炎熱賛歌、斯くて少女は紅蓮に染まる
「プキョ!?ホアチャー(ドンガラガッシャン)キィエーー」
↑
(年賀状を印刷する為にプリンターと喧嘩した音)
暫くここで泊めてもらえる事が分かったところで、お爺さんから提案があった。
「して ナライ殿、細かい相談は後にして昼食に致しませんか?」
確かにもう昼過ぎだ。
昼食には丁度良い時間帯だろう。
「それもそうですね、ではご一緒させて頂きましょう」
実は結構お腹がすいている。体が糖分を、カロリーを求め始めてる。
よく考えてみたら昨日の昼に生徒のお母さんからの差し入れの漬物以外は
何にも食べてなかったなあ………しっかし底に入っていたみかんの漬物は一体
何だったんだろう?恐ろしいから手を付けてなかったけど、塾長が食べてて
くれないかな〜。(悪意)
◆
「……………」
食堂で昼食をご馳走になった。テーブルマナーは姉さんに結婚式に連行された
時に叩き込まれたから見てくれだけは形になってたと思う。味の感想は……うん、
美味しかった。でも何処かで食べた味だったような……?
「いかがでしたかな ナライ殿?」
お爺さんが味の感想を聞いてきた。そこでふと重要な事を思い出した。
「大変 素晴らしいものでした…ところでここに鍛錬に使えるような誰の迷惑にも
ならない広いはありますか?」
今の僕にはとんでもない爆弾が引っ付いている。それは魔法……。
今までの経験上、外付けの力は使う事はあっても自前の力を使う事はなかった。
それは そもそも使えなかったからであり、許さなかったから……
こればかりは複雑な事情があるが今は関係のない事だ。
それ故に今回の事件はイレギュラー中のイレギュラーである。
碌に把握もしていない力を不用意に振るうのは危険極まりない。
従って、安定した現状で自己の実力を把握する必要がある。しかし、だ
馬車での一件で魔法を発動して気付いた……オーバースペック過ぎる。
仮にだ、スキル単品のみでの僕の戦闘力を5とした時、俺への切り替えで
10になる。そしてそこに魔法要素が加われば推定で100か……測定不能。
理由がいくつかあるがその最たるものは、自身の汎用性の高さと火力である。
それは食事中に【教育者】の適正診断で自身事を調べて分かった事だ。
その内容は………
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魔法適性:火、水、土、風、爆、氷、鉱、雷
技能適性:全対応
職業適性:取得済み
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大体の内容は分かったけど……異常だ。一歩間違えれば取り返しのつかない事に
なってしまうだろう。恐らくだが、核弾頭……それこそ広範囲殲滅を引き起こす
現象は引き起こせるのやもしれない。例えば土属性で粉塵を操って小麦粉の様に
粉塵爆発を引き起こしたり、雷属性で電気分解を行い、水を水素と酸素に分けて
大爆発を引き起こしたり………。魔法の範囲指定や対象選択技能 次第だろうけど
不可能ではない時点でもう既に恐ろしい。事故が起きそうだし………。
結局は危険なのである。従って今の内にリミッターを掛ける事にした。
その為に今の全力を把握する必要があるので、多少周囲が荒れてもいい場所を
探しているという訳だ。
「それでしたら屋敷の」
お爺さんの有り難い提案の途中に乱入者が現れた。
「旦那様!」
金髪メイドの美人さんだったが、どうにも様子がおかしい。
というか最近よく似た光景をみたよ……。焦ってるな………。
「どうしたのだ コリナシア?」
お爺さんが優しく問いかける。するととんでもない答えが返って来た。
「ドド、ドラゴンが」
はいぃ〜?
「ドラゴンだと!?」
ドラゴンと言えば……金になって、経験値になって、そこそこオイシイ
モンスターとは姉さんの経験談。実情はデカイ、賢い、ウザい、何の得にも
なりはしないし放蕩し尽くしてやっとで倒すか、強力な使い手が一撃で仕留める
二重の意味で理不尽な化け物。それが僕の認識である。特に西に行く程その傾向
が強くなり、逆に東に行けば水神様として祀られているので、無害になる。
そもそも持ち上げとけばチョロくて扱いやすい のでそんな爆弾に関わるよりは
人間相手にしてた方がまだ楽である。
「ドラゴンとは、どれ程強いのですか?」
中南米で先輩がドンパチやった時は5000万ぐらい注ぎ込んでやっとの思いで
討伐出来たらしいけど、こっちの基準がイマイチ分からない。あのハイエナもどき
だって条件次第では切り札を使う必要があったから、危険度を調べておかないと
後々がマズイ事になりそうだし……。
「ナライ殿が倒された死獣喰らいのおおよそ500匹分です」
あのハイエナもどき500匹……推察するに一個師団級ってとこか。
「成る程、成る程、分かりました」
よかった、ちゃんと倒せるって事は法則適応してくれるんだ。どこぞの
大妖怪みたいに物理無効化したり、エネルギー吸収をノーリスクで容易く
やってきたりした挙句、周囲に近づいた生物を強制的に弱体化して自分を
強化する変態生物ではないんだなあ………ユーラシア大陸行かなきゃよかった。
お嬢が中国四千年の歴史を探しに行こうとか言って突っ込んで行ったのを
迎えに行ったら夏休みの殆ど費やしてサバイバルになったのはいい思い出?
まあ、流石に一昼夜ぶっ続けでお嬢を抱えて走り回ったのは笑えなかったけど
しかも後ろから謎の妖怪が追っかけてくるわ、奥地に引っ込んで呪術勢力が
出て来るわで夏休み終わっても帰れなかったけど…………。
結果として先輩が大枚叩いて窮地を救ってくれたので、苦労が全て無意味に
なって、半月程 弁当を作ってやらなかった。あの人は本当にやらかしてくれる。
閑話休題
「それではそのドラゴン、事の次第によっては燃やし尽くしてもいいですか?」
ハイエナもどきの一件で素材としての価値があると分かった以上、全力を
以って攻撃すれば物理的に骨すら残らない可能性がある。従って利益を得る
かもしれないお爺さん先に断りを入れておくのは筋ってもんだ。
「……街が無事なら」
よくよく考えてみたらこの街にドラゴンを単独で撃破可能な戦力は
俺くらいなものだろう。個の戦力で俺を凌駕するにはそれこそツワリボンバーを
大量投入しなければならないだろうから……。
「感謝します」
幾ら程の価値かは知らないが街の安全、引いては私の教育の邪魔は排除する。
◆
間借りしている寝室に白衣を放置し、コートを着込んで準備を整えた。
念のために切り札を万全な状態で使用出来るよう、まともな剣を借りておく。
曲刀ではないのは残念だったが一定の基準を満たしていればOKである。
実のところ刀剣類は重いので振り回すのは疲れてしまう。だが背に腹はかえられ
ない、一本しかない木刀をへし折る気にはなれないのだから。
そうして手早く準備を済ませ、ドラゴンが現れた現場へと急行した。
馬車での移動なので街中を程良いスピードで進んでいる。のんびりしているのは
ドラゴンは動きを見せる様子はないらしい。何かを待っているのかしれない。
「そこそこの大きさですね……」
約3メートルの巨体を持つ竜、翼はもっと大きいかもしれないな〜。
「いえ、ナライ殿……アレは竜王級の大きさですぞ」
「そうですか……竜王というのは案外 弱いのですね、昔 戦った蛇より
弱そうです」
近畿の辺りに封印されていたヤマタノオロチの分体より弱そうだ。
あれは毒系統最強の存在で毒ブレス、脱皮、高速機動etc……
生き残るだけで精一杯だったけどあれに比べたら十分勝機はある。
「それは頼もしい限りですな」
「それでは先手を取っておきましょう」
ボス戦前の準備は今がベストだし……。
「炎火と烈火と劫火を讃歌、燃やせや燃やせ彼岸に送れ、力は茎に、
事象は花に、焔宿りて華剣と為す、彼岸花火を纏い給え」
今回も詠唱を行う………そもそも詠唱自体はオリジナルではないのである。
元の世界で使われていたものに少し手を加えて流用している。即興で詠唱を組み
立てるのはブラフで言う事が頻繁にあったので覚えていた……。厨二臭いのは
いかんせん諦めるしかない……羞恥心とは姉さんのオモチャになった時点で
おさらばしている。
余談だが、元の世界での魔法は祈りの側面が強い。神さまやそれに準じる
存在に言葉を捧げ、認められれば物理法則を超越した事象を引き起こせる。
なので、神楽や祝詞は勿論の事、強大な感情でも神届きさえすれば魔法を引き
起こせるのである。まあ、俺には資格が無かったし、ほんの少し
だけあった分もお嬢にあげちゃったし……。それはどうでもいいか……。
「言霊、言霊、繰りましょう、紅き焔は蒼となり、華は蕾に戻し置く、
起こしの言の葉、”飛燕”に定め、華咲く時を待ち給え」
今回も二段構えの仕掛けである。一度目の魔法で借りた剣に火を付与し、
二度目の魔法で一度目の魔法を強化すると同時に待機状態に移行させる。
本来なら、四重に重ねた魔法を使えればよかったのだが、街に被害が及ぶので
気が進まない。擬似噴火を起こせば火山灰が吹き荒れそうだし……。
「…………五重属性」
お爺さんの方を見ると目を丸くして呆けていた。ボケたのか?
「失礼ですがナライ殿は一体いくつの属性をお持ちで?」
ここで手の内を明かしても特にデメリットないし……問題ないか。
「8つです」
多分、平均的な属性は4つ以下だろう。もう何を差し向けられても返り討ちに
出来るからというのが理由の八割で、残りの二割はその内バレるからである。
「八重属性……ほぇえ」
お爺さんが驚きのあまり気絶した。そんなに驚くなら聞かなければよかったのに
「従者の皆さん、アウグスト殿をお屋敷までお願いします」
周囲に隠れていた人達を呼び出す。中々に優秀だけど護衛術の前に尾行術を
勉強し直した方がいいと思う。ただでさえドラゴンの襲来で人が慌ただしいのに
足下が疎かになっていないから、馬車の中からでも分かった。
「……御意」
優秀だなあ、お嬢の執事かつメイド兼子飼いよりもよっぽど……
あそこの忍ばない忍者、もといNINJAはどうしてC4を投げつけるしか
能がないのだろう……やたら命中率が高いのは摩訶不思議であるが。
それでも掃除洗濯家事炊事、以下略はよく出来ているのでいいんだけど……
でも、年末にバイト称して強制的に拉致られるのは御免被りたい。
朝から晩まで働いて、その上貞操の危機とか給金良くても釣り合わない。
俺は受け属性ではない…断じて!
閑話休題
「………さてと」
めっきり人気のなくなった町外れにドラゴンはいた。
その竜が見つめるのは街の上空、成る程、そう言う事か……それならば
「異能剣術 壱ノ型 飛燕ッ!」
俺が剣振り上げると竜の隣を彼岸花を象った花火が炸裂する。
「竜爪技 讐霜烈塵ッ!」
同時に竜が俺の背後を狙いその巨腕を振り下ろす。すると、小規模の圧縮された
爆発が街の上空を通り過ぎていった。
そして竜の隣には俺が木っ端微塵にした黒い生物……悪魔の欠片が降って来た。