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日常系短編小説

信じて送り出した旦那がハゲて帰ってきた話

作者: マキザキ


 ついに完成した。俺だけの秘密基地。

 釣り人仕様に改造した軽ワゴン車が、銀色の塗装も鮮やかにガレージに鎮座している。

 隣に並ぶ嫁のコンパクトミニバンに比べれば華はないが、まあ、趣味車としては上出来だろう。

 後部座席は完全に倒し、専用のフラットシートを敷き、天井にはロッドホルダー、荷台側面には木製の棚を搭載し。追加バッテリーや水タンク、簡易保冷庫も設置した。

 さらに、折り畳み式ベッドクッションも積んでいるので車中泊まで出来てしまう。

 

「まったく……。パパってば無駄遣いして……」


 嫁は悪態をつきながらも、息子と娘がドアを開けたり、荷台のベッドに横になったりと興味津々な様子を見ながら、笑みを浮かべている。


「パパー! わたしたちどこに乗るの~?」


 助手席の足元を占有する車載冷蔵庫を見て、娘が疑問を投げかけてきた。


「この車はパパだけの秘密基地なんだよ~」


 と、意地悪っぽく返すと、「ズルい~! ズルい~!」と、子供たちの合唱が始まった。


「意地悪なパパは放っておいて、ママの車でお出かけしようね~」


 妻に連れられ、子供たちは映画を見に出かけて行った。

 後部座席と助手席から思い切り「「ベー!」」とされてしまったが……。

彼らから受けた汚名を返上すべく、俺はワゴンに乗り込み、イグニッションスイッチをグイっと押し込んだ。




■ ■ ■ ■ ■




以前、仕事中に通った、小さな川の河口。その横に広がる防波堤、堤防。そして河口部に点在する岩場。いかにも魚が釣れそうなロケーションだ。

海を背に、車をバックで付け、バックドアを内側から開ける。

ベッドクッションを荷台の際に置けば、全天候型釣り座の完成である。

天井の釣り竿を取り出し、ナツメ型錘と釣り針を付けただけの簡易な仕掛け、いわゆる「ブッコミ仕掛け」を結びつけ、サンマの切り身を針に刺す。

あくまでも俺のカンだが、この釣り場はカサゴ、ソイといった「根魚」や、ヒラメ、マゴチといった「底モノ」の魚影が濃そうである。

そういう場所では、魚肉系の餌が効果を発揮するのだ。

 バックドアや、ボディーに擦らないように、下手投げで仕掛けを投入し、竿の穂先に鈴をつけ、スマートフォンで曲をかけ、漫画を読みながらゴロリと横になる。

 横になって、リラックスしながら釣りができるなど、夢のようである。

 窓を開けると、初夏の爽やかな風が心地よい。


『ピロン』という音が鳴り、スマートフォンを手に取ると、妻から


『期待して待ってます』


 との一文が飛んできた。

子供と一緒に舌出しておいてよく言うよ。と、苦笑しつつ、妻の信頼に応えるべく、俺はアタリを待った。




■ ■ ■ ■ ■




「わーい!! パパすごーい!」

「おっきいお魚!」


 クーラーボックスから取り出された40㎝級のマゴチに興奮する子供たち。

妻もまた、「ねー。パパ凄いねー」と、子供たちと一緒に魚のヒレを広げたり、口を開けたりして遊んでいる。

妻は、そのマゴチを手際よく捌くと、昆布とトマト缶で味付けした、マゴチのトマト煮を作ってくれた。

これがまた旨かった。


「流石は元釣女。魚料理はお手の物だなぁ!」


 と、褒めると、妻はニヤリと笑い。


「パパが鱗とエラと内臓取ってくれてたから捌くのが楽だったわ。アナタ少しオデコ広がったんじゃない?」


 と言ってきたので。俺は、


「帰りにスーパーで育毛剤買ってきたよ」


 と、返した。


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