。
面白かった、続きが気になるかも、と思って頂ければ
ブックマークや評価の☆部分を★をクリックして頂ければ励みになります。