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転生しましたが、どうしましょう?

息抜きに書いていました。

お楽しみいただけると幸いです。

続きはいつになるかわからないです。


 その本を初めて読んだのは、私がまだ小学生の頃だった。


 当時流行っていたネット小説の中でも、特に人気の女性向けライトノベル。出版社のコンテストにて見事大賞を受賞するや否や、とんでもない速度で小説化、コミカライズ、アニメ化、映画化……とにかくとても人気のあったものだ。


 ストーリーは結構単純。

 平民の女の子だった少女は、ある日突然王族の姫であることが明かされ、王宮へと誘われる。

 そこでありとあらゆる困難が起こり、義理の姉に嫌がらせをされたり、使用人全員から嫌がらせをされたり、挙げ句の果てに実の父である王にも冷たくされて…。でも、少女は持ち前の明るく優しい性格と、とてつもない幸運を武器にそれらに立ち向かい、見事幸せを手にする。

 ……というお話の中の、義理の姉である姫に転生してしまった主人公が、処刑される未来を回避するべく奮闘する物語だ。


 今でもそこそこ人気のあるジャンルの『悪役令嬢』ものだが、当時その小説が大人気になったのは、主人公の男前な性格によって巻き起こるドタバタ劇が面白かったから。原作小説は12巻まで続いたのだが、最後の最後まで楽しい物語だった。


 ──だから私は、悲しい時や不安な時、この小説を読む。


「はぁ……あした……いや、今日の朝は7時出勤かぁ……じゃあお風呂入って、二時間、寝る、のか……」


 だらしなく脱ぎ捨てたコートとバッグを玄関に放って、何とかお風呂に向かう。

 十分くらいで全部洗って、髪を乾かして──バッサリショートカットにしたのはこのためだ──そしてベッドに倒れ込んだ。

 眠らなきゃ。今日も仕事は沢山ある。

 体力がもたないとまた残業が増える。

 何もしなくても、むしろ上手くいっても増えるのに、これ以上はしんどい。

 ああほんと、なんのために私は生きてるんだろう。友達と最後に話したのいつだっけ。記憶が擦れてわからない。

 眠れない。薬はとっくになくなったし、病院に行く暇もない。

 仕方がないから今日もあの本を読む。


 全巻持っているけど、やっぱりお気に入りは第1巻。

 主人公が頑張って、それがすごく面白くて。


 でも……なんでだろう。今日はうまく、頭に入らない。

 いつも笑ってしまう場面も、ぼんやりして……わから、ない。

 クラクラする。頭の中がチカチカしてる。

 どうしよう、目が見えない。外は雨? 雷? 音も聴こえない。


 ──あれ?これ、やばくない?


 そう思った途端、私はプツっと意識を失った。



   ◇◆◇



「はっ!?」


 目を覚ました。

 鳥の鳴き声。明るい空。ふわふわと靡く風が部屋を通り過ぎていく。

 やばい、やばいやばい、これは完全に寝坊した!

 慌てて起き上がって、ベッドを降りて走り出そうとして……派手に転んだ。

「わあっ……!?」

 あれ。なんだろう。

 体が動かない。地面がすごく柔らかい。ふかふかだ。


 慌てて身体を起こして、途端真っ赤な床に驚く。

 どういうこと? こんな絨毯は知らない。見たことない。

 ハッとして部屋を見回すと、そこが自室でないことはすぐにわかった。

 というか、なんだこれ。ファンタジーに出てくるお姫様の部屋そのまんまだ。

 暫し呆然とした後、ふと私の体を見下ろす。


「……え?」


 な、何これ。私、こんなにつるぺた……じゃない、いや、それ以上に、小さくなってる? 手も足もちっちゃい。

 それと、胸元からお腹までを流れているこの金色の髪は……私の? え、マジで?

 引っ張ってみると頭がぐいっと動いた。あ、私のだ。


 本当に……どういう……ことですか……?


 脳内が現実を処理できず、私は再び倒れ込んだ。

 何が起こっているんだ。

 幽体離脱? 天国? 夢? 生まれ変わっ……ん?

 うまれ、かわ……転生……えっ、転生???


 いやこれ、本当に可能性があるかもしれない。少なくとも日本人の髪じゃないこれ。この部屋も、よく見れば木が殆ど使われてない。日本じゃないのは明らかだ。


 もう少しちゃんと動いて、調べなくては。

 そう思ってもう一度立ち上がろうとした時。


 バーーーーン!!!! と扉が開き。

「きゃぁぁああああ!?」と私が叫び。

「姫様あぁぁああ!?」と女性が叫び。


 次の瞬間、私はその人にギューッ! と抱き締められた。


「目を覚まされたんですね! よかった、よかったです、本当によかった……!!」

「あ、あの……」

「本当に心配したんですよ! ああ、ネルセリス様、感謝します……! ベッドに戻りましょう、姫様。すぐにお医者様をお呼びしますね!」

「へ、あっ、えっ」

「ヘレン!ヘレンはいる!?」


 あ、あ、と言っている間に、その人は部屋から飛び出していった。凄い、両開きのドアだ。

 そして私が寝かされたベッドは、なんと天蓋付きでフワッフワな……雲の上ってこんな感じなのだろうか。

 カーテンに隠された枕元には本とぬいぐるみが沢山ある。

 なんだろう、見た事のない文字の筈なのに、読める。なんだか難しそうな物ばっかりなんだけど、全部知ってる。本当に何がどうなっているのかわからない。


   ◇


 数時間後、私はようやく自分が転生していることを理解した。

 しかもただの転生じゃない。異世界転生だ。私の大好きな小説の世界に、私は転生をしたのだ。

 私の大好きな『悪役姫ですが、ハッピーエンドしか認めません!』の世界に。


 ──主人公の悪役姫として。


 気分は最悪です。

 なぜかって? 私はあの主人公が好きだからこの小説を愛読していたんです。私が主人公になってどうするんですか。どうせならヒロインの少女になりたかったです。

 今の私は姫……そう、この国の、たった一人の、姫です。


「リュミレイ・アウス・デル・アデレーディア……愛称は、リュミー……どうして……」

 絶望しかない。だって私は根暗ですから。

 すっごく、根暗ですから。


 小中高に大学、会社と過ごしてきた中で、本音で話した人はたったの二人の親友とお婆ちゃんのみ。それ以外は静かに、本を読みながら過ごしてた。

 ちょっとでも他の人と関わるのが怖かった。中学生の頃いじめられていたのもあるけど、それは拍車を掛けただけでそもそも暗かった。

 理由は、私がまだ四歳の時に両親が事故で亡くなったから。

 一人ぼっちになってしまった私を、お婆ちゃんが引き取って育ててくれたのだ。

 でもお婆ちゃんも私が大学生の頃に亡くなって、社会に出た時は既に天涯孤独。

 どうして生きているのかわからないといつも思っていた。

 それくらいにどん底に居続けた私が、あの主人公になれるわけがない。


 ああ、どうして、どうして……なんで私はいつも一人なんだろう?


 どんどん落ち込んでいっている私に、さっきとは違う女性が駆け寄って声をかけてきた。ギョッとして固まる。


「姫様! お身体の調子はいかがですか?」


「あっ……あ、え、と」


 いけない、言葉が出てこない。

 怖い。変なことを言ったらどうしよう。

 そこに颯爽と現れたのは助け船。


「ヘレン、姫様はまだ本調子じゃないみたいなの。お医者様がいらっしゃるまで、様子を見ていてもらっていいかしら? 私、チョコミルクを準備して来るわ。少しでも何か口にした方がいいと思うから……姫様、すぐに戻りますね」


「は、はい」


 私は今、ヘレンとアリアの二人の侍女に面倒を見てもらっている。ここのシーンは、小説の最初のところ。庭でお散歩していたら突然倒れたリュミーは、前世の記憶を思い出す。そしてこの会話から既にはちゃめちゃに……なってたのになぁ。


「姫様、顔色がとても悪いですね……。痛いところや苦しいところはありませんか? お熱は……まだ少し高いですね」

「あ、あの……大丈夫、です」

「……姫様……?」


 ヘレンがビックリしてる。うん、そうだろう。だってリュミーは小さい頃から我儘で癇癪持ちで高慢な、悪役令嬢ものにはよくある性格の悪い子だったから。

 こんな風におどおどする事なんて……ましてや、侍女に丁寧な言葉を使う事なんてありえない。小説では騎士口調になってて驚かれたけど、こっちは……うん、まあ驚かれてるのは一緒か。


 チョコミルクを持って来てくれたアリアにも、反射的にお礼を言って驚かれてしまった。でも騎士口調でなんて話せないし、リュミーの口調もよくわからない。

 脳に刻まれているはずのリュミーの記憶はあまりにも希薄で捉えられない。これはあの熱と関係がありそうだと思う。

 頼みの綱だった小説の中でも、回想シーンでしか本物のリュミーの様子は出てこなかった。


「姫様、やはりまだお加減が」

「大丈夫、です……ほんと、です……」

 ヘレンが、そしてアリアが困っている。申し訳なくて仕方なくて、消えてしまいたいとさえ思う。


「……アリア先輩、この事、陛下には……」

「一応、ギルバート様にお伝えしたわ。でも……」

 アリアの表情が曇るのも仕方ない。


 リュミーの実父であるリュシテリア・アウス・デル・アデレーディアは、別名『氷血の王』と呼ばれ恐れられており、その性格も文字通り血が凍りついた様に冷酷だ。

 彼は結婚しておらず、他人にはほぼ無関心。それは勿論、実の娘であるリュミーに対してもそう。

 彼が唯一側に置くのは、護衛であり最光騎士であるギルバート・アシュ・セレネーデのみ。


 リュミーの性格があんなになったのは、唯一の父からいないもののように扱われたのも原因だ。

 彼の気を引こうと派手に振る舞うが全く興味を持って貰えず……それで、特別待遇のような扱いで城に来たヒロインをいじめてしまうのだ。


 私の中にあるリュミーの記憶にも、父の存在はとても強く、鮮やかに刻まれている。

 詳しく回想されてなかったけれど、転生前のリュミーはその実父に処刑されるわけだから……ちょっと悲しい。

 小説では、主人公のドタバタに引き摺られるように家族としての絆を結び直す事になるのだけど、今は……。


「お父様は、その……忙しいと思いますし、本当に、大丈夫ですから……」

「……姫様……」


 ヘレンが何か言い掛けたが、遮るようにコンコンとノックの音がした。お医者様が到着なさったそうだ。


 どうしよう、もう、このままでもいいかな。


 だって私、自分に生きている必要性を感じない。

 小説の様なハッピーエンドじゃなくていい。

 静かに、穏やかに過ごしたい。


 もう疲れたんだよ。とっても疲れたんだよ。

 涙も出ないくらい、生きるのに、疲れたんだよ……。



   ◇◆◇



 結局、お医者様にも驚かれたけど他には異常はなかった。

 小説でもそうだったけど、リュミーは突発的な魔力の増加で気絶したと診断された。本当は前世を思い出したからで、それはおまけなんだけど、そういう事にしとこう。

 念の為数日は無茶な運動をしないようにと言われて素直に頷く。私は運動ができないからね。


 そのあと、湯浴みをしてご飯を食べて、寝た。

 寝ながら色々考えた。これからどうするかを。


 小説の主人公は、運動をしちゃダメだと言われても運動していたし、活発にここと王宮を行き来して、その結果リュシテリアに興味を抱かせる事になる。

 そりゃあ……お住まいに飛び込めば目につくだろう。

 でも冷酷な父を前にして、主人公は堂々と名乗るのだ。そしてゴリ押しでリュシテリアに自らの存在を認めさせる。

 ……やっぱりあの主人公、大好きだなあ。


 では、私はどうするか?


 結論を出すのは早かった。

 うむ。大人しく暮らそう。

 幸いまだリュミーは5歳の子供だし、人付き合いとかを考える必要もないと思う。本を読むのが好きなのは私も同じだから、お勉強を中心に活動して、あまり出歩かないようにしたいなあ。

 後のことはヒロインの子が来てくれればあとはなんとかなるだろうし。


 だから、私は処刑されるまでヒロインのフォローに回ろうと思う。今のうちから基盤を作っておくと良さそうな事はあるかなあ? まあできる範囲でやってみよう。


 うん、これでいいと思う。

 リュミー、ごめんね。私なんかが貴女をとってしまって、本当にごめんなさい。なるべく早く私は何処かに消えるからね。

 ああ、でも……1回だけでいいから、リュシテリアに会ってみたかったかもしれない。物語の中だとしても、父親というのを見てみたかった気がする。


 …………いや、ないな。多分気のせいだ。

 ごめんやっぱ無理今のなしで。想像したけど怖すぎる。



私が好きな悪役令嬢ものを書きたいなーと書いてみました。結果これは…悪役令嬢ものなんでしょうか…?

何はともあれ、お楽しみいただけたのなら嬉しいです。

お読みいただきありがとうございました。

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