1、2、3でおぼえるお菓子
春ははじまりの季節です。おだやかな光の下で、花がいっせいに、ほころびる季節です。
桜はきびしい冬をのりこえたので、春の花の中で、1番ほこらしげにさきます。
そんなあたたかな春の日のこと。
まだ町にオープンしたばかりの、あたらしいケーキ屋さんに、女の子がやってきました。
女の子は、ひとりできたようです。白いポシェットをにぎって、ケースの中のケーキ、たなにあるクッキーを、じっとみつめています。
「なにかおさがしですか?」
わかい店長さんが、女の子にたずねます。
「まいにち買えるお菓子を、さがしています」
女の子は、白いポシェットをひらきました。ポシェットの中にはお金がすこしだけ。
そのお金では、たったひとつのいちごのケーキだって、買えません。
ふくろづめのクッキーなら、ひとつ買えます。だけれど、まいにち買うことはできません。
「どうしたらいいですか?」
女の子は、しょんぼりがお。
店長さんは、うでをくんで考えました。
「いま、いくつ?」
「6才」
「6才ね。しょうしょうお待ちください」
店長さんは、お店のおくにいきました。
しばらくして、メモを持って、かえってきました。
「はい。これ、プレゼント」
店長さんはわらって、女の子にメモをわたしました。
メモには、こう書いてあります。
* * * * * * * *
《クッキーのつくりかた》 2~3まいぶん
(ざいりょう)
さとう、バター、こむぎこ、スプーンで1、2、3。
(つくりかた)
(1) きじづくり。ぜんぶジッパーぶくろにいれて、もみもみとまぜる。
(2) かたちづくり。できたきじで、おだんごをつくる。つぶして、ひらたくする。
(3) やく。170どのオーブンで、10~15ふん。
* * * * * * * *
「買えないなら、じぶんで作ればいい。このクッキーはかんたんだよ」
1、2、3で作れるよ、と、店長さん。
「店長さん。スプーンで1、2、3って、どういうこと?」
「さとう、スプーン1ぱい。バター、スプーン2はい。こむぎこ、スプーン3はい。1、2、3ってかんがえると、おぼえやすいでしょう?」
「……うん!」
「スプーンの上にできたお山は、すりきりで、つぶしたほうがいいかな」
「すりきりってなんですか?」
女の子はわくわくしてきました。
「オーブンから出すときは、やけどに注意。おうちのひとと、いっしょにやるんだよ」
「ありがとうございました!」
女の子は、お店のひとみたいなおじぎをして、ケーキ屋さんを出ていきました。
つぎの日のことです。
女の子はまたケーキ屋さんにやってきました。わかい店長さんが、女の子にたずねます。
「こんにちは。クッキーは作れましたか?」
「かたちは変になったけど、おいしくできたよ! さっくさくのクッキー!」
女の子は、にっこりえがお。
「でもここのクッキーは、もっとかりっとしているよね」
「うん」
「それにもっと、あまかった。だからね……」
女の子は、白いポシェットをひらきました。中から、とうめいのふくろに包まれた、1まいのクッキーを取りだします。
「バターよりさとうをおおくして、作ってみたの。これがそれ。バター、スプーン1ぱい。さとう、スプーン2はい。こむぎこ、スプーン3はいの、1、2、3の、クッキーです」
店長さんはくちぶえをふいて、女の子からクッキーをもらいました。
「わたしからも、プレゼントです」
店長さんはひとくち、クッキーをたべてみました。あまくて、かりっとしています。
「うん。お店のクッキーに、そっくりだ。おいしいね」
女の子のかおが、ほころびます。
「もっとじょうずに作れるようになったら、このお店で、はたらきたいです」
「そうか。じゃあ、楽しみにまっています」
女の子はあたらしいケーキ屋さんで、ふくろづめのクッキーを買って、おうちにかえりました。