(11)
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大きな音と衝撃と、どちらが先だったのだろう。
体は熱いのか冷たいのか判断がつかない。
「大丈夫か! 意識はあるか!」
知らない声が呼びかけている相手が自分だと気づくのに一瞬遅れた。霞みがかった視界。大きな交差点の中央で軽自動車がひっくり返っていた。
どういうことだ。
俺は一体どうなった。
……そうだ。
就職試験の面接の帰り道だ。施設に報告しようと思っていたんだ。
横断歩道が赤だから立ち止まっていたら、猛スピードで逆走してきた自動車と、信号待ちをしていた軽自動車が、交差点の中央で。
正面衝突して。
自動車が、宙を舞って。
俺の視界を遮って。
あれ?
俺は、どうなっている?
手をなんとか動かすと、ぬるりと温かいものに触れた。
見たことがある。これは、血だ。
そうか、俺は事故に巻き込まれたのか。
野次馬が事故の動画や写真を撮っている。俺も撮られているようだった。
晒されてしまうのだろう。以前の俺ならそうしていたし、自動車の運転手の個人情報を躍起になって拡散したにちがいない。
因果応報だとしたら完璧すぎて笑ってしまう。
走馬燈よりも先に、蘇ってきたのは忘れていた言葉。
『そうね。生きる価値が貴方にあるかどうか、わたしは知らないわ。だって、価値があるかどうか決めるのは、わたしじゃないから。わたしに言えることは、ただひとつ、それは貴方が決めることだということ。そしてそれは、死ぬときに決まるのだわ』
笑ってしまうな。
あんなに死にたがっていたくせに、いざとなるとこんなにも弱くなるなんて。
価値なんてどうでもいい。
今なら言えるというのに。
まだだめだ。
まだ、だめなんだ。
死ぬわけにはいかない。
救急車のサイレンが遠くできこえる。
視界が暗くなっていく。音が遠のいていく。意識が、朦朧としてくる……。
次に目が醒めたとき、俺は生きているんだろうか。
なぁ、
了




